7 王子視点、公爵令嬢視点
この国の第一王子として生まれた僕は、幼少の頃から将来の王となるべく教育されてきた。
皆に平等に接したいのに、誰もが我先にと僕の側に侍りたがり、僕の笑顔を独占したがった。
……ふう。悩ましい。
貴族はもちろんのこと、平民にも惜しみなく慈悲を与える存在になりたいというのに。
学園生活はいたって順調だった。
僕の在校中に学園に入学できた者は幸運だ。
実社会では僕の顔を見るのがやっとな家柄の子女であっても、学園では運がよければ僕に声をかけてもらえるかもしれないのだからな。
学業も文句なく学年トップだし、一年の時から生徒会会長を拝命している。
僕の人生は順風満帆だ――まあ、婚約者のシャーロットが執拗に絡んでくることを除いては。
僕の人生で唯一、自分で選択できなかったのが婚約者選びだ。
これが国王となる者の痛みなのだろう。そう思って諦めていた――のだが。
入学式で、僕は運命の人と出会ってしまった。
ホールが分からず困っていた彼女は、僕が声をかけるとピンクブロンドの髪を揺らして僕を見た。
彼女のはにかんだ笑顔が僕の中にあった思い込みを溶かしてくれた。
どうして婚約者だけ、自分で選べないのだ?
むしろ、婚約者だけは自分で選ぶべきなのでは?
もしや父上は――僕の反論を待たれていたのか?
諾々と受け入れた僕に失望なさったのかもしれない。
ヘンリエッタ・オズボーン。僕の運命の人。
僕は残りの人生を、君を守るために生きよう!
◆◆◆ ◆◆◆
ヘンリエッタ・オズボーン。領地を持たない貧乏男爵家の娘。
そんな者が、このグレンヴィル公爵令嬢である私を悩ませるとは! 許しがたいわ。
第一王子のローガン様が立太子された暁には、王太子妃としてあの方の隣に立つことが約束されているというのに、そんな事実などないと言いたげに、宣戦布告するかのように割って入ってきた娘。
私には、ローガン様に近づくつもりなどないと言っていたくせに、実際は毎日のように一緒にいる。随分と舐められたものだわ。
思い返せば二人の出会いは不自然だった。
マーガレッタから、あの子が入学式の会場となるホールが分からないと稚拙な嘘をついてローガン様に近づいたと聞いた時は驚いた……本当に油断ならない子だわ。
ローガン様のお優しい性格を知った上での策に違いない。
マーガレッタとアンジェラに聞いた話では、ローガン様の側近の二人までもが既に籠絡されているらしい。
側近たちは最初こそあのピンクブロンドに警戒していたらしいが、話すうちに、「決して自分からは殿下に話しかけない奥ゆかしさがある」「殿下に愛想をふりまいたりしない」などと態度を軟化させたらしい。
それどころか最近では、控えめなヘンリエッタに比べて、この私のことを、「うるさく付き纏う、うざったい女」と言っているとか!
憎たらしい!
どうして男爵令嬢と比べられて、この私が負けなければならないの!
ノアとジェイコブは、それぞれマーガレッタとアンジェラの婚約者だ。
彼女たちも婚約者の変わりように呆れている。
これ以上ローガン様に近づくことのないよう、身の程を教えてやらなくては……。
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