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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、山形⑥

米沢までの気分は最悪だったかもしれない。原因は一初にあんなことを言われたからだ。想われることはとても悪くない…歓迎すべきことではあるのだが、いまの事態を鳥瞰的に捉えてみる…と、真剣になればなる程コミカルでしかない。真面目にバイクを走らせるメイアンの背中に撓垂れ張りついてハートを連続的に飛ばしている一初という絵面が浮かんで、段々と吐き気までしてくるようか気がしてきた。

恋愛的な感情を向けられるのは得意ではないが嫌なのではない。苦手なのは確かだけれども、と断りをつけた上で、それでも一初に想われるのは嬉しいのだよな、というところに落ち着き、それを幾度となくループしている。

吐き気に繋がるわけだよ、と息を吐いて国道13号に入る。

こん、とヘルメットを小突かれた。見れば信号が青になっている。ぼんやりしかかっていたらしい。いけない、こんな心配を一初にかけてるようでは。また一初が気に病む。気を取り直して道の駅に着く。

「…疲れた?」

「うぅん、違うよ。いっちゃんが折角全然違うところに位置情報を発信してくれたのに、カメラの多いところに行ったら齟齬に気づかれちゃうんじゃないかって心配になってさ。ねぇ、今の自分と同じ姿に化けることって、できるかな」

「へ?」

目を白黒させた一初にメイアンは目を伏せ気味に言う。今まともに一初を正視できる気がしない。懸念していたことは事実だが、違うことに摺り替えた罪悪感がどうしてもつき纏う。

「さっきやったみたいに、違う像を被せるだけだと本体が映像に残るよね。だから、いっちゃんが人の姿をとっているように別の姿を作れば映らなくなる。でもさ、折角いっちゃんといるのに別人にはなりたくないんだよね。だから自分の像を作ってみたらいいんじゃないかなって」

一初はなんとか合点に達したらしく、唸った。

「先ずは人の姿を作るところから、だから、本来ならあんまり考えずにできることなんだけど、メイアンは元から人なんだよなぁ」

「裡なるなんとかをえーい解放!って感じ?」

「こういう形になるんだーってモチベーションがあるっていうのかな。メイアン、無いだろ」

「無きゃ作る」

「慌てるなって。京都のお歴々にちゃんと教わった方がいい」

「けど…」

「米沢の道の駅の規模にびびったとか言うなよ」

「いやびびるって。飯豊の道の駅もコンビニついてたけど建物別だったからあんまり気にしなかったけど、ここは同じ建物の中にある。その上新しい」

「そんなに目の色変えて追い回されてる?黒川まで追いかけてきた奴ら、まだ解放してないんだろ?だったら奴らがまだ追いかけ回してることにすればいい」

「そんな簡単な解釈に飛びつくかな…」

「メイアン、ごめん」

「な、なに?」

「メイアンに言わないでいたことがある」

「えっ?」

「言う程のことでもないと勝手に判断した、というか。黒川で襲ってきた奴の携帯にも、メイアンを追っているのと同じ追跡アプリが入ってたんだよ」

「…奴らも、こっちを追い回しながら追い回していることを誰かが監視していた、のか…」

「そう。だからメイアンの位置情報を追い回していることも、発信されてるんだ。メイアンと出かけるのに浮かれて、言いそびれてしまっていた。謝る」

深く頭を下げられ、逆に罪悪感が膨大する。

「やめ、やめてよ。そんな細やかな気配りされてると思わなくて…こっちが謝りたい」

「なんでだよ」

「いっちゃんを見縊ってたってことでしょう」

「侮り易いよう子供の姿をしてたんだ、当然だよ。いい、メイアン?おれ、できる範囲は本当に限られてるけど、全力でメイアンに応えたいんだ。少ししか頼ってくれなかったら少ししか応えられない。目一杯、全荷重をかけてくれよ。フルパワーはそれでなきゃ出ない」

「そんなことできない…」

「今上のプロポーズの言葉は全力でおまもりいたします、だっけ?あのうっすい感じの人がよく言った!っておれ思うんだけど?」

「うっすいとか言うなよ」

「あれくらい言えなきゃ男が廃る。できることは全部やるよ」

メイアンは俯いたままぽつりと零した。

「…勘違いじゃ、ないといい…」

「だろ?」

「いっちゃんが鳥類だってこと、失念していた」

「なんでそうくる」

「鳥は…押し並べて情熱的」

「そうかなぁ」

「家も財産もなんにも用意しないで求愛するのは人間の男くらいなもの。鳥の雄ときたら営巣するわ囀るわ踊るわ舞うわ贈り物するわ情熱的この上ないんだった」

「鳥全部がやるわけじゃないけどな。まあ、互いを選んで、選ばれたい。手間をかけ労力を払ったのだから永劫大事にする。そういう鳥、多いよ」

「性質を無視したのは本当にいけなかった」

すると一初は声を低めた。

「おい、メイアン。鳥の性質をピンポイントで突いて恋に落とし込んだとか言い出したら許さないぞ」

「だって、いっちゃん」

「そういう手管を使われたら、確かに陥落し易いんだろうよ。でもおれはもう鳥じゃない。仙で、人の姿でメイアンと出逢ったんだ。じゃなきゃ勘違いかどうか確かめるなんて面倒なことするか。メイアンこそ、自信を持てよ。おれの好意を恋にしたのは、おまえ。おれメイアンに好きだと言ったの二度目だぞ」

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