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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、山形⑦

メイアンの顔が一秒置いてばっと真っ赤に熱った。

「あは。おまえ思ったよりおぼこいな。うっわ、のめり込んじゃいそう」

「いっちゃん翼があるんだからもう飛んで帰れよ」

顔を覆った指の隙間から恨めし気に睨むと、楽しそうに返ってくる。

「やーだーよ。大体、朱鷺がいきなり米沢から村上まで飛んだらニュースになっちゃうじゃん♪」

「くぅ〰︎いっちゃんがどんどん洒脱になるうぅ〰︎」

一初の変貌ぶりには目を瞠るものがある。元来打てば響くようにテンポよく喋る性質なのだろう、そこに己の全てを与えたい相手が現れ、真正面から言葉を紡いでくる。下手に飾らない分ストレートが豪速球で突き刺さる。

「手を繋ごう。店に入ったら腕組んでよ。翼だったらできないことだぜ」

「いちいち粋がってる感じなのに似合ってて恰好好い〰︎何故だ」

「それはね、メイアン?メイアンの欲目だよ?おれ明日歯が全部抜け落ちる気がしてる」

頬の上から歯を押さえて笑う。

店内に入ると、想像より明るい雰囲気に呑まれそうになる。一初が囁く。

「道の駅って薄暗いものだと思ってた」

「壁と床が白っぽい。照明が強いんだろうか…」

加工食品や紙箱詰めの如何にもお土産用という菓子類、農産品。地域性はあるが並ぶものは大体同じだな、と見て回った中でメイアンは豆に目を止めた。

「小さい大豆だな」

「本当だ。まん丸い。へえ、小粒納豆用だったのか」

「納豆食べれる?」

「え、旨いじゃん」

「京都じゃ全然食べないんだもの。豆、ご飯に直接炊き込んでいいのか。これお土産にしよう、熊が喜ぶ」

「ならこっちのミックスの方が炊き上がりが賑やかで良くない?」

小粒の大豆に同じような大きさの、しかし黒や緑の豆が混ぜてあるパックを選び出す。

「黒神、黒千石、すずかおり、紅大豆…聞いたことのない品種ばっかり」

「あはっ、豆の品種なんて抑よく知らないけどな」

二つ買って食事を済ませる。

「こんな贅沢な米沢牛のお寿司食べたと知れたらクラさまにさえ半殺しだな」

「食べ物の恨みは怖いからねぇ。今度あの二人ともここに遊びに来なよ。念願の三人旅なんじゃん?」

そうだね、と一初は同意したが、少し寂しげだった。

「あんなにクラさまとタカさまと出かけたいと思ってた筈なのに、今そんなに熱量がない気がするんだ」

「親離れ?兄離れか」

「タカさまがよく言うんだ…いい加減さまとか呼ぶなって。今更どう呼べっていうんだ」

「弟には兄と呼ばれたいと思ってるんじゃん?」

「兄…佐渡放鳥から救出というか脱出だから、その時点ではレスキュー隊隊員って感じなんだよな。ここへ来てからは色々教えてくれて、人間らしい行動とか、親っていうか、教師?えっ、あれっ、おれタカさま達にとってなんなんだろう」

メイアンは困ったね、と息を吐く。

「彼らにはいっちゃんは弟だよ」

「弟ってなに?」

「後に生まれた男のきょうだい。まあ、血縁だけを指さないよ」

「弟ってなにしたらいい?」

「兄を慕えばいいんじゃん?」

「慕うってなにするの。クラさま、家事全般すっかりやってくれておれ全然することない。タカさま、いいよいいよって寧ろ遊ぼうって言うんだ。おれあの家でなにも役目がない」

「ぶっ」

メイアンは到頭吹き出した。

「ごめんごめん。いっちゃんが真面目過ぎて逆に極まっちゃった。家の中で子供の立場なんて現代ふわふわしてるよ。母親が躍起になって皿を運べだの風呂掃除しろとか強権的に役目を振っても子供はのらりくらり逃げて、それでいても子供は尊重されるんだよ」

「それは…普通な家庭でのことで」

「普通とか持ち出すなよ。いっちゃんあの家のガーデナーなのに」

「い、いや、秋にあの家に入って三人で殺風景だねって近所のコメリに行っただけだから」

「芝桜の小さな丘は綺麗だったなぁ。咲く花も降る花弁もピンクで贅沢。それに枯葉や花殻を綺麗に取り除いているよね。ごみにしないでちゃんと堆肥にしてさ。あんな有機的に回っている庭はそうない。簡単にできることじゃないよ」

今度は一初が顔を覆う番だった。

「メイアンが褒め出すと褒め倒される…」

「いいものはいいって言う。クラさん、きっといっちゃんに庭を任せているんだよ。エクステリア全般をちゃんと受け持って、玄関を飾る花まできっちりやってくれるからタカさんが他に働かなくていいから遊ぼうって言うんだよ。弟の才能を見抜いた優しい兄ちゃん達じゃん」

「才能って…植えたい花を植えてるだけ…」

「うん、ふふっ、やわらかいピンク、可愛いよな。夏には朝顔もピンクなの?」

「グリーンカーテンをやりたいけど、去年はちょっとすかすかだったから、上手く密にする方法を模索中」

「朝顔の日陰、風情あるだろうなぁ…夕方になったら三和土に打ち水して、ちょっとお洒落な蚊遣を焚いて…」

「メイアン、浴衣を用意してやるから遊びに来いよ」

「ピンクなの?」

「シックなのを探す。揃いの下駄は焼きで花緒は帯の色に合わせる」

「いっちゃんも浴衣が似合いそう。確り腰骨で帯を締めて胸元が少し緩むと色気が出るよ」

「はははっ、そしたらまた枕持って押しかけてこい」

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