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ぶん殴り姫  作者: 地鶏
8/9

8 奴隷の町(7)

赤姫一行は不安そうな面持ちで森の中を進んでいた。なにせさっきまで自分たちを餌として襲ってきたオークに囲まれているためだ。とはいっても、今回は襲うのではなく守るためにオークたちは赤姫一行を囲んでいるのだが。


 願いを聞いてほしい、それは頼みという形ではあるものの戦力差を考えれば断れるような状況ではなかった。赤姫はみんなを不安にさせないために堂々と歩くほかにできることはなかった。


「なあ、理の子ってなんだ?」


「多分、私のことよ」


 赤姫は苦々しそうにフレイヤに答えた。その表情を見てフレイヤは何かを言いかけるものの、オークの声にさえぎられる。


『ココダ。ココガワレラノ──』


「っ……」


 急にオークの声がくぐもり不快な音に変わる。顔をしかめた赤姫たちに気づいたのかオークは何やら喉元を触りながら声を出した。


『アー、あ……あ。これで多少はましだろうか。理の子よ』


「え、ええ」


『そうか、わからないか。声に意思を混ぜ込んだ魔力を乗せているのだ。人と話すのはひさしぶりなのでね』


 魔力関係のことにたいして赤姫は基礎的な知識はある。けれど自分が扱えないものに深い理解を得られることも無く、長ともいえるこのオークの言ってることを理解することは難しかった。


『私はジア=ガ。ガルザの子でありガ族の長』


「私は赤姫と呼ばれているわ」


 ジア=ガの名乗りに赤姫も返す。あえて名前は名乗らなかったがジア=ガに気にするような様子は無い。


 ジア=ガの案内でオークの集落へとたどり着いた一行。


 オークの集落は木々や石を使った簡素な建物が乱立していた。だが人の大きさではなくオークの巨体に合わせて作られているためその大きさは人の街にあるものもと比べてかなり大きく作られている。そこで暮らすオークたちは赤姫たちに襲い掛かったオークたちとは違って体も小さく牙も小さい。かれらは仕留めてきた動物をさばいていたり、建物の修復を行っていたりと人間とさほど変わらない生活を行っていた。なかでも子供をあやしている姿を見たことで赤姫一行の中には衝撃を受ける者も少なくなかった。


 冒険者や兵士といった職業でない限り魔物の生態を知る機会は少ない。そんなものたちの中には魔物というのは邪悪な存在であり、いきなりどこからか沸いて出てくるというイメージを持っているものも多い。しかし、実際に子育てをしているところを見てしまえばそんなイメージは一瞬で崩れ去る。


「活気がないわね」


「そうだな。なんかどいつもこいつも元気がないぜ」


 赤姫は知識として魔物の生態を知っていたから、フレイヤは逆に何も知らないからこそオークの集落を見ても動揺することはなく、それよりもむしろオークの集落の活気のなさに疑問を覚えていた。


(集落の大きさに比べて明らかに数が少ないし、やせ細っているオークも多い。ジア=ガのいう願いっていうのはこのこと?)


 ジア=ガに連れられて赤姫たちは集落で最も大きな建物へと向かう。建物の内部は全員が入っても有り余るほどの大きさがあった。


 囲むようにしてオークたちがいるせいか赤姫、フレイヤ、エイル以外は今にも気を失ってしまいそうなほど青ざめた顔をしていた。それをみたジア=ガは軽く手を挙げてオークたちを下がらせる。その場に残るオークはジア=ガのみとなった。


『さて……赤姫よ。われらの願いを聞いてもらおう』


「待って。いきなりそんなことを言われてもわけがわからないわ。そもそも私たちは人間よ、なぜあなた達オークが人間の力を借りようとするの?」


『人間の手を借りようとするオークがそんなにおかしく見えるのか。赤姫よ』


「ええ、そうよ。オークは強い魔物だもの。そのうえここまで大規模の集落を作るオークの群れが、わざわざ敵である人間の手を借りるとは思えない」


 魔物と人は、古来から分かり合えない存在とされている。魔物であるというだけで、オークと人間は生まれた時からの敵だった。


「ここの様子からして、何か問題を抱えているというのはわかるわ。けれど、なんの力も持たない私たちがそれを解決できると思えないし、理由がわからない」


『……本当にわからないか、赤姫──いや、理の子よ』


「……」


 ジア=ガの言葉に赤姫がだまりこむ。確かに彼女たいは大きな力を持っていない。だが、ジア=ガが自分たちを頼りにしようとする根拠にたったひとつだけ赤姫は思い当たるものがある。けれど、そのことをジア=ガが知っているはずもない。知っているものは全員が滅んだはずなのだから。赤姫本人を除いて。


 だからこそ。その情報の出所を知るまでは赤姫は明かすことができない。自分や、自分以外の人たちを生かすためにも。


『くくく……なかなかに慎重なのだな。われらが戦士を殴り倒した豪快さはどこへいったのだ? まあそれはおいておくとしよう。われらとしても願いを聞いてもらうほか無いのだ。まずはこの集落にいる間、そなたたちの身の安全を保障しよう』



初評価いただくことができました。ありがとうございます。励みになります。

感想等でいただいている誤字報告ですが時間あるときに修正していきたいと思います。重ねてになりますがありがとうございます。

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