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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、福島③

「凄い!今は閑散としてるけど、きっと一時期物凄い商業都市だったんだろうな…俵を積んだ大八車やら人足がいっぱいいて…喜多方、暑いから皆んな半裸で騒ぐように取引してたのかな」

メイアンは目を瞑り、いっぱいに大きく息を吸い込む。

「華やかな街道のまち。白い海鼠塀の蔵がきっと眩しかったろうね」

「うん。それに、馬肉もちょっとだけ、答えが出た」

「山形で生産してたこと?」

「勿論現在の経営者がやる気を持ってるからだけどさ。奈良時代もずっと別の国家で、平安時代の後期くらいから、朝廷は蝦夷えみしと対立していたけれど、同時期(みやこ)はかなり荒れていて、集団の盗賊が跋扈していたんだって。彼らは馬を自在に操り流鏑馬みたいなのが得意だった」

「へえ?武士の本分かと思っていたよ」

「そう、武士。武士は貴族文化の中から生まれてきたものじゃないんだ。これが得意だったのは、蝦夷えみし

「ん?朝廷と争ってたね?」

「そうだよ。朝廷は蝦夷に勝利した。そして彼らを捕らえて、俘囚として日本各地に分散させ定着させたんだ」

「えっ、そうなの?」

「だって彼らには彼らしか持っていない技術とかがあるんだもの。元からいた土地に残しておけば反乱を起こす危険もある。弱体化させつつ技術だけを広める。強引なやり方だけどそれによって蝦夷の持っていた馬を飼って、馬を馴らして、馬を乗りこなして、馬に乗りながら攻撃をするという包括的な技術を各地に広めたんだ。置賜地方は俘囚の分散配置された場所のひとつで、そこから東国の武者達が隆盛を極めてくる…当初はみやこを襲う盗賊集団として…盗賊の武装に対抗する為に、武士として」

「源義家は陸奥国守だった…」

「平将門は常陸や下総だけど、そこに馬を供給していたのは奥州や磐城だったんだと思う。武士の台頭は馬の機動力ありき。馬の生産拠点だったんじゃないかなって」

「ふおぉ!時代を動かした馬肉!」

「いやいきなり肉にするなって」

「いっちゃん詳しい!」

一初は羞かしげに眉を寄せた。

「や、大河ドラマが今年鎌倉幕府じゃん?だから色々見る機会があったんだよ。でもこうやって今に続く歴史があるなんて、思いもよらなかった」

メイアンはこくこくと首を縦に振って同意を示す。

「もしかしたら、この街道を往き交う動力は馬だったのかも!上杉の物流力をも支えていたかも!」

「メイアンがいきなり置賜・会津制覇なんて言い出すからどうなっちゃうのかって思ってたけど、おれ千年の旅をしたような気分だよ」

一初はメイアンの肩をかき寄せ顳顬に唇を当てた。

「いぃいぃいっちゃん?」

されるがままに抱き寄せられていたメイアンだったが、唇の感触と肩を抱いた手の意外な無骨さに瞬間硬直し、ぐるりと顔を回したら今度はあまりに近い一初の顔に爆発しそうになる。

「このくらいはさせてよ。駄目なの」

「あまりにまってて、リアクションがとれない」

「芸人じゃあるまいし。やん♡とかきゃ♡でいいじゃん」

「いやそれキャラじゃないよ…」

「へっへーっ、メイアンは不意打ちに弱い。憶えた!」

「もう…」

キスを受けた顳顬を押さえながらメイアンは口を尖らせたが、子供のように燥いで混ぜ返した一初の気持ちが嬉しい。二つの歴史を繙いて興奮の最中にあるだろうに、たったこれだけに抑制するのは相当な心の強さなんだよ、と結局口許が綻んでいた。




坂下ばんげから国道49号を西へと進路をとったものの、直ぐに道沿いの大きな看板の出ているところに入った。

「もしかしてまだ馬刺探索は続いているのか?」

「こことあと一箇所だから。飽きた?」

「いや?よく調べたな、と思っただけ。なに?ドライブイン?」

「こっちが精肉店だって…ふふ、山形と風情が違うね?」

「あっちのは普通に肉屋の延長って感じで、新しい店舗が多かったよな」

「それに比べると…」

言葉を切ってふたりは店の中に入る。騒いではいけないような風情がある。確かにショーケースとオープン冷蔵ケースはあるのだが、精肉店なのに店内に雑多なものが並べられていて、近所の人の溜まり場にもなりそうな気がした。

「あったよ。ヒレだって」

「今まで見なかったな。辛味噌がついてる」

「期待大だねっ」

馬肉の煮込みなどもあったが、今日は馬刺、とそれだけにした。店主は少々不満そうだ。

店を出ると並んで大きく息を吐き出した。

「なんだろ、あの緊張感」

「凄く試されてる気がしたよ」

「県民性?それとも馬肉に対する考え方が違うのかな?」

馬の食文化のルーツの一端を解いた後ではこんなことも気になるのか、と笑い合う。49号に戻って更に西へ進む。

「線路がある」

「あれは只見線。魚沼まで行く。中越地震も新潟・福島豪雨も乗り切って全線復旧して、時折SLも走るよ」

「米坂線に爪の垢を煎じて飲ませたい」

「ははっ、そうだな!」

道路の両側まで山が迫ってきてはいなかったが、谷合の道は新緑で眩しい。陽が西に傾き始めていて、真正面から目を射る。

途中給油して走り続ける。坂下から西会津までは道が目紛しく様相を変える。急に民家が途切れ、登り下りになると両側から山が迫ってくるのに、只見川の両岸は開けて田畑も広がって明るい。それもまた一瞬で暗い谷の中になる。植林がされていないのか、広葉樹の雑木が両側から覆い被さってくる。

西会津IC(インターチェンジ)が近づいてくると再びぽつぽつと廃屋と民家が入り混じり、裏寂しい印象はあるものの商店街が一気に広がった。目的の店の駐車場に入れると可笑しくなってきてしまった。

「山形と趣きが違うなぁ!それになんか屋根が青くない?」

「トタン葺きなんだけど、この辺りは青いトタンを使うのが多いみたいだよ」

「トタンって鉄になんかしたやつだよな?ブリキのこと?」

「鉄に亜鉛鍍金(めっき)したやつ。錫を鍍金すると錻力ブリキ。トタンは熱伝導がいいから豪雪地帯の屋根材に使えば雪下ろしの手間が軽減されるだろ」

「いっちゃん詳しいね」

「これは以前調べたんだ。最近はめっきり少なくなってきたんだけど、どかっと雪が降るじゃん?だから屋根材、なにか別の方がいいのかなって。ガルバリウムとかも検討したんだけど、普通に瓦のままにした。ソーラー載っかってるしね」

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