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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟⑮

舗装はされているものの山道になり、周辺にも民家が全くなくなると不安が過るようになる。

「ここは…胎内市?」

「星空が綺麗だぞ」

「星といえば、さ」

「ん?」

村松浜を出てから九頭龍は言葉が少ない。

「中国の影響かな?北斗星君とか南斗星君とかっていうじゃん?あれも、仙なの?」

「古代中国でそういう仙がいたのかは、わからん。現在そのような仙は、いない。生と死を表現する為の神格化されたものというのが、現在の仙達の間での考え方だ」

「北斗…は北斗七星だよね。南斗七星って、南の十字?」

「サザンクロスは中国からは見えぬ。射手座のζ星、τ星、σ星、φ星、λ星、μ星を斗宿という。これを南斗と呼ぶ」

「六つじゃん」

「南斗六星。七星ではない」

「そうなんだ」

「斗、とは長い柄のついた柄杓のような物を指す。北斗は大きな柄杓ビッグディッパーと呼ばれ、南斗は小さな柄杓ミルクディッパーと英語でもいう。はて、人間が似たような感性を持ったのか、シルクロードを通じて伝えたのか。仮にあれは柄杓と呼ばわったとして、それでも現在もそのような投影を見出すなら、パレイドリア現象か、共通認識か」

「あは、上に口の開いた受け皿から伸びた棒という形は大小あれど皆んなスプーン型だってか」

九頭龍は顎を引く。

「二十八宿については四条が詳しいのだが、斗宿は主に農水産業とその流通を司る…まあその辺りを意味してるというそうだ。斗が当てられたのは穀物を量る柄杓からの連想が強いのだろう」

「ふふっ、面白い。生死を司る北斗と南斗、両方が柄杓だっていうのも、なんかある?」

紫微垣しびえん内は天帝の在所で、妃やら大臣やらが犇めき合っておる。その中にある斗がどのような意味を持つのか、想像が広がるところだな」

このような言い方をするということは、星の配置とその名称に自然現象に影響を齎すものはないということだな、と見切りをつけてクラが入り込んだ駐車場に目を向けた。きちんと並べないまま停めたということはクラはまた人型に戻る気だな、と思いながら降りる。駐車場の横には井戸のようなものがあり、正面にはあまり手を入れられていない風に荒れた感じの建物がある。建物までのアプローチは通路の両側が芝生になっている。大概こういう配置の場合、建物が一段小高いところにあり通路は入口から段々と上っていくものである。しかしここは建物に向かって摺鉢のように低くなっている。アプローチの通路まで数段階段を降りると、通路は平らだがところどころ土瀝青アスファルトやタイルが割れているところがあり、何故か小さな看板が立てられている。

いつの間にかシエンタは姿を消し、クラが傍に立った。

「…臭いませんか」

「ん?」

くん、とひと嗅ぎしてみると、特異な土臭いが薬品のような溶剤のような…つまり石油の匂いがする。

「ここは、シンクルトン記念館という。イギリスのシンクルトンという技師の名を冠しているのだ」

「技師?」

「石油掘削技師」

にやりと笑うと、九頭龍は料理で空いた2ℓペットボトルに汲んできた水を看板の前の辺りに溜まるように撒いた。すると、溜まった水がぽこぽこと気泡を立て始めたのだ。

クラとタカがうわぁと言いながらしゃがんで覗き込む。

「石油系のガス?」

「左様。ここはあちこちからガスが沸いておる。雨で水溜まりができると油膜が張る」

ガスは絶え間なく噴出しているようだが、窪んでいるとはいえ丘陵の上だからかガスが溜まり続けることはないようだ。

記念館は地元の子供の教育の場として機能する為にあるのか施錠されていた。九頭龍はそんなことは気にもかけず記念館の傍を進んでゆく。湿った雑木林かと思いきや、雑然とした、池のある庭だった。だが九頭龍はその池も無視して更に奥へ進む。小径があるから、順路ではあるらしい。

「シンクルトンの指導で手掘りの油井から明治6年に石油の汲み上げが始まった。…この辺りの地区はなんというと思う?」

「まんま石油とかじゃないよね」

「ここに石油、臭い水と書いて臭水くそうずがあることは古来から知られておる。668年には天智天皇に燃ゆる水が越の国から献上されたと記録にも残っておる」

「くそうずって石油のことなの!」

「臭水では字面が宜しくないから、草水と書き換え、石油の噴出する場所にはそのような地名で残っておる。ここから出る原油が川を黒く染める程だと、故に黒川とこの地域をいう」

九頭龍は林の中のどろどろとした水溜りで足を止めた。水溜りというには稍広く、深いようである。が、その深さを確かめようとは到底思えなかった。水面には油膜が張って黒く、そして虹色に鈍く反射していたからである。

なにより腐葉土のような黴のような土の匂いの中にケトン類なのかエステル類なのか将又エーテル類なのか…嗅ぎ分けることなんか絶対無理、と口の中で吐き捨てて覗き込む。

「ここは自然湧出しておる。黒川の名が示す通り、石油はこんな風に自然に湧いて、水に浮かんだのだ。これを集めるのにな、人はどうしたと思う?」

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