2023年4月、福島②
大峠道路は橋梁が多いのはわかっていたことだが、いざ走ってみると川や沢を越える橋ではないことに気づく。寧ろ大桧沢がずっと左手下方に見えているのにまた橋を渡っている、などと、なにを越えたのだろうかと不安になる。飯森山を始めとする山々の山腹に通された道ではあるものの、沢がこれだけ近いということは略谷底で、突出した尾根と尾根とを繋ぎ時に山に突入して作られた道である、とわかってくると、橋が越えたのは特別水の流れがあるところではないことが自ずと知れてくる。道の水平を保つ為大きくない谷に渡してあったのだ。
ヘルメット越しのくぐもった声が届いた。
「紫だ!」
なんとも違和感の強い標識がトンネルの前に立っている。やはり標識というものは青赤黄色白黒なのだ。紫の看板には高倉トンネルと名称と全長が白抜きで記されていた。一初は目がいい。その文字を読む頃にはバイクはトンネルの中だった。短いトンネルを抜けると直ぐに青色の看板のあるトンネルが現れる。
「藍色!もう青も見える!」
御手窪トンネルは少し長め。しかし真っ直ぐなのでもう先が見える。抜けた先に同じ形だが色味の違う青色の看板がある。探トンネル。ここは短く次のトンネルとの間も更に短い。大倉トンネルの緑の看板が見えた。
「緑だ緑!」
トンネルを出て緩いカーブに沿って進めると石楠花トンネルの黄色い看板、橙の地蔵トンネル赤の不動トンネルと息を吐く間も無く次々と抜ける。最後のトンネルは633mと虹のトンネルの中で最も長く、風が抜けるが如く通り過ぎた他のトンネルとは一味違う感覚を残し空の下へ出た。左手の沢が、広く湖面になっていた。
「日中ひざわ湖だね」
その姿を堪能する間もなく日中トンネルに入る。やはり直ぐに出たがダムサイトは日中トンネルの真横だったようで、その姿を見ることもなく弥平トンネルへと突入してしまった。
ここを出ると道路から水田が見られるようになってきた。家屋も点在している。水田はまだ田おこしもされておらず、荒涼としていた。だが安定的な水田風景とまだ冬野菜の残る畑が広がるようになってくるとやっと人の住むところへ降りてきたのだなという小さな安堵感が灯った気がした。道の駅に入る。
「ガスってなくてよかった。整備されているのに山深いところだった〜」
「なんとしてでも喜多方と米沢を繋げるんだって執念を感じたね。なんとしてでも車を通すんだって」
「確か国道121号は旧道があって、相当な九十九折りだった筈。それをあれだけ真っ直ぐな道につけ替えたのだもんなぁ。お蔭で米沢から喜多方まで、我々はビュン♡」
まだ残る桜がちらほら花弁を飛ばす中、メイアンは喜多方の街の方に目をやった。
「こう見ると喜多方は盆地なんだなぁ…ぐるっと四方山に取り囲まれている」
「夏暑そう…そうか」
「ん?どした?」
「米沢と喜多方、なんでこんなに強引に繋いだのか、解けそうな気がする。な、メイアン、幹線道路じゃなく喜多方の街場を走ってみない?」
一初の小さな興奮がまたメイアンをオレンジ色にあたためる。
「いいよ。新しい道路は味気ないと思ってたところ♡」
「目的地は、まだあるんだろ」
「大丈夫、まだ時間はある。いっちゃんの謎が解ける方が気になるもん。喜多方ラーメンは食いっぱぐれたけど」
「そいつは次の機会に、絶対だ。メイアン、もしかして喜多方はラーメンだけとか思ってないか?」
「だけとは思わないけど、それしか知らない」
「おれ、喜多方に来たのは初めてだけど、情報はちらほら入ってくるんだ。多分この目で見たら、繋がる」
「おっ、もう結論寸前なんだな!行こう」
県道336号を走ると喜多方市街地に辿り着く。
「区画がきっちり四角いところが多いな。それに、蔵?ん?あれ蔵なのかな?」
一般的な漆喰で塗り固めた海鼠塀の土蔵が多いのだが、明治期以降に建造されたと思しき煉瓦作りの蔵も見受けられる。一見倉庫や家屋、店舗かと見紛うのだが、窓が極端に少なく、扉は重たげな蔵戸がついている。これだけでもう蔵だと判断できる。
「うん。喜多方は蔵のまち、なんてキャッチコピーをつけるだけあって、こうやって通りに面したところにも蔵が立ち並んでいるんだ。あはっ、新潟と近いだろ、だからテレビとかで近場の観光地ってことで特集したりするんだ。うん、わかってきた」
一初の頬に血の気がさしている。ちょっと鴇色。
「どういうこと?」
「喜多方は盆地だ。夏場は気温が上がる。だから定温保管のできる蔵は必須だろ」
「…まあ、そうだね?」
「蔵があるなら、醸造関係が発達するな?酒、味噌、醤油」
「そうだね、温度が保てるし」
「元々米沢は伊達の本拠地だった。その後は会津を支配していた上杉が米沢に移封されるじゃん?減封されたとはいえ、関東管領だった上杉にはプライドもあって上越とも関係が深いまま、豊臣政権下では福島城下を領地にしてたし、年貢米や物資の運搬の為福島城下に米沢藩の米蔵かあったんだ。そこに運ぶには、一旦会津に…喜多方に出る必要がある」
「あっ!だから、蔵」
「うん。年貢として納める以外の物資も運び込まれるから、醸造も盛んになる。そうやって喜多方が栄えたんだ。必死で米沢と喜多方を結ぶ道を整備してきたわけだよ!」
「国道121号の始まりだ。大峠なんて名前が残るくらい難所なのに、それでも道を繋げる必然性があったんだね!」
「きっとそう。煉瓦の蔵があるくらいだから、近代までその物流ルートは活発だったんだ」




