表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐と踊れ  作者: 墺兎
61/321

2023年4月、新潟㉜

ファンタージェンに紛れ込んだ気分はどうだと忠遠に問われたことを思い出す。バスティアンはファンタージェンに在っては、現実とリンクしながらファンタージェンの問題解決に奔走する。

ここは、OHPシートのように幾つもの現実が重なり合っている。大概ひとつのシートの中で暮らしている。別のシートの内容をも知ることができる者もいる。別のシートを知ったからといって全てのシートをも見通せているとは限らない。切り離されたファンタージェンではなく、同時に在るファンタージェン。ここを認知している以上看過できないのはメイアンも一初も一緒だ。

「いっちゃん。ひとつだけ、約束してほしい」

「なに?」

「デジタルは、記録に残る。残すな、というのは無理なのは承知している。でも、残さないで」

「なに言ってるのかわかってる?」

「8200部隊だったら、手を引け」

一初はぎっと音を立てて背凭れにに身を預けた。

「ペガサスか」

クラとタカが呑み込めず胡乱な表情になる。一初は目を擦った。

「そんなのが相手なのか」

「かもしれない。考え得る最悪だったら、やばい」

沈痛な沈黙が流れる。暫くしてクラがそっと口を開いた。

「…訊いても?」

一初は嫌そうに言葉を絞り出した。

「ペガサスはNSOグループが開発したスパイウェア」

メイアンは下唇を噛む。

「NSOグループはイスラエルの企業で、主にイスラエル軍の退役軍人で構成されている」

「えぇ?」

「イスラエルは十八歳で兵役義務がある。そこで最も手っ取り早く軍人を作りたい、しかし若い人員を失いたくない。だから大半に諜報技術を叩き込む」

こんなことを若い一初に言わせたくなかった。

「兵役が終われば技術者になる道も開ける。人口の少ない国なんだ。流石はユダヤ人の国と言わざるを得ない」

「もういいよ、いっちゃん。8200部隊はイスラエル参謀本部諜報局情報収集部門の一部署で、アメリ(N)カ国家安全(S)保障局(A)に匹敵する。軍事機密にかかる知見が高く、大胆な行動をする超精鋭部隊なんだ」

「大胆な行動」

「敵認定したら、兎に角弱点を探し、盾に取り、脅す。身内に味方を売らせる。そういうところのOBが作るスパイウェア。標的はスマートフォン。感染すると行動履歴だの、メールだの、写真、SNS、通話履歴、いや通話内容まで監視し、勝手に情報を抜き取らせる。それがペガサス」

九頭龍がぼそりと口を開く。

「羽の生えた馬か。皮肉だな」

「爺さま?」

「ペガサス。英雄ペルセウスの乗騎として知られておるが、英雄ペレロポーンの馬でもある。メドゥーサの首から生まれた海神の子。メドゥーサもまた古い海の神のすえであるから、海と深い縁がある。だがペガサスは屢々騎手を振い落とし没落させる。海神ポセイドンの子でありながらゼウスの為に働く。どの部分を意図して名づけたのやら」

メイアンはふーっと大きく息を吐き出した。

「このスパイウェアは割と独裁者とか強権的に国を動かしている首長が購入する。自分に不利な情報を公開させないようにジャーナリストに脅しをかけたり、紛争地域のゲリラを潰す為に使うとされているが、2018年にアラブ首長国連邦(UAE)ドバイ首長国の首長の娘のラティファ・アル・マクトゥーム王女が国外逃亡を図るも、このペガサスで追跡されて失敗している」

「追跡…位置情報ですか?」

「ペガサスが入れられたのはラティファ王女だけではなく、逃亡を手助けした友人や関係者の殆どを芋蔓式にペガサスで割り出し、そこにもペガサスを入れて決行日時、使う手段、行路ルートを完璧に探り当て、小さな小舟でインドへ逃れようとしていたところで捕まってしまった。鎮静剤を打たれ意識を失い、プライベートジェット機でドバイに着陸するまで目が覚めなかったという。以後自宅別荘で監禁されているという。生死は不明。2021年にビデオメッセージが流出したが、果たして本物なのか。一説によれば薬物を打たれ拷問を受けているともいう。ドーハアジア大会の馬術の障害飛越競技で銅メダルを獲得するような活発な女性なのに」

「面識が?」

メイアンは皮肉げに笑う。

「ドバイなんて金持ってなきゃ入れない。友人の友人の友人ってやつ。いい逃亡先はないか訊かれた。仮に携帯にペガサスが入れられたとしても、もう持ってない。名前も違う」

「メイアンの携帯にペガサスは入ってなかったよ。初期の頃はケーブル繋いでインストールする必要があったけど、最近はURL入れてアクセスするだけでいい。一説に拠れば遠隔で入れられるなんていうけど、そこは眉唾だな。スパムには気をつけることだね」

「変なメールは開かないよ」

「メールとは限らない。ゲームしてると特典ゲットに広告見させられるじゃん?あれで誘導させられる。アクセスする気が無くても画面に触っちゃうだけでサイトに飛ぶから要注意だ」

そして一初はふんと鼻を鳴らした。

「ゲームに商業主義を持ち込まないでほしいんだよねー。や、ゲームだって労力かけてんだからどっかで金を回収しなきゃなんないのはわかるけどさ。ただあの広告の入れ方はちょっと疑問だね」

「なんで?」

「トラッキングで情報を勝手に持ってってる。勿論オフにすりゃいいんだけどさ。勝手に持ってった先で判断するのはコンピュータだ。なにがわかる。傾向?最近の興味?嗜好?それをどこかにビッグデータとして蓄積すんの?勘弁してほしい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ