2023年4月、新潟⑱
ごそごそ、と奪ったスマートフォンを取り出して電源を入れてみる。iPhoneだが、下部に丸い釦がついている。8くらいだっけ?指紋認証なのはありがたいね、と方陣で目の前に開いて無造作に手を突っ込む。がし、と掴んで取り出したのは三番目の金属バット男のそれも左手だった。
あ、左手でいいのか、とぐいと押し戻し、もう一度同じように掴み出した。お約束のように二番目の木刀男の右手。自分の不甲斐無さに腹を立てながら八つ当たり気味に戻して、改めて取り出す。ビンゴ!と内心絶賛したのはお目当ての腕だったからだ。親指を釦に当てて画面が開くとぱっと指を開いた。腕が落下するように方陣で開いた口の中に吸い込まれる。指先が口の高さと同じだけまで来ると口は巾着を窄めるように狭まり、周囲の景色が切れていた部分だった口の中の空間像が到頭無くなった。
メイアンはそのことには全く頓着せず、画面を食い入るように見詰めた。開いた画面が表示したのは地図だった。点が二つ。ひとつは青、ひとつは赤。どちらかがこのスマホを示していて、…もうひとつは。
メイアンは自分のスマホを数メートル先の叢に放った。赤い方の点が動く。画面を見ながら歩いてスマホを拾うと、青い点が動いて重なる。完全にメイアンのスマホを拾っている。ふむ、と呟くと九頭龍が去った方へ歩みを進めた。歩きながら靴下を裏返して石を捨てるとポケットに押し込んだ。なんのことはない、臭水油坪を最奥にシンクルトン記念館の周囲を回っただけだった。記念館の脇に出ると、エントランス前のアプローチ通路に戻るまでもなく、脇道に黒いシエンタが待っていた。
「終わったか」
「うんまあ…三人は取り敢えずいいんだけどさ」
助手席のドアを開けると滑り込むようにシートに収まり、ドアを閉めるや間髪置かずシートベルトを締める。クラはそれに認めて直ぐに発進した。
「ごめんね、九頭龍さん。折角丁寧に説明してくれてたのに」
「よい、よい。メイアンはよく理解した。仙の立ち位置というものを」
九頭龍は世界を人間の理屈だけで理解していたメイアンに、違う理屈とその理論を教えてくれた。どうやって折り合うべきかも、九頭龍の場合として知らしめてくれた気がする。
「で、そのスマホは?」
「うん。このアプリ…かな?でこっちの」
と自分のスマホを示す。
「位置情報を表示してたんだよね。どうすっかな」
「どう、とは?」
「どうしてこっちのスマホに位置情報を提供してるのかってことだよね。無くしても買い直せばいいやとか思っていたから、紛失に備えての位置情報検索サービスとか利用してないけれど…ちょっと細かに調べないとなんないかなって」
「つまりなんだ?勝手に位置情報を読み取られている、と?」
「うーん…勝手に、そうだね。第一にどうやってそれを成し得たか。そして、誰がやったのか。そしたらあの三人なんか必要無い」
「ふふふ、最近流行りの闇バイトってやつかのう」
「多分ね。得物もちょぼくて、へっぽこだった。多分こっちの情報も最低限しか与えられていないと思うね。顔貌と身長くらいなんじゃないかな。実行役にはあんまり期待していないのかも」
「ふうむ。ではその辺りを解析しなくてはなるまいな。丁度いい、得意な奴が近くにおる」
「へ?」
九頭龍はクラに一言、岩船港、と呟く。
白い犬になっていたタカがぐいぐいとメイアンの腕を押した。
「メイアン!正面見てください!ほら!岩船沖油ガス田の洋上プラットフォームですよ!」
胎内川に沿って海岸線に出たところで沖合に浮かぶ建造物が見えた。
「ここから約4㎞先にある」
「あれ?意外と近い」
海面からジャケットの一部とデッキと各フロア、ヘリポートデッキやクレーン、そして高く聳える掘削櫓が見える。ここからでは玩具のようだ。




