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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年4月、新潟①

メイアンは新潟駅の万代口に立っていた。

兎に角駅前は殆どが白い仮囲いだらけで、まるで迷路。重機の音が常に響く。バスが常に出入りしているのだが、何故か警笛が鳴り響いている。バスの案内所の前を待ち合わせにしてたっけな、と往来の邪魔にならない場所を探す。しかしなんでこうも警笛と後退警告音バックブザーがうるさいのだろう。

西側に大階段。インパクトドライバらしいががっと響く音と同時にとんてんかんとも聞こえてくる。工事関係者がヘルメットを被って行き来している。見上げれば煎餅の広告。バスのエンジンの唸り。そうか、とメイアンは気づいた。この駅前はロータリーになっていない。だからバスはバックで入ってくる。警笛はその誘導なのだ。工事でロータリーの区画が確保できないでの一時的な措置なのかと思ったが、バス乗り場は非常に年季が入っていて柱も屋根も煤けている。それ故だろうか、バス乗り場はなんだか薄暗い。

「喧しい駅だろう?」

突然話しかけてきたのは恰幅のいい白髪の男だった。見上げるような角度になる。真っ黒なサングラスでわかり難いが歳の頃は六十代…昨今の高齢者は少なからず若さが漲っているから、なんとも言い難いが。

「なんだなんだ。辛気臭いな」

「…もしかし…なくて、九頭龍さん?」

毟るようにサングラスを外した目は笑い皺がくっきりとしていたが、底知れぬような圧が感じられた。

「四条に南極観測船が今年は来ないことを納得させてこいと言われてきたのだろう?」

サングラスを畳み、内ポケットに仕舞う。

「しらせが展示されないことなどわかっておるわ。調べがつかぬ程胡乱ではないわい。しらせの一言で儂の想像がついたかな?」

メイアンが固まる。アとオの中間の音を出せそうな形に丸く口が開いたままだ。

全く、忠遠もどこまで九頭龍に騙されてやったんだか。内心で誰を罵ったらいいのかとそのことにさえ罵りたい気分でいたが、取り敢えずざらっと薙ぎ払って口を引き締め、口の両端をぐい、と横に引いた。

「なら、もう南極観測船のことはもういいね!」

「寒霏のことは礼を言わねばならん」

「あー…礼はいいよ。や、違うな、カンピーは漠然とした言葉は通じない。雨は水だ、というところから言葉にしなければ。それを怠ってきたことをカンピーに謝るべきだ。…本来なら。」

「…本来なら?では実際は?」

「カンピーも鈍過ぎる。カンピーはわからないことを自力で解決する能力も気力も欠けている。自発的に向上心を持たないでいたのだから、仕方ない」

「まあ…彼奴は元々鯉なものでな、鯉が突然龍に成り上がったものだから、何事もなんとなく得られると体質的に思っておる。それを指摘してこなかったのはいけなかったな」

「うーん、それは自分で気づくことなんじゃん?今やる気になってるから勘弁してやろうかなって」

「それは儂も引っ括めて、勘弁してやるってか?」

「そこまで言う気は無いけど、それでもいいよ?」

九頭龍はふふっと笑うとところで、と話の向きを変えた。

「お主、如何ようにここまで来た?」

「お主、は古いよ九頭龍さん。メイアンと。本当は在来線でも乗り継いで来ようかと思ってたんだけど、陽気がいいからバイク乗ったり電車乗ったり。入道さんにいい仕舞い場所を教えてもらって重宝してる」

「方術を憶えたか。でき得る限り善用してくれ」

頷くと、今度はメイアンが矛先を変えた。

「九頭龍さんこそ、どうやってここに?つか、なんで新潟?」

「一月に海上保安庁の巡視船が柏崎沖で座礁したニュースは知っているかね?」

「その頃ウクライナにいたから、知らない。そんなことがあったの」

「座礁した巡視船えちごが西港に曳航されてくるというのでな、それを見に来た」

「え、それいつの話」

「一月二十日。入港する入港すると騒ぎになって一時に立杭に上って今か今かと待っていたんだが、結局着岸したのは三時だった」

「立杭?」

「港の入口、信濃川の河口に両岸を繋ぐトンネルがあってな、その排気口としてタワーが二棟立っておる」

「そこに龍になって上がったの?」

「馬鹿言え。ちゃんとエレベータで上がったわ。左岸の入舟みなとタワー」

「わけわかんなくなってきた」

「なにが?」

「どれもこれも。九頭龍さんてなんだか皆んなに敬われる人だって聞いたけど?」

「敬うとかは当人の勝手。そうそう、アメリカ土産、ありがとうな。九つというのがなかなか気が利いてるではないか」

「狙って九つじゃなかったんだけど、九つ目で忠遠が丁度良いとか言い出したら、なんかそれいいなって思っちゃったんだよ」

話逸らさないでよ、と小さく鼻白む。

「その柏崎沖で座礁した巡視船?原因に関与してるの?」

九頭龍は心外そうに答えた。

「いや?沖の降雨なんざ自然現象。人の子の営みには基本手を出さぬ」

「じゃなんでその船を見に来るの?」

「海難救助船航洋丸に曳航される巡視船えちごなんて構図は二度とお目にかかれまいよ。見たいではないか」

九頭龍は意外とミーハーなようである。

「それって一月二十日って言ったよね?今日もう四月だけど、ずっと新潟にいたの?」

「おう。折角だからスキーして、温泉入って、食べ歩きに、イベントとかも面白いしな、序でに旧交もあたためてきた」

「そっちの方が重要なんじゃん?」

「便りがないのが良い知らせ。そうそう、高田でブルーインパルスも見てきた。久しぶりだが何度見ても面白いな」

「ブルーインパルスぅ?」

「観桜会の催しで展示飛行。なんだ、変な顔して」

「九頭龍さんて、乗り物オタクなの?」

「オタクと言われたのは初めてだな。断っておくが、乗り物の諸元に詳しくはない。ただ、技術というものが発達してゆくさまを見るのはとても愉快なことだ。人間本位でなければ尚良い」

ついてこい、というように九頭龍は歩き出した。

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