2023年4月、新潟⑭
筍ご飯が炊き上がり、若竹煮と共に出すとクラとタカは目をきらきらさせて食べ始めた。
「鰤しゃぶしない〜?こっちがね、近大鰤。こっちは佐渡もの」
「近大鰤ということは、養殖だな」
ぱっと箸が伸びてきて沸いた鍋にさっとくぐらせる。
「うわ〜脂のってるなあ!」
「ともすれば諄い程だな。佐渡ものも、どれ」
九頭龍の摘んだ一切れは血合い部分が大きく三角に入っていた。
「これはこれは素晴らしい鰤だな。うむ、脂ののった鰤も旨いが、この血合いの旨いことよ」
クラとタカが目を強く光らせて即手を伸ばす。鍋からさっとあげると椪酢をつけて口に運ぶ。
「なんですか、これ!さっきと違う魚です!」
「メイアンもっとくださいよ」
「待て待て、和布もしゃぶしゃぶしてごらん」
茶色い生和布は火が通ると鮮やかな緑になる。クラとタカは知識で知っていても目の前で色が変わるのが面白いらしく、旨い旨いと食べ続ける。よく見ると佐渡鰤より近大鰤の方が減っていない。
「脂のってる方、酸味を足した方が旨いかも。檸檬にする〜?柚子にする〜?」
「メイアン、檸檬でも柚子でもないのがあります」
「あはっ、そっちは文旦。こっちは紅甘夏。八朔終わっちゃってたんだよな〜」
檸檬や柚子の搾り汁を椪酢に加えるのはわかるが、文旦や紅八朔は一体どうしたらいいのだ、と九頭龍まで興味津々である。
「文旦を剥いて、身を出すでしょ」
「グレープフルーツみたい」
「うん、近いんだって。これをね、しゃぶしゃぶした鰤と食べてみて」
鰤を椪酢に浸し、文旦と共に口に運ぶ。
「おほぅ。旨い」
「美味しい!紅八朔も同じにするのですか?」
「八朔の皮を折ってぷしゅっと香りつけると更にいいよ」
「あーこれ癖になる!やばいやばい鰤無くなる」
どちらの鰤も和布も瞬く間に無くなり、筍も無くなった。
「ほわ〜満腹ぅ」
「別腹は、空いてる?」
苺を見せるとクラとタカの目がまた光る。
「苺ーっ!」
「えちごひめ!」
二人にひとパック渡してメイアンは九頭龍と分ける。
「…この苺甘い。ちゃんと酸味もあるのに、うん?柔らかいのか」
「この粒々が埋まる程肉が盛り上がっておるだろう?これがどうにも輸送に耐えられなくて、県外に中々出ない。ある意味幻の苺よ」
「他県でも栽培しちゃうかもよ」
「はっは、かもな。だがこの苺をこの状態に栽培するにはちょいと技術が要る。越後と名も入っているしな、越後の苺でよいではないか」
「ふふ、美味しい苺だね。クラさんとタカさんが虜になるの、わかる」
タカもクラも如何に赤く大きい苺を平等に、できることなら少しでも多く食べるか腐心している。取り合いの喧嘩にならないのはそんなことをしている寸暇すら惜しいのだろう。
「九頭龍さん、これからの予定は?」
「くそうずを見にゆく」
くそうずってなんだと思いながら鍋に蓋をした。苺のパックを纏め、鰤のトレーと一緒に袋に入れる。
「どこかに宿を取るか、キャンプにするか、どうする?」
「じゃあさ、どっかで温泉入ってキャンプしよう。この鍋でおじや、食べたくない?」
「食べたいです!」
クラとタカは声を重ねた。
「メイアンはキャンプ慣れてますね」
「キャンプっていうより、これ野営だよね。でも基本お湯を沸かすだけ。こんな風に料理して食べるなんて、新鮮だよ」
「野営だと、料理しないんですか」
「あはは、したら湯気や煙や匂いで敵に見つかっちゃうじゃん。外でゆっくりのんびり煮炊きできるのは平和の証」
そうなのか、とクラは少し俯いた。
「ねぇクラさん、海で少し遊んでこようよ!九頭龍さんも行く?」
「儂はいい。タカも遊んでこい」
「行ってきます!」
今度はクラが車になる番らしい。黒いシエンタに乗り込んだとき、タカは白い日本スピッツになっていた。片方が車のときは片方は犬、というルールらしい。
胎内川に沿って内陸に進むと、あっという間に里山に、そして手の入っていない雑木林へと変わった。




