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白夜の奏でる音  作者: 月原 悠


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13/15

新天地にて――3

アイリは、乞食からもらった花の香りに浸っていた。

それは小さな喜びにすぎなかったかもしれない。

しかし、余韻は長くは続かなかった。

やがて彼女は、貧しい暮らしの中に身を置くことになった。


老人の家では、粗末な料理が続いた。

毎日、黒パンとスープのみで、ひもじい思いをした。

アイリはそこで初めて、

自分がどれほど裕福な暮らしの中で育ってきたのかを知り始めた。


急に家が恋しくなった。

後戻りはできないと思うと、胸がざわめいた。

それでも、アイリは自由を得たことに後悔はなかった。


就いた仕事はどれもうまくいかなかった。

育ちの良さが、かえって彼女を不器用にした。


かつて輝きを見せていたドレスも、少しずつ色あせてきた。

ドレスの花柄も枯れていった。

それは、アイリの胸にも暗い影を落とした。

不安は次第に募っていった。



一方で、タピオとクランは出会った女性の屋敷に招かれた。

女性はルージェと名乗り、知性と美貌を持っていた。

その情熱的な眼差しが、タピオには強く印象に残った。


ルージェは使用人に命じて、二人の部屋を用意させた。

それは、今までに見たこともないような立派な部屋だった。

そして毎日、食卓には湯気の立つ肉料理が並び、

香草の香りが部屋に満ちていた。


夜になると、タピオとクランはルージェの前で歌を披露した。

タピオには、彼女の眼差しがどこか熱を帯びて見えた。

そしてルージェもまた、タピオの柔らかく透き通った歌声と、

そのやさしさに心を奪われていった。


ルージェはタピオとクランに豊かさを与えた。

二人は、その世界に少しずつ心を許していった。

それでも、タピオはアイリのぬくもりを忘れることがなかった。


その夜、ラヌアの空には白い雲が静かに流れていった。

誰も知らぬまま、二人の歌は別々の方角へ向かい始めていた。

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