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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年5月、京都⑬

「では次はメイアンの番だな」

メイアンは胡座をかき直すと両肘をそれぞれ腿に載せて前傾の姿勢になった。手持ち無沙汰そうに手を組むでもなくなんとなく指を潰すように揉んでみる。

「あー、多分この男、スティーヴ・セヴンホーク。クレイウォーターで上官だったことがある」

「如何な男だ?」

「そうだねぇ、…有能な人。銃器の扱いも車両類の操作もピカイチだね。でもそういうところに驕らなくて、けど最新型とかに興味津々目がきらきらしちゃう。人をぐいぐい引っ張っていけて、部下の話もよく聴く。采配がよくて、勘が当たる。尊敬するね。抜けたとこもあって愛嬌もある」

久我が目を見開いて、序でに顎が緩んだように口が開いてしまっている。忠遠はちらと久我に目を走らせたが、改めてメイアンを正視した。

「それだけできた男が何故傭兵なぞしとるのだ?」

メイアンは態と素っ惚けた返事をした。

「傭兵が好きなんだろ」

「米国では軍人は尊敬に値するとされていると聞く。退役して尚それは続くと…大した功績を上げておらずとも。そうした栄誉を勝ち得ない傭兵である意味がわからぬ」

「くっ…なんでそういうアメリカ風俗に通じてんの…別に尊敬なんかされようなんて思ってないんだよ。できることならフリーランスになりたかったらしい。正規軍は当然上意下達(かたつ)。死ねと言われたら死んでくる、待てと言われたら只管じっと待つ。誰がなんと言おうと従うしかない」

久我が小声で呟く。

「もう逸そ大統領にでもなっちゃうしかないじゃん…」

「そ。でも軍人が大統領になるなんていうのは二十世紀半ばで終わってんの。マッカーサーだってなれなかったんだからな。現在大統領になるには、学が、いや、学歴があって、社会的地位があって、金を持ってる、できることならハンサムがいい。こんな感じかな。信念だとかカリスマ性とかは二の次かもね」

「前の大統領は滅茶苦茶な人だったよな」

「あー…あれね…ホワイトハウスに民衆の乱入を扇動するなんて民主主義デモクラシーをなんだと思ってやがると思ったもんだけど、結局アメリカで起こった瞬間的な右傾化だったんじゃないかな」

「右って、王さまとかそういうのを祀り上げてわっしょいってことじゃないの?」

「右だ左だっていうのは政治的スペクトルを表す言葉だよ。フランス革命の時代に議長席から見て右側に保守・穏健派が、左側に共和・革新派が陣取ったことに由来してる」

「右が、穏健?」

久我は最近は少なくなった極右の街宣車を思い浮かべたらしい。

「当時、社会通念まで変えてしまうような左の共産的或いは社会的な政治姿勢は新しかったから、穏やかじゃないでしょ」

「じゃ、じゃあなんで…」

「だって王制、終わっちゃったでしょ。でも右派の立場は古くからの伝統や習慣、制度、社会組織、考え方などを尊重する立場。貴族制度があった時代を伝統と言い放って、男尊女卑な、誰が偉い誰が卑しいと階級があった頃を懐かしんでる。そんななか左派はリベラルと呼ばれるようになってくる。より平等な社会を目指すための社会変革を支持するという風にね。これをアメリカに持ち込むと右の人が懐かしむのは、奴隷制度が健在な時代でそれを伝統だと言い切るわけ。だから黒人やヒスパニックが台頭してくることを良しとしない。対極の左は平等を唱える。平等も極論まで行き着くと怠け者まで平らかに扱おうとするから、努力によって富や地位を築き上げた人達には我慢ならなくなる。自由の論点をどこに置くかによって右と左というのはぼやけてくる」

「…財を築くのには下で働く人が必要だから、でもそこまで上り詰める努力もしてたんだよって論調なんだ…」

「そうだね。でここで両者が掲げるお題目にぶち当たる。皆が豊かになる…理想だよね」

「いけないの?」

メイアンは心外そうに首を振った。

「いけなくないよ。いいじゃん、皆んなが豊か。皆んなが貧しいと紙一重(ニアリーイコール)だ」

「えぇ?なんか面妖しくない?」

「だってこの世の富なんて限りがあるんだよ?皆んなが豊かってことは公平に分けたんでしょ?百万しかないお金を百万人で分けたらひとり一円。ほら、皆んな貧しい」

「極論だよ」

「なら皆んな豊か。その富はどこから来たの?豊かな国の外からかな?きっと鱈腹食べられる国の横に飢餓の国がある」

久我はあっと声を上げていた。そしてがっくりと肩を落とした。

「左派なら他国にも平等に!とか叫び出しそうだな。そこに人権とか人道とかそういうのが織り交ざってゆくのか。オバマがそんな感じだったな」

「右派なら?」

「懐古主義的な、伝統を重んじる考え方なんだっけ…恵んでやろう、儲かってるから。恵んでやる為にこれからもっと荒稼ぎするけどね!とか?」

「いいね、そういうのも結構あるよ」

「うーん…内政は潤ってるから、お宅の国の内情改善に軍隊貸してあげちゃうよ、弾はウチの使ってね!とか」

「あるあるあるある!」

「逆に財布の紐が固くなるのかな。うちはうち、他所は他所、見えなーい聞こえなーい手出ししなーいって?」

「そういうのもあるね。自己愛に凝り固まって富を抱え込もうとする…久我ならどうする?」

久我は名指しされて目を白黒させつつ、考え込む。

「俺?…うーん…いや、でも…それだけだと無責任か…いやいや、うーん…それで自己責任とか言われてたし…駄目だ!わかんなくなってきた!や!でも!うーん…ごめんメイアン、俺わかんない…かも…」

メイアンも忠遠もそれぞれ真剣に考える久我を微笑ましく思ったらしい。

「セヴンホークはこう考えた」

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