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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年3月、京都㉑



「こんななりなもんで、変に着飾っても似合わないこと甚だしいし、定住できないから住環境に拘らないし。大概料理を作るのは女性で、作ったもの旨いって言われりゃ悪い気はしないもんだ。食文化は歴史とも深く結びついてるから、自己評価アイデンティティを認められることは喜びだ。要は土地のものを旨い旨いって食べさしてもらうと気のいいおばちゃん達に可愛がってもらえるんだよん」

「全く、抜け目のない」

忠遠はもらえるか?と熊に問うと、熊は一瞬輝媛を窺った。輝媛は微かに微笑みと共に頷く。こういうところは熊は倥りがない。

「俺も貰おうかな」

畏まりました〜と菫がさっと銘々皿に懐紙を敷いて暖海に用意した。熊は忠遠の為に酒で風味をつけたものばかりを選んでいるのを横目で見て菫はどれにしますかという風に暖海を見上げる。

「ではこれ、八分音符。ト音記号も良いな。よくこんな複雑な形抜いたな」

BIRKMANN(ビルクマン)の抜き型のお蔭です。あっ、パール金属や貝印もいいの、あるんです」

「ドイツのメーカーも国産メーカーもお堅いようで可愛いものを売るのだな。その柊の葉は美しい緑だな」

「こちら緑茶リキュール使いました〜紅葉もありますよ〜」

紅葉と謳いながら青紅葉をも懐紙の上に置く。

「こちらは澄んだ黄緑。味は?」

「シャルトリューズ・ヴェールです」

「おやおや、緑色したのが幾つもある。輝媛?あまり四条を虐めるでない」

無言で微笑んだ輝媛の横でメイアンが声を張り上げる。

「…えぇ?全部緑色のってお酒なの?」

忠遠はひとつひとつ摘み上げながらむっつりと挙げる。

「GET27。ルジェ・クレーム・ド・グリーンアップル。キューゼニア・グリーンティー。ミドリメロンリキュール。モナン・ライムリキュール。ボルス・メロン。デマンティス・グリーンバナナ。ボルス・キウイ。バカルディ・モヒート。シャルトリューズ・ジョーヌ。コカレロ。ジュールブレマン・ミスティア。それと… リュヴェルサパンとアルザス・リキュール・ド・サパン、どちらを使った?」

恨めしげな目を巡らした忠遠だったが、メイアンの素っ頓狂な声に潰された。

「sapin?樅の木?そんなリキュールあるんだ!」

「秘蔵であったのに…」

半泣きの忠遠の前にメイアンは入道から貰った日本酒の壜を置いた。

「…獺祭」

輝媛がぴくりと目尻を引き攣らせた。

「これ、探してたんだって?一時いっとき幻の酒とか言われてたけど、今なら普通に手に入るっしょ?」

「やれ今日は買って帰ろうとすると先客に直前に買われたり、あと数本あると油断していたら纏めて売れてしまったりなんて何度も続いて、縁が無いのではと悲観してあったところよ」

「大袈裟なんじゃん?…輝さん、どしたの?」

「ほはほ。なんでもなくてよ」

即答。これはなにかある。

「気に障ること言っちゃった?」

ふるふると横に首を振る。

「メイアンは、なにも。あんのどん詰まり入道、ぎったんぎったんにしてやる〰︎」

「もー、穏やかじゃないな〜ねぇ忠遠…忠遠?」

忠遠はふいと目線を外し、獺祭のラベルを輝媛から隠すように壜を静かに回した。えぇえ、と抗議と憤懣の声を上げようと口を開けかけたそのとき、暖海が言った。

「サパン、が樅の木を意味するのは、何語だね?」

「ん?フランス語だよ」

「メイアン?幾つ言語が話せるのだ?」

「えー?話すだけなら…英語、スペイン語、ウクライナ語にロシア語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語、中国語も少しいけるかな?あと、ペルシャ語とアラビア語。ちょっと地方によってかなりばらつくから完全に通じないかも。ギリシャ語は聞いたことあるけど話したことない。東南アジア圏の言葉はちょっと駄目かも、身近に話す人いなかったから。ヒンディー語も。アフリカの言葉は多分駄目だな、大概欧州の言葉のどれかで話しかけてくるんだもん」

「殆どの人と話せるのでは?」

「いやだから、話せないって。スカンディナヴィア半島の言葉は全く話せない。東欧の言葉も大方話せないもん。ヘブライ語無理。トルコ語もちょっと。第一書けない」

言語は聞いて,話して、書いて、読んで成り立つもの。暖海はふむ、と唸った。

「話せるようになったのは、その言語の話者が二人以上いて、会話していたのを聞いていたからではあるまいか?」

「あー…そうだね、アジア圏の言葉に慣れがないのは接したことがないか、複数の集団といたことがないからかも〜。それがどしたん?」

暖海は稍呆れたように言った。

「メイアン?他言語、それも多言語など、そうそう操ることはできないぞ?」

「えぇ〜、英語がわかれば他の外国語もいけるもんじゃないの?」

ぷんぷんと怒りを燃やしていた輝媛に暖海は目を向けると、輝媛はふっと怒りを収めて笑った。

「人の子の仙が第一段階ファーストステップである筈の変化を会得しなかったのは人の形を得る必要がなかったからとするならば、次の能才が修得できていてもおかしくないわ。意思疎通を強力に押し進めるには共通言語よね。幾らか会話を聞いているだけで大体話せるようになってしまうのね、凄い」

「凄くないよ。…ん?ってことは化けることできないの?そんなぁ!」

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