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ジャンニロダーリのあれ

 すっかり忘れてしまった。まごうことなきすべてのことだ。書くことをしなかったしばらくのあいだ、敵の動きを見据え自分の発想で挑み続ける過集中の快楽に溺れていたんだ。単的にいえばゲームだ。シューティングシューティング。シューティングるうちに僕は小説を書くことの、過程におけるよそ見の時間や分身の術による多角観察、そういった注意散漫の醍醐味を忘れ、アケコンをガチャガチャするくらいしか能がなくなっていた。そうだ家庭用版だ。今更になってxboxが欲しくなってきたよ。マイクロソフトめ。


 一段落目につき、僕は小説を根本から勘違いしているみたいだ。その自覚はあるし、日記じみるのが嫌だという多少のこだわりもあれど、どうしても嘘がつけないというのは、誰のことも真実から遠ざけたくないという僕の誠実さの表れだった。僕はいつまでも真実が定まらないでフラフラしていた。何でもいいんだ。頼むから一つの場所にとどまっていて欲しい。そうでないと何も書けない。コンビニ食品は毒しかないとか、10月27日に世界が終わるとか、あの職業はクズが多いとか、世の中にはあらゆるニーズに対応した真実で溢れている。そういった類の言葉を他人から聞きづてに自らも発信することで集合意識を取得、束の間の安全圏にて日常を過ごす。これが人間というか、いっぱしの社会人というものだ。ところが僕は何も信じないし、だから一貫した主張がでない。一秒一秒、自分で言ったことを疑いだして、その言葉は段々と冗談の気を帯びだしてくる。僕の小説には意味がなかった。そして無意味について話したこの段落は、唯一意味を持っていた。これは僕の苦悩だった。苦悩を文章化して要点をまとめ、コンパクトになった苦悩から次なる段階の苦悩へ進むための、ずっと過去の苦悩だった。そうだ。ほぼ毎日書かれる文章が、なにも必ずリアルタイムであるとは限らない。数カ月前や十数年前、もっと未来への希望かもしれない。

 僕は読者に手の内を明かしてしまった。芸で食えなくなったマジシャンになった。フルカラー図解本でも出すか。


 長い間ひげを整えていない父さんが、テレビをつけっぱなしのままソファで寝こけている。指にはスナック菓子の粉がついて、寝息は珍しく静かなものだ。代わりにテレビのコメディアンの声が騒がしい。別にうるさい人じゃないだろうに、これってテレビの魔力だ。耳を傾ける気も失せる。リモコンで電源を落とした。暗い画面に、白黒の討論番組が流れていた。きっとアメリカにウチがジャックされたんだ。

『ジャンニロダーリのあれ、好きだ。ある女の子へのクリスマスプレゼントに送られた人形が急に動きだして、飾りつけのされたクリスマスツリーを倒したり女の子の髪の毛を引っ張って泣かせたりするあの話。女の子の部屋に様子を見にきた家族に対して皮肉をいうし、なぜか原子物理学が勉強したいとか言ったりもする。というかあの短編集まるごと好きだ。猫とともに去りぬ。最後には帰って来るんだ。』

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