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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟⑧

「で、どこに行くの?」

車を降りて大きく息を吸い込むように体を曲げ伸ばししている九頭龍は視線を巡らせた。

「新潟みなとトンネルだ。日本海側で唯一の沈埋トンネル」

やはり建造物か。

「ちんまい?」

沈埋函エレメントという函を沈めて、海中で繋げ、トンネルにする特殊な工法だ。八函も繋げてあるのだぞ」

「へ、へぇ…」

「土木について同じ共感を得ようとは思っとらん」

メイアンはアバルトから降りて九頭龍のように体を伸ばしてみた。風が服がばたつく程強い。空は相変わらずつちぐもりだったがよく晴れて明るかった。ぴょいと脇をすり抜けてクラも地面に降り立つ。

「そういうんじゃなくて。さっき通ってきた橋、柳都大橋。あれ、最も河口の橋なの?」

九頭龍は頷いた。

「あれよりしもには橋を架けられぬのだ」

「どうし…あ。海上国道(R350)。フェリーが通る」

「うむ。仮に…フェリーをも通せる高い橋を架けるにしても、この砂の地盤だ。両岸に用地もない。当時萬代橋より川下に橋がなく河口までの約4km、全く行き来のない状態だったのだ。信濃川の水量は日本で最も多い。その河口を橋で塞ぐのは、愚かしい」

風が髪を荒らす。駐車場は砂丘の海側、中腹程度の辺りにあって、海岸線に沿った道は同じくらいの高さにずっと続いているようだ。所々に散り萼に辛うじて一枚花弁を留めている桜の木が散在している。道路が段丘に似た形を作り、ガードレールからまた下へ下がる。砂浜から一段高いからか、海が広がって見え、佐渡の姿がくっきりと、しかし黄砂で濁った空気の向こうに見える。

「メイアンはご存知ですか。佐渡は律令制の上で、独立した国だったのですよ」

クラが見上げて言った。

「越後の一部じゃなかったの」

「貴人の流刑地であり、貴金属の産出地でしたからね。壱岐や隠岐、淡路なども独立国でした。米の生産力より地理的な重要性で分けていたのでしょうね」

「古代って未発達な人類だと思って小馬鹿にしがちだけど、凄いね、地政学や兵站を確り踏まえていたんだ」

「特にロジスティクスは重要だっでしょうねぇ、現代と違って物資は限られていますし、天候などに影響を大きく受けてしまいます」

どうやらクラは古代をその目で間近に見る時代には生きていなかったようだな、とメイアンは密かに思う。

「ふふ、歴史観が変わりそう」

「そうですか?」

「砂漠で生活を守る為に戒律を作って頑なに守り通している人々も、多いでしょ」

「…最近過激な原理主義の人達とかですか?」

「どちら側も同じ経典同じ神様なんだから争うのは無意味だと思うんだけど、なんていうの?最近のはもう教義がどうのとか違う神様だからとかそういう十字軍時代のお題目とは違うんだよね…今やってるのは、殆どが地上げ屋みたいな鍔迫り合いだよ」

「なんだか時の人に直接聞いたような?パレスチナにでも?」

「白黒のシェマグの鱈子唇のおっちゃんにちょっとだけ語られたよ」

クラは少し考え込んだ。上から九頭龍が言う。

「アラファト本人と話したことがあるのか」

「若い頃の、ね。顔が全然怒らなくて、逆に怖かったな。面白い人だったけど」

クラは驚いたように言った。

「PLO議長のヤーセル・アラファトですか?自由の銃とオリーブの枝を持ってきたと言った」

「不穏なことを微笑みながら言うの、良くないよね」

「うわ。チャーチルにも会っていそうです」

「それは無理だよ、十九世紀最後の年に政治家になった人と接触できるわけないじゃん。でも、もう少し早く生まれて、チャーチルと話ができていたらアラブとの対立を避けるとはいかなくてもちょっとでも小さくする方向にどうにかできたかも。いや、できないか。チャーチル、でっぷり太った肖像画ばかり残っているけど、ああ見えて士官学校の出なんだ。クラさん中東情勢詳しいね〜」

パレスチナとイギリスとの関係を現代知る人は少なくなってきている。日本で安穏と暮らしていれば尚更だ。

クラは俯いた。

「オリエントに対する近代のオクシデントの立ち位置は、面妖おかしいと思うのです」

「中近東って意味のオリエントかな?そりゃ、仕方ないよ」

「メイアン?」

クラは憤慨気味に鼻息を立てる。

「あ、ごめん、中近東を蹂躙していいって言ったんじゃないよ。チャーチルの名前が直ぐ出てきたんだもの、クラさんわかってるでしょ…中近東の不幸は石油の産出にあるって」

「はい」

更にしょぼんとしてしまったクラを九頭龍は抱き上げてアバルトに乗り込んだ。

「石油なぁ。最近世間でも脱カーボンとか煩くなってきたが、二酸化炭素とか騒ぐ前に石油だの石炭だのが地球が太陽から受けた熱を物体として溜め込んでいる存在だともっと認識するべきなのだ」

「どゆこと?」

メイアンがシートベルトを締めるとアバルトはエンジンがかかった。タカはなかなか芸が細かいようだ。

「石油はどうやってできた?もし石油という形に古代の生物を変換しなかったら、地上は灼熱の世界だったやもしれん」

「…計算したの?」

「しとらん。できない」

「なんだぁ」

「だが、熱に変換し出した途端のこれだ。珊瑚が海中に炭酸カルシウムとして二酸化炭素を固定しているのと理屈は変わらぬ」


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