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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟㉛

九頭龍はタカに焼けたか?と尋ね、程よく焼き色のついた豆大福を皿に載せて受け取った。

熱いようで、直ぐには手をつけず、代わりに口を開いた。

「約束させても、無駄だぞ」

「うーん、そうだよねー…」

一初は膨らませた頬が紅潮している。それを見てメイアンは笑い出した。

「うわー、可愛いからやめてぇ」

爪が当たらぬよう指の腹を押しつけてくるのがわかって一初は意地を張るのをやめ…にこそできなかったが、そのボルテージを下げた。

「いっち。お食べ」

タカは一初の前にも焼き豆大福を置いた。

「メイアンにも」

「ああ、ありがとう…」

メイアンは箸で大福を割って口に運ぶ。

「餡がちょっと冷たくて、外側とのギャップがいいね」

一初が大福の熱さに辟易しているのを見てふっと口許を緩ませた。そして食べ終えるのを待って口を開いた。

「いっちゃん。下手こくと、凡ゆる仙達へ害が及ぶ、そんな瀬戸際なんだ」

「なんで?」

「…どこまで向こうさんが把握してんのか知らんけど、少なくとも早く治ると知っている。これを能力と捉えて、獲得を目指してる」

「メイアンを捕まえられないとなったら、別の仙にターゲットを変えるってこと?」

「かもしれない。突発的に仙は生まれてくる。規則性は、今のところ見出せていない。狙ってくる奴らの近くに仙が生まれてきてしまうかもしれない」

言いながら、脳裡に過ったことにぎくりとした。クローンだって人間である以上、仙になる可能性は零ではないのだ、ということに。

「過多な人間を減らすことに邁進してる集団なのだと自己紹介されたんだけどさ、人間を減らすっていう言葉の裏には減らす人間と残す人間とを選別するってことが隠されてる。残す側に選ぶ基準は、言わずもがな優れているの一言に尽きるんだろう。優劣ってなんだ?人が人を淘汰するってなんなの?そこに用いる手段って、…戦争とか馬鹿じゃないの?」

「メイアン…」

「戦争屋やってた癖に、勝手なこと言ってるのはわかってる。でも…でも…」

もう支離滅裂なのはどうしようもなくなっていた。根本的な打つ手が無い以上煩悶しても無意味なことも痛感している。

「…人間が身勝手なのは、ふん、わかってるよ」

「いっちゃん」

「おれ、朱鷺じゃん。稲作が主流の時代には害鳥で、羽の色で狩られて、挙げ句人間が作り変えた環境にどうにかこうにか適応しようとしたら到頭絶滅した。それを人間が今度はやばいってたった数羽からまた殖やし直した。今世界中にいる朱鷺は大陸にいるのも含めて血が近い。おれ達はもう種として異常なんだ。こんなおれも、危機感を持ってる。偶々メイアンは人間の仙で、見え易いターゲットだ。その他の仙はまだ未確認なんだろ。メイアンは、未確認のままにしておきたいんだろ」

「いっちゃん…」

「人間は、人として定義した以外のものは、見えない。メイアン言ってたじゃん」

身分制の強力な時代、殿上人以外は人として認識されない。記録に残らず、記憶に残らなかった。そして謎の力として伝承された。

「なんで見えない力を、使わない」

「だ…だっていっちゃん」

「安穏とした暮らし、最高だよ。でもさ、仙だって地球上にいる。あー、漫画みたいに存在意義とかなんなんだよ!とか叫び出したりはしないよ。けどさ、メイアンは助けてやりたいなって、おれは思ってるんだよ」

そう言うと一初はぷいと横を向いた。タカがにこにこしながら一初の頭をくるくる撫でるのを一初は真っ赤になりながらも払おうとはしない。メイアンは顔を覆って絞り出す。

「…いっちゃんが物凄くお馬鹿で賢い…」

「褒めてないぞそれ」

ぶすっと反論する。クラがふふ、と笑いながら言う。

「四条さまが京都のご邸宅に施されているからご存知かもしれませんが、この家も外部から殆ど認識されていないんですよ」

「殆どって零じゃないじゃん」

「零にしてしまうと完全に断絶してしまいますから。地域や人の暮らしと関わりを残していますので零にしていないだけです。メイアン?貴女はここ村上をとても平和で穏やかな土地だと思ってくれているようですが、1945年には進駐軍が上陸を試みるような場所なのですよ」

「昭和20年?終戦の年?」

「そうです。瀬波浜に軍用物資の陸揚げを行う為に三ヶ月程接岸してました。大時化になったので錨を切って粟島に避難してしまいましたけどね。わかりますよね、誰も見ていない場所ではないのです」

「おおっと、だからここ強襲されるとかいう意味じゃないよ!」

タカが口を挟む。

「逃げてるだけじゃ駄目。いっちが前線に立つのは反対しますけど、だからって秘密裡に潰されるような真似はさせない。なにしろ我々、この地域の守り神らしいから」

「クラさんとタカさんまで好戦的にならないでよ…」

「いいえ。戦いなど好みません。おかみとしてできることをします。一初が調べてまわれば、確かに危険度が高まるのでしょう。それは一初ひとりが危険になるのではなく、この家が、この地域が、仙達が、人間達も、延いては全世界的に、と繋がるのでしょう?」

日が浅いとはいえ、神として祀られ龍となったクラとタカの意識は高い。

「ねぇメイアン。なんで我々が高龗と闇龗と言われると思う?」

たかは高いところ、山を意味していて、くらは窪んで暗くなるところ、谷を示しているのでしょう?」

タカは頷いた。

「山の稜線は、龍。谷筋は、龍。祈雨と止雨を託されている。巡る全ての循環サイクルに敬意があった。だから罔象女みずはのめと共に祀られていたのです。貴女が本当の罔象女だなんて言いません。けど、罔象女が本気になったら、高龗と闇龗を従えるの。そんなファンタジーに乗っかってもいいって思ってるんだよ」

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