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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年5月、京都②

久我が四条の屋敷に現れたのは三時過ぎだった。

「ごめん、遅くなって」

聞けば久我は同じ時刻に上がったアルバイトにそれとなく例の男について尋ねてみたのだという。風体が異質な所為かそのアルバイトも憶えていて、数日前から買い物に訪れるようになったこと、大概同じ時間帯に訪れ、買って行くものは固形食や缶詰だと聞き出していた。

「ちょっと勤務時間が長過ぎない?」

「学生バイトが普段入ってるんだけど、熱出たとかで急遽入らされたんだ。もうひとりの方は元々六時上がりだったのに、交代の主婦バイトの子供が発熱っつって。コロナか?ってどっちも心配してたけど、結局どっちもただの風邪。他のバイトの手配がついたから、俺は明日からは入らないよ」

「それならよかった。多分こいつ、あの上の階に棲んでる」

「まじ?」

メイアンはUSBメモリに移してきた映像をノートパソコンに出し、拡大して顔を確認していた。斜め上方からなので完全ではなかったが、ハーバーであろうと推察できる。

「そのアルバイトくんもよく憶えていたもんだね」

「ジョン・プレイヤー・スペシャルって銘柄を指定してくる外国人、で記憶に残っていたんだって。長く販売されてる銘柄だけど、買ってく人はそんなに多くないから、棚を別枠に出してる。表にはJPSとしか書かれてないからぴんと来なくて、いつも戸惑うんだってさ」

「成程ね」

「久我もよく気づいたよ」

「冷や汗だらだらだったよ。素知らぬ顔するのが精一杯だった〜」

「充分。暫くあの店には入らない方がいい」

久我は素直に頷いた。久我の話から総合するに、久我を手がかりに拠点を選んだというのではなさそうだ。

「なにしに来たんだろ」

「単純に考えれば、前の二人で失敗したのを挽回しに来たんだろ。あのときのタクシーの運転手を追及しなかったのは良くなかったな」

「そいつも仲間だった?」

「多分ね。あっちがどういう体制を敷いているのか知らんけど、よくあるスパイ活動なら現地調達員っつってね、ほら、日本人って言ったら如何にもな顔立ちでしょ。白地あからさまな外国人顔じゃ胡散臭いわけ。そういうのをクリアできる平々凡々な人間を雇うのよ。或いはそういう人種的な人物を現地に溶け込ませておく、とかね。だからあの運転手が火種になって燻っていた、っていうのが考え易い」

「やだやだ」

辟易したように久我は首を振る。九頭龍は宿痾だと諦観を示したのだっけ。

「弔合戦でもする気であんな恰好してんのかな?」

「久我も気がついた?」

「コートずる〜んの、足許は戦闘ブーツじゃん?警察の厄介になった奴も迎えに来た奴もびしっとスーツ着ちゃって余裕のある感じだったのに、俺が見つけた奴は出立いでたちから殺気放ってる風で」

「殺気…は実際のところ放ってないの?」

「映像じゃわかんなかったかな。のほほんと食糧買いに出てきて、それっぽい感じの買ってく癖に、実際のところ…あの固形バーなんか、ちょっとオシャレにジョギングするような意識高い系を自負してるやつらが自己陶酔しながら買っていくものだぜ。せめてそこは黄色い箱のアレじゃないの?」

中身的にはそちらの方がレーションと呼ばれる物に確かに近い。

「抑予定立ててんの?持ち込める持ち込めないはあるかもだけど、その日その日に、況してやコンビニで調達って考え甘くない?確かになんでも手に入るよ?でも割高だし、決定的に無いものは無いんだから」

久我の指摘は尤もだ。買った量から推察するに人員は一人か二人、どこからわいて出たのか知らないが作戦を立ててあるならば食糧と弾薬などは真っ先に用意する筈だ。

「久我、やっるぅ〜。どこでそんな分析力身につけたのさ?」

へへへ、と久我は首筋を掻いた。

「そりゃコンビニだよ。レジに立って客を見てると毎日のように来る人、時間帯が決まってる人、服装、交通手段、買ってく物、…逆にかなりの長期スパンの人、時間帯が一定しないとか日に何度もの人とか、まあなにやってんだろうなって想像するわけ。意外と名前とかわかるんだ」

「なんで?」

「振込用紙持ってくれば名前書いてあるし、会社のIDカードぶら下げて歩いてる人も多いよ。名前晒してんのは店側だけじゃないってこと」

「ほうほう」

「北白川の店は大学関係者も来るから、今のは准教授くらい?とか偶にバイト同士で盛り上がったりする。ニッチな研究してるとテレビでコメント求められたりして顔が出るじゃん?あれ?助教だってよ、なんての、俺外したこと無い」

「あはっ、久我に色々開示しちゃってるんだな?久我凄いよ。素敵、お利口、強ーい!」

「空とぶ自動車かよ!」

一頻り笑ってよし、とメイアンは立ち上がる。

「送ってくよ。入道さんの店でいい?」

うん、と頷いてヘルメットを借りた久我だったが、被ろうとして口をへの字に曲げた。

「どした?」

「…誰かに使わせた?」

「ああ、まあ、うん」

そういえば昨日一日中一初が使っていたっけ、とメイアンは肩を竦めた。久我は一歩メイアンに近寄ると、後頭部に、首回りに、肩、腰、とあちらこちらをぴょこぴょこと検分し始めた。

「ちょっと、久我?」

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