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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、福島①

一初の目尻に涙が滲んでいる。

「おれ今、メイアンが恋を自覚したところを目の当たりにした…」

「…心が滞っていたの?」

「凍りついていたんじゃないか?メイアン自身すら愛せてなくて、陰も陽も動かなかった、おれ昨日までそんなだった。クラさまとタカさまが少し和らげてくれてたから緩やかには回っていたけど、ちゃんと動き出したのは、笹川流れでメイアンに告白したとき」

一初は震える手を伸ばし、ゆるゆるとメイアンの身に回した。

顔を埋めるように肩を確り抱き竦める。

「メイアン…おれ…ちゃんと、ちゃんと確かめるから。近くにいるからだなんてつまんない理由じゃなくて、メイアンだからって、ちゃんと確かめる。そしたら、罔象って呼ぶ」

「…いぃいっちゃん…」

「いいよって、言ってくれよ」

「だって、家族にしか、呼ばれたことない」

「なら家族になる?」

「許されるのかわからないよ…」

「一緒に暮らすとか結婚とかそんなのおれ達には意味ない。おれ、駄目?」

「そんな、どうしよう、頭が追いついていかない」

埋めた中で一初が笑った。

「メイアンは中身は可愛いひとなんだなあ。ごめん、暑いって冷やしてあげたのに、またおまえ、体温上がってる」

一初はゆっくりと身を離し、メイアンの頭の上でくるりと指先を回した。緩い風が熱を払う。

「涼しい」

「性急なこと言って困らせた。ごめん。おれ、わかってなさ過ぎ…」

メイアンは首を振った。

「あんまり謝んないでよ。こんなこと…起こるんだなあって、いっぱいいっぱい。素敵な…あぁ、言葉にすると廉い。満たされて、爽やかで、やわらかなものに包まれてる。ヴァールで包まれた気持ちより、ずっと熱いのに、ふんわりしてる…いっちゃんもこんな気持ちを味わったの?」

一初は苦笑いした。

「こんなにゆっくり味わう余裕なかった。一方的な気持ちだと思っていたから、不安だったし」

「今もう、不安じゃない?」

「メイアンに嘘の気持ちを持っちゃってたらどうしようって、そっちが心配。でもおれ、メイアンだと思う。運命とかそういうのじゃないよ。お前の背中、安らぐ。さっき抱き締めたら、幸せだった。昨日あんなヘビーな話を聞かされたのにぐっすり眠れた。ここまで何人の女性と擦れ違ってきた?肉屋でも無言で通してたわけじゃない。八方誰でもいいんじゃないってわかってきてる」

「肉屋のおばちゃんと比べられてもなぁ…」

「だからちゃんと確かめる。タカさま達、学校通うつもりみたいだから、おれも通ってみようかな」

「目移りする程可愛い子がいっぱいいるよ」

「しないね、断言できそう」

「えっ、何故?」

「ふふふ、教えない」

メイアンは未だ気づいていないようだ。それぞれの陰陽が回るその上…方向としての上下ではなく、位階としての上のところで一初から陽が、メイアンから陰が解け出し、互いを巻き込んで回り、それぞれに還元されている。通じ合えている証拠。しかしこれを盾に迫ったりはしないよ、とエンジンをかけ直したメイアンの背中に一初は声に出さずに言う。

メイアンは間違いなく一旦京都に戻るだろう。また村上に来るよう約束した。再会してまた解け合って回るのを確かめたら、もう間違いない。

そのときは勘違いなんて絶対に言わせないからな、そう思いながら一初は胴に回した腕に力を込めた。



道の駅を出ると直ぐにトンネル、そして橋が何基も続いた。工事をしている箇所もあり、修復が真新しいところも散見される。昨年の豪雨で橋の真下に破砕帯があって崩落したところもあったのだという。

大峠トンネルが目前になる。

直前の場所に休憩所なる広く駐車場をとった場所があり、一初はこれで山形を出るんだな、と笑った。

「トンネルが4㎞近くある。長いな」

「退屈しないから運転に集中しろな」

「言うねえ」

「ここを出たら福島か。楽しみだな」

意を決してバイクをスタートさせる。山腹に道が延び、ぽっかりとあけた暗闇へと続いている。人工的な建造物なのに謎を覗き込むような期待と高鳴り、そして先が暗いことへの不安定な覚束なさ。道路は続いているのだからという信頼、しかし破損があるかもという惧れ。内部の少ない照明はまだ闇を残しているが、前照灯ヘッドランプが切り裂いて、だが進むと後ろから闇が押し寄せる。

ほんの五分するかしないかでトンネルの出口が光として見え、あっという間に外に出た。道の傍に停めるとヘルメットを取って息を吐いた。一初もヘルメットを脱いで言った。

「長いトンネルだったね!」

「割と真っ直ぐだったなあ!もうここ、福島県かぁ…」

ふたりは揃って太い息を吐き出した。そして直ぐにくすくす笑い出す。

「今日一日で県を三つも跨いだよ!」

「不思議な感覚だ!」

今日こんにちの交通事情を考えれば県を幾つも越えることなど然程難しいことではないのだが、バイクであちらに寄りこちらに寄りと寄り道を繰り返しながらその場所その時間を堪能しつつ進んだだけに目的地が無限に遠いような気がしていたのだ。

「ここからだな、レインボーライン!」

「高倉トンネルからだね。ようしいっちゃん、見落とし無しで行っくよー!」

「おう!」

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