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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、山形①

メイアンは北上を取り止め、村上市街へと走り始めた。庄内や最上の方は無茶だったな、と舌を出して苦笑いする。

「遊佐まで行くつもりだったのか?」

「そこまでは流石に…」

山形の最北の街を言われてくつくつ笑い出す。

「村山は時間が間に合えばな〜くらいだったけど、鶴岡行って山形市へとか…無謀だったね」

「おいおい鶴岡って山形で一番広いんだぞ…」

「へへっ、だから飯豊いいで、長井、白鷹で米沢回って喜多方に行く予定」

「また県を越える気か!」

「会津、近いよ?新潟と繋がってるし」

「おまえの距離感覚面妖しい」

「そうかなあ」

「お…おれが多岐神社に行きたいとか言ったから?」

急にしゅんとした一初にメイアンはまた笑い出す。

「いっちゃんといるのに、街場を走ったってつまんないじゃん。こんなに陽気もいいのに、折角なら新緑の中の方がきっと楽しい」

信号が変わり滑らかに滑り出したNSRは村上市街を経て関川村に入る。土地の高低差を利用した段に連なる田圃は田植えが始まっていた。

「凄いね、杉林ばっかりだ」

「植林したはいいけど、需要と後継者がいなくて荒れてる。杉はこの世の害悪のように言われてるしな」

「…花粉症か。誰が悪いとかじゃないだろうにねぇ」

暫く一初は黙り込んでいたが、ぽつりと言った。

「また、メイアンと来たい」

「おやおやおや?」

「関川、なんにもないみたいに見えるけど、こんな風にメイアンと走って、見てまわりたいところが、あるし…その」

「ん?」

「〰︎もう、最大級に楽しいっ。村上だってそうだったっ。住んでるところなのに、知ってるとこなのに、なんでこんなにぼんやりしてたのかって!仙だとか人だからとかそういうの打っちゃって、こうやってくっついて、バイク乗ってるのも楽しいし、田圃も林も空さえいっぱい語りかけてくる!」

メイアンは笑ったようだが答えずまたスタートさせる。胴に腕を回しているとギアの操作やブレーキ、アクセルの開閉が身体ごと伝わってくる。共に身体を傾けながら進むと、土地が次々と幕を開いてゆくようだ。

関川村役場を過ぎると線路と並走を始めた。

「米坂線だよ」

「線路が荒れてる」

「去年八月の豪雨で萩生から坂町まで運休してるんだ。何十億ってかかるのに乗降客が少なくて復旧の目処が立ってない。多分…JRは復旧する気無いだろうな」

「地域が困るでしょうよ」

「バスで代替運送してるし抑利用客が少ないんだ。山の中の鉄橋が落ちたりしてて、何年もしない裡に廃墟になる。運休してんの殆どが新潟側で、新潟は一家の人数分車があるようなところだ、移動は各自ご勝手に、って論法」

「そっか…もう国鉄じゃないから企業としての理屈が先立つんだな。こういうところの鉄道旅、楽しそうなのになあ」

「タカさまが使えるところに手漕ぎのトロッコ体験場とか作ればいいのにとか無茶苦茶言ってたよ」

「あははっ、そういう小銭を拾うような仕事はJRのプライドが許さなさそう〜」

「ジブリ映画でぎこぎこやってるの、羨望を持って見てる人いっぱいいるだろうにね〜だなんて言うんだ」

「募集をかければなに鉄だかが集まるよ」

道路表示が山形県に入ったことを示した。両側の木々が高く聳え、谷底を走っているかのようだ。

「小国の道の駅に入る?」

「お土産、馬刺しだけだとクラさまが泣き出してしまいそう」

腹は減ってないんだよな〜と言いながらバイクを降りると、本館らしい古い建物から少し離れた白っぽい建物に目がゆく。前にテントが張ってあり、熊鍋と書いてある。

「野趣溢れてる」

「山菜もいっぱいだ。行者大蒜がある」

鈴蘭より大きく長い葉が纏められている。

「旨いの?」

「山菜の概念が覆る」

結局熊鍋も買って口をつけてみる。

「うーん、熊肉の味を知らないから旨いのか不味いのかわからない。将に謎肉」

同じ箸でいい、と一初も恐る恐る口をつける。

「うん…牛でも豚でも鶏でもない。臭いわけでもない。飛び跳ねて喜ぶようなものでもないけど…不味いとかいうものでもない?」

店の前で旨いの不味いのとも言えずじりじりと離れながら小声でひそひそと額をつけ合うように感想を言い合ってみる。

「押し並べて…普通に食べれる珍味?」

「珍素材、じゃん?」

「滋養はあるというよねぇ。漢方の素材にも使われるし…」

「それはさ、蛋白源が少なかった時代の話なんじゃないの?」

くすくす笑い合って代わり番こに箸をつけ空になった器を片づけると、改めて行者大蒜を確かめてみる。葉そのものに触れてもよくわからなかったが、切り口からは大蒜臭がする。

「強烈なようだけど、大蒜程ではない?」

「あははっ、バター炒めにするといける。山菜って天麩羅のイメージだけど、揚げるとこのぺらんぺらんの葉が台無しなんだ」

「へぇ、バター炒めにする山菜。楽しみだな〜」

再びバイクを進めて小国市街を抜けると国道113号はまた山の中になる。車両が全く往き交わない米坂線が右になり左になりつかず離れず並走していたが飯豊町に入ったところで県道10号長井飯豊線に沿うように逸れていってしまった。

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