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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年5月、ハーラヴニー・メストゥ・プラーハ①

「何故プラハ」

「不満なら帰ればいいじゃーん」

文句を垂れつつグレーゴルは車中で予約したホテルへと向かう。すっかり宿係だが異論も有無も言わせない。

「こっちの駅ってさ」

「ん?」

ホームを歩きながらメイアンは暖海に言う。

「いいよね」

「それは日本の駅と比較しておるのかね?」

「そうだね、主に」

「どの辺りが?」

「全てそうなってるとはいかないけど…このプラハ本駅だって…ミュンヘン中央駅なんか凄かったよね」

「どこを指しておる?」

「例えばさ、このトレインシェッド。プラットホームだけじゃなくて線路まで確り覆われて。雨風の影響も受け難いし、アール・ヌーヴォー風の駅舎も風情がある」

暖海は言われて頭上に目を巡らせた。言われてみれば、光を通すドームが線路とホームをずっと覆っている。

「東京駅ですら、屋根があるのはホームだけ。線路は完全に野晒しじゃん。新幹線ホームだって、そう。こんな風に高い天井、光が燦々と降り注いで、さ。あは、日本でできない理由、わかるよ。こんな風に天井を塞いでしまったら、夏暑くて堪らないもんな」

暖海はつられるように笑った。

「それだけではないのだがな」

「そうなの?」

「鉄道開業当時、欧州とではスタンスが違ったからな。蒸気機関という新技術導入は投資で始まったのだ。移動・輸送手段として必要に迫られたからではなく、敷設されたから利用された。利用される為には快適が求められる、故に気候による不自由を取り除き装飾性や象徴的役割、虚飾化へと発展していった。だが明治の日本に金はないわ、欧州の水準に早く比肩したいわ、挙句国産石炭は煤塵が多いわでドイツから来たフランツ・バルツァーがこんな温暖な国には要らんと言ったのが今日までずっと影響を与えてトレインシェッドは普及しなかったのだよ」

「…詳しいね」

「はっはっは。俺は自力で移動するには、まあ方術を使えばよいが本体が本体なものでな、基本他力本願なのだ」

「他力本願って」

「人の姿で歩く以上、乗り物は必須だろう?」

鉄道の普及を暖海は相当喜んだのだろうとメイアンは思った。

「まあ翼を使ったり、それこそ龍の背を借りて海を何度も渡ったものだが。船旅や鉄道旅も、悪くない」

「翼?」

「八咫烏の持ち物であったから、つい、な」

「暖海さんは人の姿になるより先に鴉になったってこと?」

暖海は苦笑いしながら顔の前で手を振った。

「違う違う。八咫烏の一族は修験道を早くから始めておって、何故か天狗と混同されて」

「天狗ぅ?」

「天狗天狗というと赤ら顔に突き出た鼻を想像していそうだが、違うぞ。字面を見てみい。天のいぬと書く。あま駆ける狗だよ」

「狗?」

「犬ではない。イヌ科の動物を指す包括的な字だった」

「…ってことは、天狗はイヌ科の動物がなったものってこと?」

「飲み込みが早く嬉しいな。主に狐が多かったが、天狗という形に落ち着いたイヌ科由来のもの、といった集団だな。彼らも修験道に励んだ」

「山は隠遁生活に向いてるよね」

「そういうこと。八咫烏は争うのが嫌いだから、似た者同士というか、どうせ同じお山を使うのだからと相手を否定しない。天狗共も修験道は争ってするものではないと心得て、互いにごちゃ混ぜになってしまった部分は否めない。八咫烏には社があってそこそこに長く祀られてきたから、そこを拠り所にしていた部分もあって変に揺らいでしまうこともなく八咫烏という存在感を保ち続けたが、天狗は流星が山岳信仰へ変化し、山伏となりと次々と要素を盛り込まれて相当なバリエーションが生まれてしまった」

言われてみれば、天狗の顔は赤い面の他に猛禽のような嘴を備えたものもある。

「山伏という字も影響した。お山に籠るから山神と言われ、大きな神とそやされ狼が混同し、山伏の伏が人+犬なものだから犬、イヌ、狗と広がり、山はなにが起こっても面妖おかしくない場所であるが故になんでもありのようになってしまった。憖人と関わるものだから、口伝が更に尾鰭をつける。八咫烏との交流は彼らに翼を与え、到頭天狗は背中せなに黒い大きな翼を背負うに至った。まあ、元は流星なものだから空を翔ぶものだというのが古来より抜け落ちなかったのだろう」

「八咫烏も翼を持ってて、それに倣ったら翼つきってこと?」

「そないな感じだな。天狗は大きな里を持たないが、八咫烏は社の傍に里を持ち、人が招かれた際は人に近い姿で出迎える。迎えられた人にもよるが、鴉の矜持か翼ある人の姿なことが多い」

「面白いね、皆んなで演出するんだ?ファンタジーを理解して楽しめる人にはよりディープに、駄目な人には如何にも人っぽく?」

暖海は頷く。

「翼があるから使う。本来人の重さを翼で飛ばそうとすると4m以上の長さが、そして相当な強度が要るというが、我々の姿は具象だ。そこそこのものがあれば飛べる」

「それで暖海さんは海を渡っちゃうの?」

「鳥というのは渡りをする。留まる鳥もいるが、ネットワークが広くなにかと連絡役を負ってきたものでな」

「で、ウルテと知り合いなんだ」

「レイヴンモッカーは北米で人と深く関わってきたからな。ここ二〜三百年激動の歴史を歩んでおって、鴉達には心配で堪らぬのだろうよ」

ドイツではPraha hlavní nádražíのことをプラハ中央駅と訳すのですが、チェコではプラハ本駅と訳します。

中央駅が昔別にあった名残らしいです。

ドイツにいたときは中央駅と、チェコに入ったので本駅と、土地に合わせて呼び分けるのは、郷に入ったら郷に従えというやつですかね。

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