新天地にて――3
アイリは、乞食からもらった花の香りに浸っていた。
それは小さな喜びにすぎなかったかもしれない。
しかし、余韻は長くは続かなかった。
やがて彼女は、貧しい暮らしの中に身を置くことになった。
老人の家では、粗末な料理が続いた。
毎日、黒パンとスープのみで、ひもじい思いをした。
アイリはそこで初めて、
自分がどれほど裕福な暮らしの中で育ってきたのかを知り始めた。
急に家が恋しくなった。
後戻りはできないと思うと、胸がざわめいた。
それでも、アイリは自由を得たことに後悔はなかった。
就いた仕事はどれもうまくいかなかった。
育ちの良さが、かえって彼女を不器用にした。
かつて輝きを見せていたドレスも、少しずつ色あせてきた。
ドレスの花柄も枯れていった。
それは、アイリの胸にも暗い影を落とした。
不安は次第に募っていった。
一方で、タピオとクランは出会った女性の屋敷に招かれた。
女性はルージェと名乗り、知性と美貌を持っていた。
その情熱的な眼差しが、タピオには強く印象に残った。
ルージェは使用人に命じて、二人の部屋を用意させた。
それは、今までに見たこともないような立派な部屋だった。
そして毎日、食卓には湯気の立つ肉料理が並び、
香草の香りが部屋に満ちていた。
夜になると、タピオとクランはルージェの前で歌を披露した。
タピオには、彼女の眼差しがどこか熱を帯びて見えた。
そしてルージェもまた、タピオの柔らかく透き通った歌声と、
そのやさしさに心を奪われていった。
ルージェはタピオとクランに豊かさを与えた。
二人は、その世界に少しずつ心を許していった。
それでも、タピオはアイリのぬくもりを忘れることがなかった。
その夜、ラヌアの空には白い雲が静かに流れていった。
誰も知らぬまま、二人の歌は別々の方角へ向かい始めていた。




