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ピンクブロンドの男爵令嬢ですが乙女ゲームなんて知りません  作者: もーりんもも


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8/13

8 教科書を破られました

 入学して一月(ひとつき)も経たないうちに、私が貴族令嬢らしからぬ女子としてクラスみんなに認知され、仲間として受け入れられた。

 授業はそれほど厳しくなく、真面目に聞いていれば理解できる内容だった。


 すっかりこの学園にも慣れたと油断していた。

 午後の授業で使う教科書を机の上に出したまま昼食を取ってしまったのだ。

 ルイーザと二人で教室に戻ると、他の生徒たちが私の席を囲んでガヤガヤと騒いでいた。


「どうかした?」


 背中を向けていたみんなが一斉に振り向いた。


「……ヘンリエッタ」


 その内の一人が目に涙を溜めている。

 何事かと思ったけれど、その子越しに自分の机が見えたので理解した。

 教科書がズタズタに切り裂かれている。

 おやまあ。

 こんな子どもっぽい嫌がらせをするなんて……。


 いつの間にか廊下にも人だかりができている。その中の一人と目が合った。

 ……なるほど。犯人は現場に戻って来るっていうもんね。


 それにしても、切り裂く行為というのはいくらなんでも過激過ぎる。こんな手段を思いついちゃ駄目だよ。

 まだ私が王子に言い寄っていると誤解しているのかな……。

 私の行く先々に現れて一方的に話しかけて来るのは王子の方なんだけどな。


「これは一体、どういうことだ!」


 えぇぇ、どうして一年の教室に三年生の彼らがいるの?

 王子が側近二人を引き連れて仁王立ちしている。

 これで穏便に済ませることはできなくなった。


「どういうことかと聞いている! なぜヘンリエッタ嬢の教科書がこのようにボロボロにされているのだ!」


 被害にあった身だけれど、クラスのみんなにお詫びしたい。


「殿下」

「なんだい? 僕が来たからにはもう心配いらないよ」

「はい。ありがとうございます。それでは、損害を弁償していただけますでしょうか」

「……ん?」


 王子は大口を叩いたわりには頭が回っていないらしい。


「私の所有物である教科書が破損しています。学園に忍び込んだ何者かの仕業によるものと思われます」

「学園に忍び込んだ者?」


 王子が馬鹿みたいに鸚鵡返しをする。


「はい。この学園に通う生徒は、国王陛下の御名の元に集められた者たちです。皆、卒業後はこの国を背負うのだという自覚を持って、互いに切磋琢磨しながら成長していくことを入学式で誓いました」

「あ、ああ、そうだったな……」


 新入生代表の挨拶を聞いていなかったようですね。


「先輩方もきっと同じだと思います。ですから、私たち生徒の中に、このような不埒なことをする方などいらっしゃるはずがありません。きっと警備の目を掻い潜って潜入した不届き者の仕業だと思います」

「あ、ああ……ん?」


「私は反体制派の仕業ではないかと睨んでいます」

「なんだと!?」

「そして、生徒の中にも反体制派を支持する者がいるのではないかと」

「そ、そんな馬鹿な……反体制派……?」


「『ない』と言い切れるでしょうか? これだけ多くの生徒がいるというのに、目撃情報がないのです。名乗りでないということは、反体制派を支持しているということではないでしょうか。もしかしたら、国王陛下が推進されている教育制度に異議を唱えるために、学園で問題を起こそうと画策したのではないでしょうか」

「そ、そんな……まさか。いや、その。教科書一つでそこまで――」


 念の為もう少しだけ畳みかけておこう。


「殿下! 事の大小は関係ないと思います。もし陛下の銅像の小指が折られたとしたらどうでしょう? 『たかが小指だ。捨ておけ』となりますか?」

「まさか! 許されるはずがないであろう!」

「そうですよね。殿下。あの日――入学式で殿下は約束してくださいました。『この王立学園は、身分に関係なく全生徒が平等に学ぶことができるところだ。臆することなく伸び伸びと学園生活を楽しんでほしい』と」


 王子はきょとんとしている。

 自分が何を言ったか忘れているようですね。

 スピーチ原稿は他人に書かせたのですか。まあ合衆国大統領もそうですもんね。


「それなのに不審者の侵入を許し、私の財産が毀損されました。これではとても安心して学園生活を送ることはできません。殿下がおっしゃったように伸び伸びと過ごすことができないのです。今後は警備を強化されるとは思いますが、発生した損害を賠償していただけますか?」

「ば、賠償? 私がか?」


「王国が、です。ここは王立学園ですので」

「わ、分かった」

「あ、賠償といっても金銭ではなく現物で結構です。新しい教科書を用意してくださればよいので」

「ああ。手配しよう」


「ありがとうございます。犯人を捕まえたら然るべき処罰を与えてくださいね」

「ああ。約束する」

「ただ、ここは学園ですので、犯人の捜索を優先するがあまり、私たちの学園生活の邪魔をするようなことはないようご配慮をお願いします」

「もちろんだ」


 大丈夫かな?

 このままだと騎士団を投入して学園内を捜査しそうだから、そういうのはやめてねと遠回しにお願いしたんだけど。通じた?

 あと聞き込みも拒否しますからね。


 それにしても、ふふふ。

 おそらく廊下で真っ青な顔をしている三年生の女子(どっちだったっかな? シャーロットさんの取り巻きのどちらかだったはず)が軽い気持ちでやったんだろうけど。

 さすがにこれだけ脅せばもう二度とやらないよね。

 今回のような不快なことはもう起きないと思いたい。


「ちょっと! 何事ですの!」


 あら、シャーロットさんがお出ましとは。


「シャーロット! よもやお前の仕業ではないだろうな! まさかグレンヴィル公爵家が反体制派を率いているのではないだろうな!」


 おやおや。

 急に『反体制派』とか、周囲がドン引きしてますよ。

 それではまるで私が洗脳したみたいではないですか。そもそもそんな勢力が存在するのかも怪しいというのに。


「殿下。何をおっしゃっているのですか? 私は結婚すれば王族ですのよ? 反体制派などと意味が分かりませんわ」

「そ、そうだが。まだ結婚すると決まった訳ではないし__」

「殿下」


 婚約しておいて、さすがにそんな言い草はないですね。

 全女性が抗議します。




「君たち、これは何の騒ぎだね?」


 はあ。学園長まで登場とはどうなってんの?


「心配しなくてよい。伯父上には私が説明する」


 伯父上ではなく、学園長とお呼びするべきなのでは? 

 それでも、面倒な説明を引き受けてくれるというのだから、私は何も言わずに引っ込みます。

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