新天地にて――2
アイリは乞食を見て、心が震えた。
あれほど薄汚れた姿を目の当たりにしたのは、初めてだった。
乞食は、よろめくような足取りでアイリの方へ近づいてきた。
彼女は全身の震えが止まらなかった。
やがて、乞食はかすれた声で言った。
「どうか、パンをひとつだけください」
彼女は思わず、自分が身につけている宝石のアクセサリーを差し出した。
乞食は涙を流して喜んだ。
そして、何度も頭を下げると、噴水のそばへ戻っていった。
恵まれた暮らしの中で育ってきたアイリには、
その姿があまりにも痛ましく思えた。
胸の奥が、ひどく疼いた。
アイリはしばらく、乞食を見つめていた。
目が合うと、乞食はあたりを見渡し、
噴水のそばの花を一輪摘んで、アイリへと差し出した。
北風さえ、やわらかく感じた。
一方で、タピオとクランもラヌアに到着した。
その日は、激しく雪が降りしきる日だった。
いつになく、二人は凍えた。
クランはぽつりとつぶやいた。
「兄さん、どうして、
僕たちはこんな寒い日も外で過ごさないといけないのかな」
その言葉がタピオの胸にも冷たく沁みた。
「そうだね。宿屋で過ごせればいいけど、
僕らは貧しいからね。泊まるお金すらないよ」
「どうして、神様は僕らに、こんな貧しい暮らしを与えたんだ」
「仕方ないよ。それが運命というものさ……」
二人は自らの貧しい生活が、いつになく辛く感じられた。
また、その日は歌って稼ぐことすらできず、
食事すらままならなかった。
「兄さん、ひもじいな」
「そうだね。せめて、パンひとつでもあればね」
そんな時だった。
トナカイの軽やかな音が二人の耳に届いた。
トナカイには若い女性が乗っていて、二人の前で止まった。
そして、二人に話しかけた。
「どうしたの、こんなところで? 寒いでしょ」
「はい、でも、僕たちは歌い人ですから、仕方ないのです」
「あなたたちは吟遊詩人ね。よかったら、私の家で歌ってちょうだい」
二人は神にもすがる思いで、申し出を受けた。
「ありがとうございます。そうさせてください」
やがて、タピオとクランは女性の家に着いた。
そこは大きな屋敷だった。
二人に温かな風が吹いた。
しかし、それは吹雪の始まりでもあった。




