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ぶん殴り姫  作者: 地鶏
9/9

9 奴隷の町(8)

「身の安全の保証、ね」


 オークの集落の中だけの話と言えど、その話が本当ならばなんの宛もない赤姫たちには嬉しい話だった。ただ、魔物と人間の間にある確執は大きい。一緒に暮らすとなれば様々な問題が発生するのは間違いなかった。


『左様。それが一番の望みであろう?』


 どうやらジア=ガは赤姫たちの状況をある程度理解しているようで、赤姫たちが最も求めている安全な暮らしを提案してきたようだった。


「確かにそうね……ただ、オークと人間が仲良く暮らしていくのは難しいでしょう」


『そう考えるのが自然であろうな。だがそれも問題は無い』


 ジア=ガはくつくつと笑いながらそう告げた。どこか狂気的なその様子に人間達は身震いする。


『着いてくるがいい、赤姫よ』


 断る事は出来ない。オークの集落でジア=ガの機嫌を損ねればそれこそ戦いになりかねないのだから。


 赤姫は立ち上がり建物の奥へと近づいていく。奥へと進むにつれて土をそのままにしていた床が木で作られたものに変わっていく。オークたちの不快な臭いがどんどん強くなっていくが、それ以上に肉が腐ったような臭いが強くなり赤姫は思わず袖で鼻をおおう。


 ジア=ガと赤姫は大きな扉の前にたどり着く。明らかに他よりも重視された立派な作りであり、オーク達の強い力で開けられているからか、取手となる中央部分がひしゃげている。


 ジア=ガは扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。扉が開くにつれて臭いはよりいっそう強くなる。目を開けているのも辛いほどに。


 扉が開く。部屋はたった一つの目的の為だけに作られていた。部屋の中心には生物の骨で作られた玉座があった。


 その玉座には、他のオークよりも二まわりは大きいオークが座っている。だが、オークから生気は感じられない。かろうじて呼吸をしてはいるものの、腹を横一文字に切り裂くような傷口を抑え、呻いている。


 傷口はもはや腐りかけていて、部屋に充満する異臭はこれが原因だとひと目でわかるものだった。


 だが、なにより赤姫の目を引いたのはそのオークの目の前に置かれた真っ赤な短刀だった。宝石のように反射する刀身に、力任せに取り付けられたであろう木製の柄がついた短刀から赤姫は目が離せなかった。


 目が離せないだけでは無い。赤姫は吸い寄せられるようにその短刀に手を伸ばした。


 ジア=ガはその行動を止めることは無い。むしろ、その口元には笑みさえ浮かんでいた。


 赤姫がその短刀を手に取った瞬間、全身が沸騰するような感覚が襲った。赤姫の目が真っ赤に染まり、その短刀からくる意思とも呼べる強烈な衝動に突き動かされる。


 殺せ、奪えと。


 赤姫はその衝動に突き動かされるまま、その短刀を骨の玉座に座るオークに突き刺した。


 オークは一瞬身体を震わせるものの、どこか穏やかな表情を浮かべてその呼吸を止めた。そしてその体は光りとなって消えていく。身体が消えされば、異臭や血も全て消え部屋は綺麗な状態へと戻っていく。その静かな最後とは対象的に、赤姫には劇的な変化が訪れていた。


(なに……なんなのよこれ!)


 赤姫の脳内に様々な情報が刻まれていく。頭の中を掻き回されるような不快な感覚に赤姫は絶叫しながら座り込む。


 だがそれもすぐに落ち着いた。全身に書いた汗が、どれほどの負担を赤姫に与えたのかを物語っている。


 赤姫は頭に直接書き込まれた情報から、なぜジア=ガが自分をここに連れてきたのか、なぜ人とオークの共同生活が可能だと思っていたのかを理解する。だが、それ以上に様々な疑問も生まれていた。


 それを問い質すためにも赤姫はジア=ガの方を向く。ジア=ガは膝をつき、赤姫へと頭を下げている。その姿は先程までの小さく老いたオークとは違い、少し人に近い姿に変わっていた。


()()()となられましたな」


 赤姫に対して、先程とは打って変わってまるで従僕のような姿勢を摂るジア=ガ。だがその態度も今の赤姫にとってはおかしい態度では無い。


 神憑き、その姿を体現するかのごとく、赤姫の額には小さな赤き紋章が浮かんでいた。


「先程までの無礼、お許しくだされ」


「気にしなくていいわ。それよりも、他のオークの様子を見てきなさい。私は少しここにいるわ」


「……承知」


 赤姫の命令にジア=ガは迷うことなく頷き部屋を出ていく。他に誰もいなくなったことを確認し、赤姫は手で顔を覆った。


(どうしてこうなったのよ?!)


 赤姫は凄まじく混乱していた。大量に得た情報と、自身の置かれた状況をひとつひとつ整理するべく骨の玉座に座り込んだ。


 そこにどたどたと走る音が聞こえ、エイルとフレイヤが部屋に飛び込んできた。


「おい赤いの! 大丈夫か……って、なんだよそれ」


「んな……!」


 フレイヤは赤姫の額に浮かんだ紋章を指さした。エイルは本能に突き動かされるようにして赤姫に膝をつこうとしてしまう。だが直前で理性を取り戻したのか動きを停めた。


その様子を見て大きくため息を着く赤姫。自分が悪いことをしたのかと慌てるエイルを宥めて座らせた。


「神憑きの代替わりをしたのよ」


「……いや、説明する気ないだろお前。なんでかわかんねぇけどオークたちと会話出来るようになったし、みんなやけに魔力が増えたし、何が起きてんだ?」


「私も訳が分からないのよ、1から説明するから一緒に整理してちょうだい」


 そうして赤姫はエイルとフレイヤに自信に起きたことを説明していくのだった。




 

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