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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、山形③

苗売り場があり、メイアンは目敏くその苗を見つけた。

「行者大蒜♡」

「まだ食べてない癖に」

メイアンはこのタンデム旅を記憶に残し、手許で苗が育つことで記憶を蘇らせては新たにしようとしているのか、と胃の奥の方が温められた気がした。

「そうなんだよ〜気になるじゃん。それにね、この苗お土産にしたら忠遠が喜びそう」

「…四条さま?」

不意につっと背中に冷たいものが走ったような感覚になる。走ったそれが顳顬と連動してぴくぴくと痙攣させている。

「忠遠の庭は一見和風な設いなんだけど、植えてあるのはなにがしか薬効とか毒とか香りとかあってね。変な果物もあるなぁ。木通あけびがあると思ったら郁子むべもあって、そしてポポーがあった」

「くっ…詳しいね」

今口を開くととんでもないことを口走りそうだ。なんとか穏健に置き換えて絞り出す。

「熊が教えてくれたんだ。もう庭園の形をした薬草園メディカルガーデン

庭いじりに励んでいるという自負があるだけに、今度は不思議な対抗心が湧いてきた。

「…四条さまとは、長いつき合いなの?」

あーあ、探りを入れ始めちゃった、と己にがっかりしたが、知りたいことは確かに知りたい。

「いんにゃ。二月にドンバスから連れ出された、そこから屋敷に置いてもらってる」

「四条さまが、直々に?」

「直々って、忠遠も誰かに言われて迎えにきたみたいだよ。ん?忠遠って下っ端なの?」

「馬鹿言え。京都のあんなど真ん中にあんな広い邸を構えてるんだぜ。千年以上生きてる化け物だ」

「化け物、ねぇ…」

「千年生きてても寒霏さまはどうもなんというか、だけど」

「カンピーのことは便利な乗り物だと思えって言われた〜。でも最近ちょっと勉強し始めたみたいだから、悪魔的天才モフェット博士開発の超音速攻撃ヘリくらいにはなれるかも」

一初は胃の上の方がちくちくするような気がしてきた。

「なんだよそれ」

「ジャン⹀マイケル・ヴィンセントはなかなかイケメンだったけどね」

珍しくメイアンが容姿を褒めた。誰だジャン⹀マイケル・ヴィンセント。

「こういう香りのもの、入道さんはどう思うのかな」

「入道さんって亥の入道さまか?」

「へへ知ってる?拉麺屋やってるんだよ」

メイアンはフライパンのことをやっと思い出した。

「そんな方ともお知り合い…」

「違う違う!忠遠の知り合いだったの!アキと久我を、ね、育ててたから、その縁でっ」

「アキ?久我?」

「アキは中鷺、久我は五位鷺の仙なの。二人共バイト頑張ってて。久我がねNSR盗もうとしたことがあってさ」

「盗む?」

声高になりそうになるのを無理矢理抑えて一初はメイアンに詰め寄る。

「未遂だって。久我はね、姉ちゃん怖いってがたがた震えるような可愛い弟くんなんだよ」

またか。

「中鷺を姉と呼んでるのか」

「アキ曰く…鷺って色んな種類が寄り固まってコロニーを作る性質があるから一緒にいるとそんな風に思えちゃうんだって、べったべたの京都弁で言われたなぁ」

はぁ、と一初は溜息を吐く。

「どしたの」

「メイアンを京都に帰したくなくなってきた。物凄い仙とか可愛いとか言われちゃう仙とかそうぞろいるところにいたら、おれのことなんか絶対希薄になって忘れられる」

メイアンは苗を四つ買って二つに分けて包んでもらう。そのうちのひとつを一初に差し出した。

「これ。いっちゃんが育ててよ。山菜だし上手くいかなかったら別の苗買ってきてもいいから」

「あの、メイアン?」

「さっき言ったじゃん。尊敬したりするのは結構あるけど、恋しないできたんだって」

「でもさっき久我とかいう…」

「久我は天然でおっちょこちょいなだけ。母性本能的なところが擽ぐられて可愛いなと思うんだよ?あのね、いっちゃん。ヴァールの話、自発的にはいっちゃんにしかしてない」

それにしては知っている様子の面々だったが。

「…はー〰︎おれはどうしてこう底が浅い…」

「底知れないと思ってるのに」

「どこが?」

「そういうとこ。十八年で形成できる性格や行動基準なんてもっと浅いんだって。あと十年経ったらどうなっちゃうの。忘れられるのは、こっちの方だ」

メイアンはバイクに跨り少しだけ寂しさを滲ませエンジンをかける。一初は慌ててタンデムシートに跨り、メイアンの胴に腕を回した。

「馬鹿言うな。おれの我慢はメイアンがそうしろって言ったからだっ。間違ってなかったら責任取れよ」

腕がきゅっと締まる。バイクの上でなかったらこれはもうバックハグ以外のなにものでもない。

「…責任だなんて、色気のない。そのときは絶対ひんひんいわせちゃるかんな!」

メイアンは後ろに手を回してつんと脇腹を軽く突く。真逆の攻撃に電撃でも受けたようにびりびりと震えるのを背中で感じてメイアンは心が軽くなる。

…一初はわかっているのだろうか。笹川流れからこっちずっと愛を囁いているようなものなのだ、と。

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