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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年5月、京都④

バイクに乗れば気分転換になるかなと思っていたが,久我にメイアンが後ろ、と言われてしまった。久我ばっかり役得じゃんと弱い反駁を試みるとそうだよん、と簡単に往なされてしまったのは、久我がそんなところに重点を置いていなかったことの証左である。久我はアキがいないと生きている年数なりの成熟を見せるようだ。

張々湖に到着すると店は休憩中で、亥の入道とアキが茶を啜っていた。メイアンの顔を見るなり入道は小さく笑ったが特になにも指摘せず久しぶりだな、新潟はどうだった、と問うてきた。

「いいところだったよ。九頭龍さん、面白い人だった」

「彼の方をさん呼びか。いやいい、あまり奉られるのを好まぬ方だしな。おお、新しいフライパン!これはかなりしただろう?」

「面白いね中越。銅もやってて、芸術品のような日用品もあって驚いた。あっ、アキと久我にもお土産」

二人にはそれぞれスコップとレーキを模したカトラリーセットを渡す。

「これで畑を掘り起こすようなメニュー作って食べたら楽しそうだと思ってさ」

「どないな料理を作ったらええのかわからへん」

「そうだなぁ…マッシュポテトで畝作って、肉団子埋めとくとか?団子のところにベビーリーフで苗みたいにしてさ」

「それおもろいなあ。グラタンでやってもええ?」

「いいよいいよ!掘り起こしたものにちょっとした当たりがあると嬉しいね」

「やるやる!」

アキはメイアンがいると寧ろ幼く燥いでしまうな、と思っていると、冷凍庫から氷を持ってきた久我が呆れたようにアキに言った。

「姉ちゃん、メイアンは土産渡す為に来たんじゃないだろ」

「そうやった」

氷を満たしたプラのコップにどぷどぷと大きめのペットボトルから濃いめの緑茶を注ぐ久我は珍しく男っぽくまた実年齢に近いように思えた。

「血糖値気にしてんの?」

「同じ値段だしはっきりした味の方が好みなんだよ。メイアンまで話をずらすなよ。姉ちゃん、入道さん、北白川の店に来たのやっぱり垂箕山古墳で首吊ったクローン二人と同じみたいだってさ」

氷の少なめの方をメイアンに差し出して自分の分を一気に干した。再度満たすとがっかりしたように肩を落とす。

「この目で見つけといて言うのもなんだけどさ…この前のあれ、嫌な感じに警察とか巻き込んで挙句死に逃げるってそういうのともう関わりたくないと思ってたのにさ。目の前に出てくるって、それも謎な立ち位置で」

「なにが言いたいんや」

久我は用意が不充分な印象と、見た目だけが乗り気で空回っているような現状、そして拠点を北白川に選んでしまっている思慮の甘さなどをひとつひとつ説明してゆく。この場に出向く必要あったかなと思いながらメイアンは冷たい茶を口に含む。はっきりとした渋さは緩みかけた心を引き締めてくれる気がした。

「どないすんの、メイアン?」

「どうもこうも…できることなら向こうが仕掛けてくるまで放置しておきたいんだよな。こっちから目くじら立てるなんて自意識過剰みたいじゃん?」

冗談ぽく言っておいて現実に引き戻す。

「勿論出方を見たいのもあるんだけど、向こうさんも別件に出張ってきてるのかも、だろ。だから北白川なのかもよ?」

「大学の研究施設狙ってるとか?」

「あそこ農学部なんだよね?農学部っていうと牧歌的なイメージだけど、丁度アキや久我が生まれた頃から農学はアグリカルチャーからバイオサイエンスに変貌し始めたんだ。もしそれがミクロな、いや、ナノサイズなんかだったら厄介かも。寧ろこっちを緩慢に狙ってくれる方がわかり易くていい」

フライパンについていた紙などを剥がし、綺麗に洗ったのち、丁寧に拭いて満足気に眺めながら入道は言った。

「動向は四条が見張ればよい。お前達は手出しするな」

「わかってるわぁ。メイアンは入道はんに用あったんちがうの?」

「あぁ…エリン・スターリングがここを襲撃してきたとき入道さんが使った技…あれは…やっぱり大技なんだよね?」

「あん?どれのことかな」

惚けたな、と薄く笑う。

「べりっぽいっ、だよ」

「おうおう、雷公式を理解するのは時間がかかるぞ?六壬神課を身につけ、太一式を踏まえた上で六壬式を昇華させねば雷公式は使えぬ」

「あー…やっぱそう…まあ、ちょちょらで使えるものだとは思っちゃなかったけどね…」

入道は低く笑う。

「周辺に被害を出さずに済ませたいという不穏で穏健なメイアンの意向はよくわかった。その方針に沿うよう準備はしよう」

「あのバリアみたいなのは?」

「あれはまあ簡単な方だが…ドラクエのやり過ぎではないのか?」

「やってる時間あると思う?」

「前衛でばんばん撃ちながら場に術をかけて防衛もしようなんて、逸そ分身の術でも修得せい」

「そんなんあるの、是非憶えたい」

「あればやっとるわ」

「無いのか〰︎マルチタスクの消化を単体でこなすのはしんどいんだよ〜」

「誰かに振れ」

メイアンは久我とアキより前に出ながら目線を二人に配る。

「やだよ。表立つのは独りでいいじゃん」

カウンターに肘をつきだらしなく寄りかかる。

「なにも編隊を組む必要はない」

「危険に晒すことには変わりないよ」

「今そこを議論するのは無意味だ。先ずすべきはなんだ」

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