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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、山形②

「メイアン!また道の駅がある」

「寄ってみる?」

「もちろ…時間が許す限り、なら」

メイアンは答えず道の駅の駐車場に入り込んだ。バイクを停めてヘルメットを取ると、天を仰いで笑う。

「時間!あーっはっはっは!時間て、いっちゃん!」

一初はヘルメットを取って口をへの字に曲げた。

「もう直ぐ正午だ」

メイアンはぴょいと降りるとなにかを見つけたらしく目を輝せ、その目をくるりと振り返って一初に向ける。

…理性的だった笹川流れのメイアンはどこへ行ったんだ。

一初は心の中で罵ってみる。とても悔しい。全身で一初といる時間を楽しんでいて、留まれ勘違いかもしれないよなどと言った彼女自身を本人が思い切り否定している気がする。メイアンも一初と過ごす時間を惜しんでいて、少しでも多く、濃く、厚く、熱くしたいと願っているのだろうか…それでも勘違い説を捨てないのだろうけれども。

「メイアン、まだ長井にも白鷹にも行くんだろ」

「いっちゃん、苺狩りだって!やろうよ!」

聞いていないふりをしたな、と一初は額を抱えた。

「いっちゃん言うな」

「苺狩り!」

袖を引いてぐいぐい温室へと連れてゆく。結局一初は折れて苺を摘んでは口に入れるを始めていた。

「ルビーベリーってブランドで品種はとちおとめなんだって」

「身が確りしてるというか…硬い?水耕栽培でこれでもやわらかい方なのか?」

「やだね、えちごひめ食べ慣れてる人は!あれこそ特別なんじゃん。普通苺なんてこんなもんだよ?」

流石に元を取るぞとまでは言い出さなかったが、メイアンは摘んで食べるが楽しいらしい。赤くて綺麗だとか本当にルビーのネーミングにぴったりだねとか相変わらずなことを言い散らかしてはいるが。

「いっちゃん?苺もしかしてあんまり好きじゃなかった?」

「そんなことはない。ただ…メイアンの燥ぎっぷりに驚いてる」

こういうことは言うべきではないのだった、と額に重石が載ったような気分になる。メイアンに恋愛感情かもとぶちまけたばかりの一初は、恋愛以上に感情や気分の大きく急激な変化に不慣れだと暴露してしまったようなものだ。そんな羞恥を押し隠してメイアンを見ると、何故か照れたように苦笑いしていた。

「子供みたいなことした。苺狩り初めてなんだ」

「…おれもだけど」

一初は答えてからまた失敗した、と内心で舌打ちしていた。抒情的に、せめて情緒深く同意を示して未知の体験を分かち合うべきだった。だから勘違いと言われてしまうのだ。

「タカさんが連れていってくれてるかと思ってた。へへ。誰かと、って楽しいよね。新潟着いてからもう楽しくて楽しくて」

拍子抜けした顔をしていたのだろう、メイアンは慌てて言った。

「ごめん、誰でもいいって意味じゃない。いっちゃんあのね」

一初は黙って旨そうな苺を見つけると蔕を毟り言葉を遮るようにメイアンの口に押し込んだ。

「言うな。メイアンが他の人といてこんなに燥ぐとは思わないよ。おれだから、でいい」

メイアンが慌てて苺を咀嚼したのを見て再度同じく苺を押し込む。

「あ。なんか凄い楽しい。もう一回…」

「やめい!息が詰まる!」

今度は慌てて飲み込むような真似をせず苺を口から外した。

「ふふ。おれ気づいちゃった」

「なにをだよう」

「メイアン、おれのこと好きだろ」

「嫌いになんか思ったことないよ」

「おいおいそういうレベルの話してないだろう?」

メイアンは外した苺をもう一度口に含んでゆっくりと噛み砕く。

「…甘酸っぱい」

一初は目を思わず細めた。

「ふ。それ苺の感想?」

新しい苺に手を伸ばしながらメイアンはゆっくりと口を開く。目を合わせないようにしてるのだと一初は理解した。

「偉そうに言ったけど、生きてる時間が長いからって誰かにこんな気持ちにはそうそうならないんだ。尊敬とか羨望とか…恋に似た、いや、恋に発展する前の前駆的な感情っていうのかな?そういうのは随所随所持つことがある。でもそこまでだ。むむ?夢でも見てるのかな?」

「何故そこで飛躍するんだ」

「夢って欲望と記憶を映し出すものじゃん。到頭そういうお歳頃になったのかなって」

こて、という風に首を傾げる。

「お歳頃って…」

一初は自分用に摘んだばかりの苺の蔕を取ると、改めてまたメイアンの口に押しつける。

「馬鹿言ってんじゃない。おれに応えようとしてる自分の心に嘘を吹き込むな」

慌ててメイアンは口から苺を外す。

「えぇえ?そんなことしようとしてるかな?」

「どこの部分がそんなことなんだ」

「…だからいっちゃん…」

おれのこと好きだろ、なのか。

お歳頃などと気分に摺り替えてしまうな、と釘を刺されてしまうわけだ。

一初は真正面から凝視できないよう真横に立って苺を摘む。

「おれが勘違いしてないか確認中だから、変に盛り上がっちゃなんないの、メイアンが自制をかけてるのはわかってる。だけどそんな風になってくれるの、嬉しいんだよ」

「いっちゃん…」

「初めての苺狩り。初めての恋かもしんない?メイアンも混乱しそうだよな。吊橋効果でできた気持ちなんて贋物だから、今は、夢ではないことだけはっきりさせとけ」

メイアンは持ったままだった苺をゆっくり齧った。その一粒を食べ尽くすと一初に向き直った。

「…いっちゃんは凄いね」

「なにがだ」

「本当にいっちゃんこそ初恋なの?こんな状況になったらうはうは便乗して相思相愛だーがばーっ!と即行動になるもんだよ?人間の十八歳の思考なんてそのくらい幼いのに」

「いやいやいやおれ勘違いかも、ならメイアンまじ困るじゃん」

「だからそういうこと考えらんなくなるんだって」

「ははは。おれ尻馬に乗ってきたもんな♪NSRの」

「言うねぇ」

戻ってきたな、と一初は安堵した。悩むメイアンより、全然いい。

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