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狐と踊れ  作者: 墺兎
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2023年5月、京都⑫

久我は続けた。

「履き物はTPOの制約が強い癖にそう簡単に取り替えられないものだし、歩き方の癖なんかがもろに反映されるから、現況が知りたい商売人はそこから読み取るんだろうなって、最近思うようになってきた。ところで」

久我はがらりと表情を変えた。

「それどう」

「ぱっと見、工事現場の作業員が娘連れてる」

「子供、似てる?」

似てるか否か。女児の髪は黒っぽく、瞳の色は読み取れない。年齢は十歳前後…熊や菫と同じくらいか。熊の完全なる和風な顔立ちからすれば鼻筋の通った色白にも思えなくもないが。

熊をしげしげと見ていたからだろうか、興味を掻き立てられたように菫が身を乗り出し、写真に目を落とした。

「あ。純恋ちゃんだ」

「んん?同じクラスの子?あー、前言ってたねぇ、菫にことあるごとに突っかかってくる子、だっけ」

そう、と菫は顎を引く。

「今日も算数のノートがページ無くなっちゃったから授業の初っ端に新しいのおろしたんだ、そしたら1ページ遅れで純恋ちゃんも新しいのおろして…全く同じメーカーの同じデザインの、多分買ったところも同じなんだと思う、それにいちゃもんつけてくんの」

熊は澄まして言う。

「小学生がノートを調達する店舗など限られているのです。大概の子供が同じノートを使っております」

「だよね〰︎なーに馬鹿なこと言ってんのって思ったけど、取り敢えず、無視。授業中に騒ぐのは子供のすること」

久我が何故かはらはらした表情になっている。

「ちょっと聞いてんの的なちょっかい出してきたけど、無視してたら消しゴム投げてくるわ椅子がたがた揺らそうとするわで到頭先生に注意されてやっと黙ったよ」

「菫も苦労してんね…おいで〜、ぎゅってしてあげる」

「にゃは〜やった〜♡」

腕を広げてやると菫は嬉しそうに抱きついた。熊の恨めしげな目線に熊も一緒に抱き締める。猫を二匹飼っているかのようだ。

「んで訊くけど、純恋ちゃんってハーフな感じ?」

「そうだよ。ちょっと背も高めだし、色白。メイアンの方が白いけど」

「髪が細くて、毛先まで丸まっています。日本人のうねった感じとは違います」

「でも目も髪も茶色いよ。色素薄めって言われたら、そうかなって程度」

「ふむ。ノートのこと、もっとなんか言ってなかった?」

「うーん、うーん…あー…昨日パパに買ってもらったんだからっどうせあんたなんか叔父さんに金出してもらっただけでしょってぶちぶち言ってた、言ってた。こういうとこだけ可哀想認定してくるの、謎」

「可哀想っていうより蔑んでいるのです菫。父親がいないことを欠陥だと」

「愚かしい。いつもは不在のパパになにができるっちゅーの」

最早小学生の会話ではないなとメイアンは苦笑いした。久我は真っ青になっていた。

「なんでそこで久我が怯えるわけ?」

「メイアンは知ってて、そうなの?それとも知らないから?」

「えぇ?なにが?」

「俺今その純恋ってハーフの子、懲らしめに行った方がいいですか」

平伏しそうな久我に、メイアンに纏わりついていたふたりは目を丸くして動きを止めたのち、弾けるように笑い出した。

「子供のすることにいちいち目くじら立ててたら子供いなくなっちゃうよぉ〜」

「七つまでは神のうち、無知なのです。その裡黒歴史としてどうせ自身を苛みます、放っておけばよいのです」

ふたりはなんだか物凄いことを言う。

「母親はなにしてる人?」

「看護師さんってきいたよ」

もしかしたら途轍もなく志と意識の高い女性で…国境なき医師団とか海外協力隊だとかに参加経験があるのかもな、とメイアンは考える…クレイウォーターが彼を2014年のガザ侵攻に投入しているのは記憶に新しい。米国軍事企業故にイスラエル側に、だ。そしてクレイウォーターを辞したのは十年程前…。

菫と熊はぴょんと耳を立てるかのように背筋を伸ばした。すると襖が開いて忠遠がうっそりと入ってきた。熊と菫に皿とマグを持って台所で続きを食べるように言いつける。そして茶棚から適当に湯呑を出してティーポットの紅茶を注ぐ。色を見て、む濃いなと呟き、電気ポットの湯で適当に薄める。英国人が見たら泣きそうな所業だ。

「さてメイアン?お前さんがここまでにもうわかっていることを洗い浚い述べてもらおうか」

「かはーっ、やだねっ、どっかで見てたの?」

「見なくともわかるわ」

「熊と菫を追い払ったな?」

「あの子らは明日も学校だ。知っておっても知らん顔はできるが、そんな負担を強いて通わせるのは、酷だろう?」

湯呑を啜ると、忠遠は渋そうに顔を顰めた。

「そういう心遣いはするわけね…久我、あんまり生きてる年月としつきに振り回されない方がいいぞ?」

「しかし年月で得たものは多分…」

急に口籠る。忠遠が睨みつけでもしているのかとそちらに目を走らせたが、にやにやとしているばかりである。

「説明しよう!って割って入んないの、忠遠?」

「面倒」

「久我の口からは言い難いことなんだろ」

「わかったわかった。熊と菫は仙ではない。そして同じ種類のものが亥の入道のところにもおる。時に熊と菫は非常に優秀だ。以上」

「うっわざっくり以上に雑に説明されたよ。詰まるところ、久我には熊と菫は畏敬の対象なんだな?」

うんうんと首を何度も縦に振る。

「でも懲らしめに行くとかそういうの、物騒だよ?」

「そうだけど…」

「いい大人が十歳にもならない子供殴ったら今の社会犯罪だから。菫が自分でなんとかするよ」

「う…」

「そういうとこだけ前時代的なんだから。そういうのは冗談として伝えなさいよ、菫もわかってくれる」

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