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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟②

どこへと問うまでもなくすたすたと歩く九頭龍を追って大階段のように見えた連絡通路への階段を上がる。上がってゆくと、仮囲いの向こうの現場が見えた。

「なんの工事してんの?」

「新潟駅は駅を挟んで南北が分断されておる。駅を完全に高架化して在来線も連続立体交差化して分断を解消しようとしている。駅の下にはバス路線を通して南北の直行便を作る計画だ」

メイアンは改めて九頭龍を見上げた。

「詳しいね」

二ヶ月もいればな、と笑う。

「結構テレビにラジオがよく伝えるんだ。かなり自由な局が多くてな」

進むと、幾つか店舗が入っている。

「うっわ〜っ、物産館なの?」

「ははっ、土産物屋だ。米、酒、金属製品。翡翠、朱鷺。欲しいものがあればどうぞってことだ」

「魅力的だな。帰りに寄ってこ」

「帰りで良いのか」

「忠遠達には食品が最も喜ばれると思う。だからね、帰り」

にっと笑って進んでゆく。押してだが自転車も行き交うのを見るに、駅の高架化による南北縦貫は確かに急務のようだ。

「どこに行くの?」

「駅南に車を駐めてある。なんだ、また変な顔だ」

「だってさあ…幻獣の貴方が車を乗り回してるって、違和感しかないでしょ」

九頭龍はサングラスを取り出しかけながら、とんとんと小気味よく階段を降りる。駅の南側にいつの間にか回っていて、万代口とは全く異なる様相が広がっていた。

「…線路を挟んでこんなに違うの?」

万代口は駅前の地権者が我も我もとビルを建てた印象だったが、駅南は計画的に区画を割り振り意図的にビルを配置してある。その分空が大きく開けて、開放的で、明るい。駅前はなんだか中途半端な様相を呈していたが、来たるべき南北縦貫の備えてこんな状態なのか。ロータリーには降車用のレーンがあり、また三十台程収容できる駐車場もある。九頭龍はその中の一台に近づいていった。

パールホワイトの、コンバーチブルだった。

赤と黄の、蠍のエンブレム。

「アバルト124スパイダー?まじか」

「そんなに驚くものか?」

「ベースはマツダのロードスターで、フィアットにも同じ仕様の車を…日本に二千台ちょっとしかない車だぞ」

「詳しいな」

九頭龍はなんの挙動を見せなかったが、いきなりエンジンがかかり、幌が勝手にオープンになり始めた。

「…ちょっと待て」

メイアンは額を抱えた。

座席に黒い犬がいた。こちらを見て大きく尻尾を振って…座席に叩きつけてるかのようだ。

「…座るところがない」

「クラ」

ラブラドールレトリバー程の大きさの犬が縮まるように別の黒い犬になった。麻呂眉などがない、全身真っ黒なチワワといったところか。

…黒という部分は譲らないのね。

「うむ、これなら膝に載せられるな?」

この犬の姿をとっているものも仙ということか。

「クラさんと呼んでいい?」

黒い小型犬はどうぞというかのようにシートを空けた。と同時にアバルトの助手席のドアが開いた。

「いっ?」

ドアが自動で開く機能など、タクシーでもあるまいし、ついているわけがない。九頭龍が躊躇無く乗り込むのを見るに、問題があるとは思えないのだが。

「これ、タカ。驚かすでない」

自動車の仙なのか?いや待て、とメイアンは内心頭をぶるぶると振った。クラは犬の姿をしているが大きさを変えたことを考えると、犬が本来でないのではあるまいか。例えば暖海法師の本来は法螺貝で、意思疎通コミュニケーションを図るために人の姿をとっている。この九頭龍も本来別の姿があって、今人の形をしているだけで…。

クラ。

タカ。

なんかこの組み合わせ覚えがあるんだよな、とメイアンは脳をフル回転させた。タカ、人名にありそうな名前だがクラは蔵とか倉などが名字に含まれなければ愛称に使いそうもない。

九頭龍はおそらく龍なのだろう。だとしたら、クラとタカも龍の眷族と言えそうだ。龍で、クラとタカ。

「…貴方達、闇龗神くらおかみのかみ高龗神たかおかみのかみ?」

九頭龍は呆れたように言った。

「お主、古事記だの日本書紀でも通読しとるのか?」

「そんなことしないよ。ちょっとずつ気になったことを調べた集積だよ」

これは乗って良いという意思表示なのだろうとメイアンはシートに身を沈めた。ちゃんとシートベルトも装備されている。タングをバックルに納めカチャと音がすると、黒い小型犬が軽やかにメイアンの膝に乗った。

「座り心地悪かったら、ごめんよ」

そんなことは気にしない、という風に犬は膝にすっと伏せた。

「クラとタカは闇龗くらおかみ高龗たかおかみが本名だ。龍神として祀られておったうちに人の念が凝って実体を持つようになったのだ」

「う、う…忠遠は生物無生物は兎も角物体が仙になると言ってたよ?」

九頭龍はステアリングホイールとシフトレバーに手を置いた。それぞれ挙動の為に必要な動きをしたが、決して九頭龍が動かしたものではなかった。兎も角、アバルト124スパイダーは駐車スペースを出て、九頭龍を駐車券を投入し、時間内無料だったらしく金を払うことなく出たのだった。ロータリーを軽やかに回り、信号で止まった。

「…どこ行くの?」

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