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白夜の奏でる音  作者: 月原 悠


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12/15

新天地にて――2

アイリは乞食を見て、心が震えた。

あれほど薄汚れた姿を目の当たりにしたのは、初めてだった。


乞食は、よろめくような足取りでアイリの方へ近づいてきた。

彼女は全身の震えが止まらなかった。


やがて、乞食はかすれた声で言った。


「どうか、パンをひとつだけください」


彼女は思わず、自分が身につけている宝石のアクセサリーを差し出した。

乞食は涙を流して喜んだ。

そして、何度も頭を下げると、噴水のそばへ戻っていった。


恵まれた暮らしの中で育ってきたアイリには、

その姿があまりにも痛ましく思えた。

胸の奥が、ひどく(うず)いた。


アイリはしばらく、乞食を見つめていた。

目が合うと、乞食はあたりを見渡し、

噴水のそばの花を一輪摘んで、アイリへと差し出した。


北風さえ、やわらかく感じた。



一方で、タピオとクランもラヌアに到着した。

その日は、激しく雪が降りしきる日だった。

いつになく、二人は凍えた。


クランはぽつりとつぶやいた。


「兄さん、どうして、

僕たちはこんな寒い日も外で過ごさないといけないのかな」


その言葉がタピオの胸にも冷たく()みた。


「そうだね。宿屋で過ごせればいいけど、

僕らは貧しいからね。泊まるお金すらないよ」

「どうして、神様は僕らに、こんな貧しい暮らしを与えたんだ」

「仕方ないよ。それが運命というものさ……」


二人は自らの貧しい生活が、いつになく辛く感じられた。

また、その日は歌って稼ぐことすらできず、

食事すらままならなかった。


「兄さん、ひもじいな」

「そうだね。せめて、パンひとつでもあればね」


そんな時だった。

トナカイの軽やかな音が二人の耳に届いた。

トナカイには若い女性が乗っていて、二人の前で止まった。


そして、二人に話しかけた。


「どうしたの、こんなところで? 寒いでしょ」

「はい、でも、僕たちは歌い人ですから、仕方ないのです」

「あなたたちは吟遊詩人ね。よかったら、私の家で歌ってちょうだい」


二人は神にもすがる思いで、申し出を受けた。


「ありがとうございます。そうさせてください」


やがて、タピオとクランは女性の家に着いた。

そこは大きな屋敷だった。


二人に温かな風が吹いた。

しかし、それは吹雪の始まりでもあった。

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