4 入学式自体は前世と似たような感じでした
ブクマ、評価ありがとうございます!
「驚かせてしまったみたいだね。デビュタントもまだだから僕の顔を知らないのは仕方がないよ」
黙ってホールまで歩いてくれたらいいのに、王子がやたらと話しかけてくる。
集団で歩いているだけでも目立つのに、王子がアイドルのように右に左に、「やあ」と今にも声を掛けそうな顔で愛想を振り撒いているから、どうしても注目を浴びてしまう。
私たち五人に気がついた生徒たちは、一様にギョッとした顔で固まっている。
ルイーザは一言も喋らず俯いたままだし……はぁ。
間違った言葉を発したが最後、不敬罪に問われそうなので、王子に何を言われても私は黙ったままにっこりと微笑み返すだけにした。
言質を取られないための防衛策だ。
なのに、私が微笑むと王子も微笑む。はぁ?
私とルイーザは無言なのに、男子三人がやたらと喋る。
お陰で、王子の連れが、宰相の息子のノア・フォックス侯爵令息と、騎士団長の息子のジェイコブ・ハミルトン伯爵令息だということが分かった。
当初の目標では、絶対に関わり合いになってはならないはずの三人だ。
どうしてこんなことに?
これまでの人生、至極真っ当に生きてきたと思うのですが、神様の目には私は至らない人間と映りましたか?
ホールに到着してようやく王子たちから解放された。
「僕たちは生徒会として壇上に上がらないといけないから、ここで失礼するよ」
王子がどうだと言わんばかりに、おそらく彼の中のとっておきのプリンススマイルを見せた。
はぁ。
頬を赤らめることができればよかったのですが。申し訳ございません。
「どうもありがとうございました」
「じゃあ、またね」
王子は手を振って、ジェイコブは「フン」と偉そうに鼻を鳴らして、ノアはメガネをクイッとあげて睨んで、去って行った
「ヘェンリエッタァー!」
ルイーザが涙目で私の腕をブンブン振っている。
そりゃあまあ、そうだよね。怖かったよね。
王族なんて、平民からしたら将軍様みたいなもんだよね。私にとってもそうだけど。
江戸時代の「切り捨て御免」がまかり通っている世界だから、命の危険を感じたよね。
「大丈夫だよ。学園の中では身分は関係ないんだから。入学案内にも書いてあったでしょ?」
まあ、絶対に建前だけどね。
今はそう言って慰めるくらいしかできない。
それにしてもいきなり浮いてしまったな。
周囲のヒソヒソ声が気味悪い。
「平民の癖に王子に近づいた」とか、好き勝手に悪く言われていそうだ。
異世界でも学園の入学式なんていうものは変わり映えしないようで、学園長の挨拶に続いて生徒会会長、上級生代表の挨拶と続き、最後に新入生代表の挨拶という式次第だった。
ちなみに、生徒会会長が王子で、上級生代表は公爵令嬢。
王子が壇上に立つと、会場のあちらこちらら、「はあ」という女生徒たちの吐息が聞こえた。
王子はいかにこの学園が素晴らしいところかを自慢した後、「我ら生徒会は、全生徒が楽しい学園生活を送ることができるよう陰日向に働いている。学園内で起きた揉め事は我ら生徒会が裁定する。困ったことがあれば、些細なことでも生徒会に相談してもらえたらと思う。必ず解決してみせる。我ら生徒会は、君たち全員を守ると、ここに誓おう!」などと高らかに宣言した。
学園長が何も言わないから、ある程度は自治が認められているのかもしれないけれど、どこまで真に受けたらいいんでしょうね?
周囲の意見に耳を傾けなさそうな王子だったからな。怪しいものだ。
王子が言うほど生徒の自治が認められているとは思えない。
それに、些細な相談を受け付けるなんて言っても、王子がいる生徒会に報告できる強心臓の人間なんて、そうそういないと思う。
まさか、何も相談がないのは自分たちのお陰だとか思い上がっていないよね?
入学式が終わって教室へと向かうと、廊下で教師たちが、「掲示板に張り出されているクラス分けを確認して各自教室に入るように」と案内していた。
「ヘンリエッタ! 私たち同じCクラスだよ!」
「早っ! さっすがルイーザ。目がいいね」
掲出されているクラス分けには、ご丁寧に爵位付きのフルネームが載っていた。
……ん?
伯爵家以上は全員Aクラス。Bクラスには子爵家と男爵家のみ。
……分かりやすいね。家格順でクラス分けしてるじゃん。
Cクラスはほぼ平民。貴族は私一人だけ。
ふーん。Aクラスにたった一人の子爵令息は入試が高得点だったのかな?
ルイーザも私と同じくらい勉強ができたから、あの入試問題ならほぼほぼ満点に近かったと思うけど?
私が平均八十五点でBクラスに入れなかったってことは、他のみんなは軒並み九十点以上だったってこと?
……もしかして、うちが領地を持っていない弱小貴族だから?
まあ、この世界は貴族のものだもんね。
前世では、上位十パーセントの富裕層が全世界の富の四分の三を独占していたから、この国だと王家と公爵家と侯爵家が、国全体の富の七、八割ぐらいを独占していそう。
富の独占イコール権力ね。
だから絶対に歯向かっちゃだめ。
三年間、Cクラスで目立たないよう、大人しくしていよう。
そう覚悟を決めた時、
「この中にヘンリエッタ・オズボーンはいるかしら?」
と、高らかな声が響いた。
 




