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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年5月、ハーラヴニー・メストゥ・プラーハ③

ウルテは両手で顔を覆い、抱え込んだ。

「この国にハーバーの生産拠点がある、らしい」

ハーバーの、生産拠点。

思わずメイアンは言葉をそのまま反芻していた。クローンであるハーバーを作り、育成し、教育し、送り出してきたのはここチェコだというのか。

メイアンはどうっと向かいのソファに身を沈めた。

「まじか」

人口密度が低く、旧軍管区など、略放置に近い施設も少なくない。暗黒時代から社会主義時代の抑圧期があったことでチェコの人々は臆病になってそういった遺物には極力近づかないところがある。

…チェコの人が逃げ腰だってんじゃ、ないけどね。

旧ロシアの弾圧は相当だった、という方が相当なのだろう。誰だって、危険に頭からは突っ込んで行かない。

「なんでウルテはそんなこと知ってんの」

「私が、じゃない。どんなに高い塀を築こうが、僻地に厳重に立ち入りを制限しようが、鳥の目を欺けると思う?」

人工飛行体は幾らでも警戒するだろうが、野生生物、特に鳥まではいちいい目(くじら)を立ててはいられない。烏が一羽窓辺で覗き込んでいたからとて、都度都度撃ち落とすなどということはあり得ない…できやしないのだ。根本的に人というものは他の生き物が人を観測し措置を講じるなどとは思ってすらいない。

…今のところ、グレイシャ計画が仙というものを把握していないということでもあるな。

大体、仙というものをどう捉えているかといえば、サンプルはメイアンで、生きている時間についての把握は謎だが、怪我などは早く治る、多少の深傷でも問題なく乗り越えられるという程度の認識ではないかと思われる。そんな突然変異だという程度の。サンプルはメイアンだけ、であってほしいものだが。

「それを潰してきたらいい?」

ウルテは指の隙間から呻く。

「ハーバーだけなんだよ」

クローンは他にも存在する。少なくともセヴンホークもそうだと自ら白状したし、行動から見るにハーバーと共にいたタクシーの運転手もクローンだと考えられる。ハーバーの外見から東欧で育成というのは妥当だと思うが運転手の育成は無難とは言い難い。彼の場合はアジア圏のどこかの方が納得できる。セヴンホークはプロテスタントであるならアメリカかもしれない。

「一箇所潰すとまたこのメイアンに目が向くよなあ」

態とあっけらかんと天井へ皮肉な呟きを吐くと、ウルテは大きく溜息を吐いた。

「グレイシャ計画がメイアンを目の敵にするのは当然だけど、そうやって奴らが動き出すことをまたレイヴンモッカーが…仙側がメイアンの責任だって言い出すだろう、それが嫌なんだ」

成程、そこに暖海が踏み込んでいたら、仙達が真っ二つに割れてしまう。どこの世界にも保守派と強進派とがいるものなのだ。

メイアンのチェコ入国はグレイシャ計画も少なからず察知していることだろう。ここで秘密拠点が壊滅したとあらばメイアンによるものだと簡単に帰結するだろう。つまり、今ことを起こすことはできない。時限的なものを仕掛けておいたとしても、それは今日据えつけたものが発動したと、そう判断される。手全く身動きが取れないではないか。

それを押し切ってチェコの拠点を潰したところで、打撃を与えることができるのはハーバーシリーズ産生だけ。リスク云々の前に、割に合わない。

看す看す指を咥えて出国するのは無念が残る。以後ハーバーシリーズが送り出され続け、京都に戻ればまた同じ顔の死体を作らねばならなくなる。双子くらいならまだ常識の範囲内で許容されるが、流石に五体を超えたら暢気な日本の警察とてなにかが面妖おかしいと気づくだろう。もう既に京都で二体、奈良の廃村に一体棄てられた。京都の二体は双子で処理されたろうが、奈良のハーバーCはどうなのだろう?腐乱する前に発見されたとしても京都のA・Bとは体格や顔つきが異なっていて、瞬時即座に同じ遺伝子を持つ者だと判断がつき難いだろうが、鑑定されたら100%合致という結果が出るのは火を見るより明らかだ。京都府警と奈良県警の連携が密でないことを願うばかりだ。

「グレイシャ計画のハーバー生産拠点って、どこにあるの?」

ウルテは肩を落とした。

「やるのか」

「話を持ってきておいてそりゃないだろ」

「矛盾してるのはわかっている。でも」

「今じゃないって?いや、チェコに入ってしまった以上、以後いつやったって同じさ」

ウルテは押し込まれたように口を噤んだが、軈て口を開いた。

「中央ボヘミア州とプルゼニ州の境辺り、だよ」

その言葉を一旦呑み込む。脳裡にチェコの、ボヘミア側の地図が一気に展開する。次々と境界線が次々と引かれ、箇所を特定する。

中央ボヘミア(ストラドチェスキー)クラィプルゼニ(プルゼンスキー)クラィの…の?境?」

ぎょっとしたようにウルテが顔を上げる。

「な、なに、知ってる場所?行ったことあるの?」

否、まさか。

そこは人の手で大きく環境を変えられて…。

「行ったことは、ない。うん、でも」

メイアンは目を伏せ、首を振った。

輝を、信じたい。いや、輝がメイアンを欺くとは思えない。輝にこの話を持ち込んだのは、誰だ?輝がメイアンを頼ると踏んだのは、誰だ?

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