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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、山形⑨

「おれ、なんでメイアンが好きだって思ったんだろ」

「おぉ?やっぱり勘違いだった?」

「勘違いじゃないって確信を深めようとしてんのに。クラさまがさ、他人ひとの気持ちや考えを持てる知識と考察で汲み上げ、温情厚く風雅でたわやかな解釈を示す、ってなんて煌びやかで気障ったらしいこと言うんだと思ったけど、最大にして最小の表現だったんだなって今頃納得した。おれに頼みに来たのに、警戒に気づいて、クラさまタカさまといる嫉妬にも気づいて、嫌々させないように取り下げようとしただろう。なあ、メイアン。輝媛さまは落ち込んでる人を見たからってそうそうお菓子で励ましてなんかくんないんだぜ」

「知られてないだけなんじゃん?」

「かの媛さまが、媛さまが励ましたってことを広く知らしめる意味を考えないわけないじゃん。あの方の菓子は縁を繋ぐ。世界を救うとかはまあ置いとくにしたって、媛さまはメイアンが行く先々で誰かと繋がるよう祈りを込めてくれたんだろうな」

「優しいひとだ。理想に据えたい」

「…媛さまには媛さまの悲しい事情もある。おれはぎりぎりだったけど、…メイアンは一族をすっかり失ってしまっただろう?」

輝の事情とはなんだろう。

「会ったことはないけど本家があるよ」

「そんなの他人。仙なんて大概孤独な立ち位置だけどさ、同族がいないとか不安だし…おれ、だからメイアンが同じ孤独を共有する同志かなって」

メイアンは少しだけ一初を覗く。

「朱鷺は今後続々と国家事業で殖やしてもらえるよ。いっちゃんはタカさんとクラさんが大事にしてくれてる。それじゃ駄目だった?」

一初は首を横に振った。

「その上でやっぱりメイアンが好きだなって思ったのってなんだろうって。あぁあ!こうやって本人に直接分析なんかぶつけるっておれ駄目じゃん!」

「ううん、聞かせてよ。Je t'aime、Ich liebe dich、Ti amoって吐き散らされるよりずっと沁みる」

「おれ、間抜けくない?」

「どこが?」

「クラさまは直ぐ気づいたのに」

「半日アドバンテージがあったよ。ふたりきりで出かけたいって行動力は賞賛に値する」

「褒められてる気がしない…でも、散々突っかかって嫌な思いさせたのは謝りたかった。機を見計らっていたらお前のことばっか考えて。嫌いじゃないで留めるつもりだったのに、洗い浚い言っちゃって」

「…なんで留めるつもりだったの」

「だって!おれ嫌なやつじゃん。背中の傷見ちゃったの、風呂覗いたようなもんだし」

「風呂の扉を開けたのはいっちゃんじゃないよ」

「芋蔓式にその傷の経緯を話させた」

「話したかったの。本当、この話、殆ど誰にも話したりしてない。京都では誰にも…」

驚いたような一初の開いた目と搗ち合って言葉が途切れる。

「どうして、おれに」

「…何故だろうね。自分でも不思議でならない。知ってもらいたいって。背中の傷は契機に過ぎないよ」

「おれのこと、その、好きだから?」

メイアンは目を遠くに投げた。

「好きか嫌いかってあんまり意味がなかったんだよ、今までは。だって誰もそんなに好きじゃないしそんなに嫌いじゃない。ウクライナから戻ってこっち、割と…仙達は好ましいけどね。そういう感覚でいっちゃんと向き合ってみると、可愛いな〜から始まって尊敬するようなことももう絶句するようなことも次々見せてくれる。つんつんしてるのだってその裏でちゃんとやることやってくれて、全体も見えてて。うーん、言葉にすると浅いなぁ」

「浅いか」

「いや、なんつうの?傭兵正規兵に有能な人いるわけ。人をぐいぐい引っ張っていけて、采配がよくて、勘が当たる。尊敬するね。抜けたとことかもあって可愛い、なんて思う。でもそこまでなんだよ。なんだろうなあ。いっちゃん?」

再度見ると一初は完全に両掌で顔を覆っていた。覆い切れない耳が真っ赤にはみ出ている。

「おまえ、どんだけ暑苦しいこと言ってるかわかってる?」

「暑苦しい?」

「おまえ…おまえ、おれのこと、問答無用で好きって言ったようなもんじゃんか!」

ばっと顔をこちらに向けられてメイアンは驚いた。熱でもあるかと思うくらい紅潮していた。

「問答無用」

鸚鵡返しにしてみて、首を傾げる。

「なんで?」

「おれが訊きたいよ」

「だってなんだかいっちゃんに話したいと思ったし、傍に行きたいなって。あれ。なんか甘えたこと考えてた。だからいっちゃんをむくむくさせちゃった?」

「今それ言うな」

メイアンは突如目を瞬いた。

「あれ」

「ど、どうした」

メイアンはそっと胸に手を当ててみる。

「…あぁ…うん、陰陽が回ってる」

「わかる…の?」

「気持ちがすうっと流れて回って、脈動してる。心臓の鼓動とは別の、滑らかな流れ。これが正しいものだって、うん、わかる。なんで?」

一初は唸り出した。

「えっ、いっちゃん?」

「…っ、うぅ…おれ、おれ、それ、っ、わかるよっ」

「いっちゃん?」

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