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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

告白

作者: 葵麻智香

2024年9月にX(旧Twitter)で行われた『BL超短編企画』への参加作品に加筆訂正を行いました。

お題「残暑、告白、好きだったのに」


二十歳未満の飲酒シーンがありますが、日本では法律で禁止されています。

 初めてその告白を聞いたのは、残暑の厳しい夜の公園だった。まだ酒の飲める年齢ではなかったが、俺たちはとにかく背伸びしたい年頃だった。俺は冷蔵庫から親父のビールを一缶だけ拝借し、二人でしめしあわせた時間に、寝静まった自宅からこっそり抜け出した。

 無事に暗い公園で会えた俺たちは二人でハイタッチし、見つからないように小声で笑い合った。ここは小さい頃は二人で泥だらけになって遊んだ公園だ。二人でニヤニヤ笑いながら、街灯の下のベンチでビールのプラトップを開けた。


「乾杯!」

「苦、まず」

「おれも……マズ!」


 二人ともそう言いながら大人を出し抜いた気持ちよさで大笑いした。夏の夜の街灯の近くは、羽虫が寄ってくる。だがその不快ささえ楽しかった。アルコールなど飲んだことのなかった俺はすぐに酒が回り、そのまま公園のベンチでウトウトしてしまった。


 その時にこいつは俺に言ったのだ。とても小さな泣きそうな声で「好きだよ」と。

 その時俺は眠くて眠くて指先一つ動かなかったことをいいことに、聞かなかったフリをした。


 あれから、お前はオレが酔って寝ると、必ず好きだよと掠れた声で言う。時には愛情深く。時には泣きそうな声で。


 社会人になってからも俺はずっとその告白を聞かないふりをしている。だって聞いちゃったら面倒そうじゃん? 何年か会社で働いたら嫁さんもらって子育てするのが、スタンダートな生き方ってやつだ。いまは給料も低くて、物価は高いしそれもできるかはわからない感じだけど。でも主流として用意された道をいくのが、効率的な生き方ってやつでしょ? 職場では新人でも常にマルチタスクを求められていて、そこに職場の複雑な人間関係も絡んできてうまく立ち回らなければならないから、俺はそれをこなすのが精いっぱいだ。わざわざマイノリティな生き方を私生活でやるエネルギーはないよ。なぁお前も状況は一緒だろ? だったら聞かないふりは、お前のためでもあるよな?

 俺はお前の告白を聞くたびに、そんな風に自分に言い聞かせている。


 だから俺は、お前のことを幼馴染で高校も大学も一緒の腐れ縁の親友だと言いながら、居酒屋で安酒を飲んでは肩を組む。お前の好意を受け入れるキャパは俺にはない。でもお前と一緒だととても楽しいから、手放せない。ほらなんかこういうのソウルメイトとか言うんじゃなかったっけ?


 幼馴染で大学まで一緒だったけど、就職先はさすがにお前と俺は別だった。でも住んでいるのは同じ町だし、休みをみつけてはお互い一緒にカラオケや遊びに行く。俺はお前とのこの距離が一番心地良くて、変化は望んでいないんだ。


 今夜もまたお前の部屋で発泡酒とつまみを買い込んでの宅飲みだ。トロトロとした酩酊感が心地いい。寝落ちる寸前に告白を聞いた。いつも通りなにも反応せずに俺が卑怯な眠りに落ちようとした時だった。


「ほんとは起きてるんだろ」


 肉体労働についたお前の手は、学生の時とは違いここ数年で節くれだっていた。その硬いタコのある手が俺の喉に回った。喉のもろい場所に添えられた手はアルコールのためか、ひどく生温かかった。酩酊していた俺はとっさに動くことができなかった。はらりとお前の前髪が落ちる。その様子がとても煽情的だった。

 学生のころには持っていなかった狂気をお前は目に浮かべている。

 喉にかかる手に力がこもる。息ができない。


(お前、むかしは涙目で好きだって言ってたのにな)


 ずっと気の置けない唯一無二の大親友だった。あぁ、俺はどこで間違えたんだろうな?

 お前はドスのきいた声で言った。


 「オレは本当にお前のことが好きだったのに」

お酒は二十歳になってから!

もちろん殺人は飲酒より重罪です。

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