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狐と踊れ  作者: 墺兎
73/321

2023年4月、新潟㊶

甘え方が可愛くて、女冥利に尽きるってやつ?それとも甘やかしても甘やかし切れない弟?

「…メイアン」

「ん?」

「誤解の多い言葉になるけど…おれ、メイアンのこと、好きだよ。廉い言葉だけど最近流行りの魅了とかそういうやつなんじゃないのって自分を殴りたくなるくらい。でも、ジェンダーからくる衝動とは違う…と思う」

「いいのに、そんなこと」

顔を上げないまだぐっすんと鼻を鳴らす。

「聞けよ。いいやつで腹が立つくらいなのに、メイアン、おまえが誰かに利用されるの嫌なんだ。そういう好き。…だと思う」

「…煮え切らないね」

「こうやって近くに寄ったらわかるのかと思ったけど」

また洟を啜り上げた。

「…余計わかんなくなった」

「うーん。こんな性別不詳みたいな状態で成長の止まってるりに萌えたくないって、身体が絶賛拒否ってるんじゃん?」

一初は暫し黙り込んだが、軈てメイアンの服に染み込ませるように言った。

「…じゃあなんで勃つんだ」

メイアンは低音で被せ気味に即答した。

「勃たすな」

一初は悔し気に唸る。

「いっちゃん、聞け。想像していることと絶対違うから」

まだ肩は重い。寧ろ熱を帯びてきている。

「おれ子供だもんな」

「違うね。思慮が深くて倫理と優しさを持ち合わせてる」

「知恵が足らない」

「そんなの経験値だ」

「顔か」

「問題ないだろう」

「TPOを弁えてないからか」

「頑張れ。鎮まれ」

「性的に見られたくないよな」

「そういう構造に生まれついている以上そこに価値を見出されるのは生物として喜びだ」

「おれ嫌なことばっか言うから」

「素直じゃないツンデレを自爆さすなよ」

「まさかの雄だから?」

「おいこら勝手にマイノリティへ押し込めてくれるな」

「おれの本性が鳥だからか」

「鳥?ああ、刷り込み(インプリンティング)…それは孵るときだろ。あのな、いっちゃん。少し冷静になれ」

「おれ、冷静じゃないのか?」

「その滾らせてんのをどうにかしなきゃ冷静だとは言ってやれない。いいかい、目の前にいるのはいっちゃんの五倍生きてる。仙じゃなきゃ食指すら動かない皺くちゃ婆あだぜ?」

「…逃げ口上できたな」

「逃げてない。いっちゃんの布団に入り込んだのがいけなかったかもしんない。男じゃないのと眠るの、お初だったんでしょ」

肩の上で一初が口を尖らせたのがわかる。

「いけないのかよう」

「それどころか、女の姿の仙と相対するの、初めてだったり?」

「全くゼロじゃないやい。…でもこんなにじっくり話したのは、確かに初めてだ」

やっとメイアンは相好を崩した。一初の右手を左手で、左手を右手で、そう、全部握ってしまうのではなく彼の指のところだけを包むように握り締める。

「ごめんな、そのお初がこんなフェロモン薄げな中性型で」

「…それはぼいーんばいーんじゃないと普通はむはむはしないって意味?」

「どうだろ。かも。女性ホルモンが覿面に作用した結果でしょ。ねぇ、いっちゃん。初めてのことって、どきどきするもんなんだよ。その上スペクタクルっぽい話もしちゃったしさ。だから、今は鎮まりたまえ」

「もうおさまってるって。手、離せよ、またなるかもしんないだろ」

「…なるの?」

「なったら嫌だろ」

「どうだろ。いっちゃん、もう少し視野を広げて女の子と話をしたり親しくなってみなよ。じゃないと、」

がば、と顔を上げた一初はメイアンの言葉を遮った。肩がすっと冷たくなる。水染みができていた。

「おれのこと嫌だからって他の女を勧めるのは止せ」

目の周りが赤味を帯びて、てらてらと光って見えた。泣かせちゃったな、とメイアンは内心で反省した。

「んもー、いっちゃんたら情熱的になっちゃってぇ…違うって。他の女でも男でもいい、いろんな他人をよく見て大なり小なり関わってみてみろって。それでもメイアンにぎんぎんだよってなら本物だろ」

一初の首が転がり落ちるかのように項垂れる。

「勘違いの疑い…」

「突っ走って後々真実の愛を見つけた!なんてそれこそ漫画。洒落になんないよ。そのとき一番悩むことになるのは、いっちゃんだよ」

メイアンは手を強く握り、一初の目を覗き込んだ。

「勘違いじゃない方が、そりゃ嬉しい」

「むかつく」

「決死の告白を潰したんだ、いっちゃんには怒る権利がある」

「…こんなにけっちょんけっちょんにされてんのにそれでもいいやつだなって思う自分がマゾヒスティックで嫌んなるだけだ。この気持ちを捨てない」

「マゾだって気づいたこと?」

「違うわ!」

「ふふ、冗談冗談。生理現象に振り回されないでくれて、いっちゃんは懐が深い」

一初は口をまた尖らせた。

「またそうやって簡単に褒める。言葉が廉くなるぞ」

「讃えたいときに讃えなくてなんの為の言葉だよう」

握りの緩んだ手で一初はメイアンの額を掻き上げ、唇を押しつけた。朝貰ったのと同じ、欧風な挨拶のように。

「憶えてろ、忘れるんじゃないぞ」

額を慌てて押さえたメイアンににやりと笑いかけてみる。仙なのだから、急ぐ必要はない。

「笹川流れまで来ちゃったな。ねぇメイアン、寄りたいところがあるんだけど、いいかな」

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