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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟⑰

いねぇな、とうんざり口調の男は二十代半ばか。どう見ても日本人。手には木刀。現代にあるんだ木刀。

三人目は殿を任された形になって、後ろを常に気にしている。背後から襲いかかられるとでも思っているのか…違うな、単に臆病なだけだ。武器は…金属バット?

先頭は携帯を片手に、バタフライナイフをちゃらつかせている。テレビの見過ぎだぜ、と思いつつも、何故彼は携帯…スマホの画面を見続けているのだ?

「いや、いる。この辺りの筈だ」

「GPSは多少ズレるっしょ?山ん中なら尚更」

混ぜ返そうとしたのか戯けようとしたのか、緊張感も一緒にずらしてしまいそうな木刀男に先頭の男はバタフライナイフを掴んだ方の手で襟首を捩じり上げた。ナイフの刃が頬の真横にくる。目の横にあるのに気がついて、血の気の引いた顔で弁明する。

「わ…わり、な、なんか、この辺り、出そうで」

そうかね、とメイアンは内心首を捻る。少々鬱蒼とはしているが、自治体が定期的に手を入れているんだぜ、と呆れた気持ちになる。

三人はぎすぎすしたまま本人達的には慎重に進んでくる。

しかしGPSか。その手のものといったら、知らぬ間に取りつけられたなんていうのが常套に思えるが、今ここにはメイアンの身ひとつで、着ているものの他は携帯電話くらいなもの。スパイ映画じゃあるまいし、靴底に仕込まれたとかそういうご都合なのはあり得ないんだぜ、と一蹴する。衣服に異物がつけば重みで、そして違和感で直ぐわかってしまうものなのだ。況してや、この陽気で薄着になっている。

考えられるのはスマートフォンに、というところだ。いつからついてきたのかは知らないが、買ってからこの方他人に触らせていないことを鑑みるに、おそらく購入時、或いはそれ以前から仕込まれていたと考えるのが妥当だろう。全く油断も隙もない世の中になったもんだ、と靴を脱いで靴下を取ると、靴を履き直した。必要なのは靴下だ。ポケットの小銭を漁ろうとして、勿体無いなと思い直し、握り拳大の石を拾い靴下に詰める。詰めるというより、爪先部分に当てて靴下を引っ繰り返す…音もさせずに凶器の準備をするや、メイアンは靴下の履き口の方を掴んで身を低くし走り込むと、先頭の男のスマホを持つ手の甲を靴下の石の部分に勢いをつけて殴りつけた。SIS(英国秘密情報部)はまだこういうの身につけさせるんだよなあと思うが、一瞬。想像なんか広げている暇はない。叫びをあげてスマホが落ちる。意外と跳ねるもので、いいところに跳ねてきたのをメイアンは空中で掴み、靴下の回転を殺さぬよう木刀の男の頸筋を横合いへ、その勢いのまま当てる。結構手応えがあったぞ、と直ぐに脳震盪を起こして倒れるのを目の端で見送り、スマホを内ポケットに押し込むと、殿の男を狙う。金属バット、あれに当たるとこちらもただでは済まない。しかし特に戦い方を学んでいるのでもなくなんか凶器たり得そうと持ち出してきたものなのだろう。少し短めなのは子供用だな、察するに小学生のときはリトルリーガー、中学生になったらぐれたか、引き籠ったか。そこまで極端ではなくとも、オタク化するのはよくある話だ。目が疼くーっなどという可哀想な程な厨二病にはならなくとも、変な全能感とそれを全部圧し折られるような挫折と無能感は誰にだってあるものだ。その大小と、現実との折り合いのつけ方で圧し折られたままになるかどうかが変わってくるものだが、多分この男は挫折のときに心の足が捻挫してしまったのだろう。なんだかなにもかも、失敗という程ではないのに、なんだかうまくいった感じがしない。引き籠もっても、結局二日ぐらいで学校に行って授業を受けてる。数日空いてしまったから、なんかあやふや。更に泣かず飛ばず、閉塞感だけが募る。だからかもしれない、過去の牧歌的欣幸を金属バットは象徴しているのかもしれない。

…だからってそんなもの顔の前に縦に翳したって助けてくれやしないんだよ。

眼前に立つや、左手を逆手に金属バットに軽く当て、右首筋に靴下の石を直撃させる。ちょっと下だったな、と思うも、脳震盪は免れず。先ず先ずといったところ、しかしバットから手を離さず倒れた。危険は残ってしまった、と振り返るステップで木刀の端に爪先をかけ、立ったところを左手で掴みあげると、もう片方の端を右手が握り、先頭の男の方へ振り返る。

木刀の中央にバタフライナイフの刃が食い込んだ。刃物と靴下スリングは相性が悪い。靴下に刃が触れて裂けたら致命的だ。木刀にはリーチがあるが、刃が無い。結局殴るか突くしかない。その間合いに突進してこられたら、宜しくない。

男三人、ひとりはバット、ひとりは木刀。こいつだけナイフ。誰に指示を受けたか知らないが痛めつけてでも生け捕りが目標なのだろう。こいつがナイフを持つ意味は、他の二人の離反や放伐を防ぐ為の力の誇示。バタフライナイフなのは半分以上趣味だろうが。

いい感じにナイフが噛んでいる。左手を添えたが腫れ上がって中指が変な形に浮いている。中手骨辺りが折れたか。でもこのまま力押しがしたいと見える。そのまま押してな、と脚を右から払った。バタフライナイフを食い込ませた方向へ力をかけ続けていたところへ、その方向へ更に傾く。木刀を少し捻れば無様に倒れる。

メイアンはナイフが刺さったままの木刀を掴んだまま肘を鳩尾に入れた。蛙が潰れるような呻きをあげて気を失う。この木刀の持ち主だった男は倒れ伏したままだ。もしかしたら頭蓋骨に罅が入ったかもしれないが、とんと関知するところではない。

そして三人目…は、と振り向くと、バットを掴んだまま顎を細かく震わせるように頭を振っている。

やっべ、と木刀を振り下ろしたが、案外敏捷に立ち上がると体勢を立て直してバットで受けた。面倒だな、とこのまま押す。まだ体がふらつくのだろう、蹈鞴を踏んで一歩、また一歩と退がる。シンクルトン記念館真裏の池が見えてくる。あと二歩。メイアンは一歩下がったタイミングで足裏を臍の辺りへめり込ませた。バランスを崩し後ろ向きに倒れる。激突する鈍い音が響く。倒れた頭の辺りは池のコンクリートの縁だった。サスペンスドラマとかで、あ。なんて言って死んでる!なんてなる流れだね、と口の端があがる。火サスのテーマが流れちゃうじゃん、と呟きながら京都を出る前に亥の入道に教わった方陣を開き、三人を次々放り込む…とはいえ、意識の無い人間程重いものはない。地面と水平に口を開いてそこへ蹴り込んだ。ナイフや木刀、バットも放り込んでふと、内ポケットにおさめたスマホを思い出した。

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