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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟㉖

ロックを解除された携帯を受け取った一初はなんとも微妙な顔つきだったが、ちゃかちゃかと操作し始めた。

「運がよければアプリの作成者がわかるかもしれない。あんまり期待されても困るけど」

顔を上げ、それと、とつけ加えた。

「その手、もう要らない。ロックされないように設定を変更したから」

「助かるよ。こんなん入れとくの、嫌だったんだ」

一初は琥珀糖を皿ごと持ち、調べてくるから、とダイニングを出て行った。

メイアンはドアが閉まるまで目で追って、低く笑い出した。

「平成生まれの朱鷺の仙はサイバーオタク」

「飼育ケージから職員が電子機器を扱うのをずっと見ていたそうですよ」

「賢い子だからね、放鳥候補になるよう狙って虎視眈々と2008年9月25日を待ったそうだ。木箱を開けられた瞬間、わー秋篠宮がいるーとか思わず叫び出すところだったって」

クラもタカも目が優しい。これは未熟でやんちゃな弟を見守るという立ち位置だな、とメイアンの心も和む。とそのとき、音高く扉が開いた。

「どうした、一初」

新聞を読み耽っていた九頭龍が横目で問う。

「お菓子なくなったから追加もらいにきたら、あることあること喋ってる!」

あることないことではないんだ、と頰が緩む。

「追加ね、輝さん喜ぶよ」

このままでは勢いに任せて漫画のように置きかねないなと皿を受け取り、幾つか出してやる。一初は空いている椅子にどっかと腰掛けた。

「クラさまと特にタカさまに面白可笑しく暴露されたら嫌だから、自分で話す!」

「脚色なんかしませんよ」

「自分以外の口から語られたら別の主観が入るっ。おれ佐渡で生まれて2008年の春になんか身体がなんかこう、うずうずわにわにしてきたんだ。でもケージにはカメラいっぱいついてて変なことが起これば環境省の職員がすっ飛んできちゃう。カメラの死角は知ってたから、夜になるのを待ってむずむずする感じが高まるのに任せていたら、この姿になれた。けど、だったから、これやばいってううううう〜って縮こまってみたら、元に戻った。もう一度今度は服着た姿を思い浮かべながらえいぐわーってやったら、想像の通りにはなったんだけど…」

人の形に転身してしまえばカメラには映らない。その辺りの問題はクリアされている筈だ。

横でそれぞれ顔を背けてクラもタカも肩を震わせている。

「今考えるとパンツ穿いてなかった。ときどき職員のおっちゃんの背中からしゃがむとズボンが下がってなんか見えてるなぁと思ってたけど、そこまで気づいてなかったんだ」

流石にメイアンもこれには吹き出した。

「あははそのおっちゃん、Tシャツをパンツインしてたのか!」

「そゆこと。今ならそういうの、わかる。次の日の夜クラさまとタカさまが来て、色々教えてくれたから。直ぐにでも外に出たかったけど、一羽でもいなくなるともんの凄い大騒ぎになる。そろそろ放鳥の気運も高まってきていて、皇族を招いて式典ができる程度に予定が立ったから、それまでじっと我慢した。運良く第一次放鳥されたけど、発信機つけられるわハードリリースだわ足環も嫌だったしだったけど、クラさまに騒ぎにならないように消えようって言われたの何度も何度も思い出して、他の九羽と一緒に飛び立ったのさ。ハードリリースだったのがある意味幸いして、皆んな混乱して散り散りになった。おれもそれに乗じて適当な田圃で少し遊んでるふりして、夜になって来てくれたタカさまとクラさまとで発信機外して、足環外して、人型になって朝フェリーに乗って本州に渡ったんだ」

発信機は捨ててきたけど、足環は取っといてある、とつけ加える。

「放鳥直後に行方不明になった一羽というのが一初ですよ」

「そうなんだ!歴史的だね」

そして共に村上までやって来たということか。神社の社に暮らすのはどうにも覚束ないだろうから、このように一軒家を用意したというのは言われずとも想像がつく。

「一緒に放鳥された連中が死亡したのは悲しかったけど、まあ、檻の中でのうのうと暮らしてるだけだったんだから仕方ないよな。パンツインのおっちゃんが本来通じる筈もないのにぶつぶつこっちに向かって言うんだ。変な人に捕まるなよ、羽根毟って焼き鳥にされちゃうぞ、貂や狐にも気をつけろ、それから烏にも近寄っちゃ駄目、渡り鳥はもっと駄目」

「なんで?」

「鳥インフルエンザ持ってくるから。本州の田圃は変なときに入っちゃ駄目、とか」

「変なとき?」

「薬撒くだろ。佐渡の田圃にしな、薬本当に凄く減らしてくれてるからね、なんて言われた。朱鷺はいっぱいいた頃は稲の苗を倒して田を荒らすって農家に嫌われていたっていうし、だから新津に飛んでったやつがニュースになってたときはちょっと心配したよ」

「えっ、新津にって、越佐海峡飛んで越えたの?」

「そのくらいなら、飛べるよ」

ドヤ顔をするかと思いきや、心外そうに一初は言った。

「凄い飛翔力だな、知らなかった。そっかあ、仙になるって人の管理下で生まれてもなり得るのかあ」

すると新聞を軽く畳んで九頭龍が言った。

「なにを今更。寒霏こそ池で飼われていたではないか」

「あ、そっか。ん?寧ろ人との関わりが強い方が、なり易い?」

「そこな」

九頭龍は新聞を置いて歩み寄り、身を入れるようにテーブルに手を突いた。

「四条が統計を取ったことがある。確かに関わりが有意だという結果にはなったが、四条曰く、この統計自体に信頼性が無い、とな」

「統計とったの、忠遠自身でしょ?」

「標本の抽出法が宜しくないから、相関を正確に提示できない、とさ」

というわけで、一初は今年十八歳(笑)。

でも化けた姿は小学生。

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