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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟㊻

四パックのえちごひめは二パックは一つずつクラとタカに分けた。ひとパックは一初とメイアンで分け、残りのひとパックは明日の朝へと回す。苺を嬉しそうに食べる龍は確かに愛らしいと不在の九頭龍に同意しながらメイアンは一初とノートパソコンとレポート用紙を前にポタジェの構想を練っていた。

「東南向きにこう傾斜してるんだよ。半日日が望めないんだよなぁ」

レポート用紙を傾け一初は唸る。

「ふふ、行者大蒜に向いた場所じゃん。無理に平らにしないで傾斜を活かして…平らが必要なところは石積みで段々畑みたいにしたらいいのかな?でも上まで水を運ぶの辛いな…」

メイアンは苺の蔕を取って口に入れる。既に一初は地形を3D図にしており、方向を変えながらこっちかなあっちかなと考え込んでいた。もうひとつ苺を取って蔕を取ると、一初の口に当てた。一初は目を見開いたが、嬉しそうにメイアンの指を後押しして口に送り込む。思わず甘い瞬間を作ってしまったと一初が気がついたのは苺の甘さを堪能し始めた瞬間だったが、ここは山形や福島の道の駅ではもうないのだった、とちらりとクラとタカのいるローテーブルの方へ目を走らせる。てっきりにやにやと揶揄する目を向けているかと思ったのだが、残り少なくなってきた己の分の苺を惜しみつつ苺を褒め称えなどして、彼らの時間を楽しんでいる様子だった。こんな遣り取りをしていることを感知していないということは無いのだろうが、無駄に突つき回すつもりはないということなのだろうと解釈して一初も気を回していないことにした。

「これはもう水道を引いちゃう?でも水道水を使うのは無駄?でも雨水貯めると孑孒ぼうふらがわくし…」

そこに二柱龗がいて局所的な雨を呼び起こすことなど彼らから修得済みだということは言うべきだろうか。面白いからもう少し見守ってみようか。

ソラヌムやリコペルシコンには絶対日照不足だろうなあと呟くメイアンはすっかりガーデナーの顔をしている。ヴァールの再従兄が行動に出なかったらば、こんな顔をして薔薇園を広げて生を全うしたのかもな、と一初は思いを馳せる。

「ちょっとぉ、知識古いとかいう顔やめてくれる?」

「そんなこと思ってないって」

「いや絶対思ってた〰︎。トマト属(リコペルシコン)は今ナス属(ソラヌム)に統合されてんの失念してたよ、わかってるよう〰︎」

「ごめんなさいおれそれ全然わからない」

「そういうフォロー要らないんだよ〰︎」

「フォローとかじゃないって」

「わぁん、そういう優しさ辛い〰︎」

「違うって…おれメイアンみたいに図鑑が丸々頭に入ってなんかないんだってば…そうだメイアン、ここの斜面、今から見に行ってみないか、風呂入る前だから、いいだろう?」

「真っ暗でしょ」

「ランタンがある。明日明けたらまた見て貰っていいんだけど」

「ん、勿論明るくなってからも見るよ。でもこの時間帯の様子も、確かに知りたいね」

よし、と外に出、庭先を回って裏手に出る。ランタンを片手に一初はメイアンの手を取る。足許を照らし、安定した場所で高く掲げて広く照らす。庭から繋がる場所を入口にしなければなるまい、思いの外砂っぽいな、通路は階段状がいいだろうか…。

「空気が湿気てる。夜露が降りるのか。昼夜の寒暖差が激しそうだな」

「駄目なの?」

「いや?果実に糖を蓄積し易い環境だ。果実が甘くなるよ。砂地で水捌けもいい。気温さえあれば果樹が植えたいところだけど…雪降るんだよなぁ」

「先人が茶の北限を上げたんだ、できないことはないっ」

「あははっ、そんなに頑張らなくてもどうせ温暖化してるよう。エルニーニョ現象も出てるし、今年の夏は暑くなるよ?」

「夏暑くたって、冬には雪が降る」

メイアンは空を見上げた。星が少しでも見易くなるだろうかと一初はランタンを下げる。

「植物は順化できるものも、少なくない」

「駄目だ無理だと言われても、なんだかんだ冬越しできたりは、確かに」

「うん。無理なものは無理だけどね。囲ってやったりフレームしてやったり…新約聖書でマチュー…日本語ではマタイの福音書っていうのか、うん、その13章にね、種播きの話があるんだ。あ、キリストお得意の譬え話で信仰というものは、というところに落とし込んでいく為の話なんだけど、そんなのは別にいい。向こうの種播きって雑にばっばって播く。道に落ちる。鳥に食われる。岩の上に落ちる。根が張らず直ぐ枯れる。茨の中に落ちる。伸びることができず実らない。土壌に落ちて、根を張り、伸びて、実れば三十倍にも六十倍にもなる。この後毒麦になるか、なんて話に続くんだけど、そういう話をしたいんじゃない。ちゃんと耕した土に根を張らせてやればちゃんと実ることができる。変に難しく考えないで、土地に合う植物を植物に好適な環境で育てればきっと実る。こういうことなんじゃないかな。あんまり突拍子もない植物なんか選ばないで、育ち易いように世話してやれたら、充分なんじゃないのかなって、そう思うんだ…」

一初はくすっと笑った。

「メイアンにかかるとキリストもかた無しだな。おれ、庭を作り始めたとき、色に固執して原産が高山とか熱帯の植物を植えたことある。どんどん弱っていくの見ると本当に申し訳なくて、おれの下手ってこういうことだって痛感したよ…ポタジェにするとビニルマルチも張れないし、遮光カーテンも簡単にはできないもんな。こうやって気候をみて、近隣でどんな作物を作ってるか見て、その上で種類を決めるよ。おれだって実れない植物を育てるのは、辛い」

「そうしてあげて。京都の忠遠の庭はかなりずるをしてるから、張り合っちゃ駄目だよ」

「狡?」

「あいつさあ、名札を結構まめに立ててるなぁと思ってよく見ると、環境をその札に描いた方陣だのなんか呪文みたいなの?で維持してやんの。じゃなきゃベチバーだのタラゴンだのパルマローザだのウッドラフだのが京都で並べて露地栽培できるわけないじゃん」

「ま、待て、ベチ、ベチバー?タラゴンはわかる、パルマローザ?ウッドラフは聞いたことある、ゔ、わからないってことはこの辺りじゃ育たないってことだな。四条さま無茶苦茶だな…どうしても育てたいなんて欲をかくとそういう力技をかます羽目になるのか。そうだな、おれ、そういう庭が作りたいんじゃない。ここの空気に馴染む穏やかな場所を作りたい。…メイアン、ありがとう」

「ふふっ、そんなに大したことは、言ってない」

ふわりと笑った姿が、当初に綺麗な庭と言ったときと重なる。

そういうところなんだよ、と一初は腑に落ちた。

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