それからのエピソード1『クリスマスだからじゃない』
暦の上で『師走』とは書かれていても、俺のように授業をしない教師は走る事が無い。
あの夏のように、そうして続く秋のように、同じように屋上に上がり、いつかの夏の日にハヤとヒバに暑さ対策をしたように、寒さ対策をする。
今は時折そこにココが加わって、相変わらず誰もがキャンバスに食らいついている。
あの酷く暑い夏――滲む汗でやっと心に残っていた固まった絵の具のような想いを溶かせた夏を思い出す度に、どうも心がむず痒くはなる。
だけれど、結局以てやる事は変わらないのだ。ハヤもヒバも、ついでに言えばココも、もっとついでに言うならば、俺もまた、それぞれがそれぞれの絵画を得る為に、毎日のように筆を走らせている。
俺自身、気持ちの上で変わる事が出来たように思えても、実際やる事は変わらず、屋上では皆の絵を見ながら紫煙をくゆらせている。冬の空気には、熱を持った煙がお似合いだ。
「しっかし、関係無いもんかね。お前らには」
クリスマスイブ当日、学校も冬休みになっているというのに、雪が降らないこの地域では防寒具をつけて、電気ストーブに暖められながら寒空の下で筆を走らせる二人がいる。
余程寒いだろうにと思うが、実際相当に設備を充実させたから室内に近い程度には快適だろう。寒いのはおそらく、俺の方だ。
「んー? あー、なんていうか。今日がそういう日なんだって事は分かってるよ。でもだからって今日描かない理由にはなんないと思うんだよなー」
「同文ですね。そういう日なんだって事は分かってます。でもだからこそ描ける物があるように思えませんか?」
何かと同じ想いの癖に表面上の意見がすれ違いがちな二人には珍しく、今日は妙に意見が合っている。
特に『そういう日』と濁すあたりが、俺くらいササクレた大人から見ればなんだかなぁと思ってしまう。二人は男女であり、同年代。境遇も近いが、では安易に恋愛に発展するような間柄だろうかと思えば、俺から見てもそうは思えない。
「ま、お前らはそんな感じだわな……」
――恋人になる前に、それより大事な存在になっちまうと、大変なんだけどな。
お互いに多少なりとも気はあるのだろうと思う。だけれどそれ以上に、二人は互いを恋慕の情を軽く超える尊敬の対象として見てしまっているのが、俺の目からは良く分かった。
俺としてはどう転んでくれても良い方向だと思っているから何も言わないが、二人が絵の為に何もかもを犠牲にするべきだとは思わない。
ただ、俺が口を出すには、どうにも気まずい話題だ。特に妻を亡くしている俺からすれば尚更。そんな時に便利な彼女が、屋上の扉をキィっと、俺だけが気づくように静かに開けた。
そうして、大声を出しそうな勢いのまま、小さな声で彼女は俺に抗議する。
「んーっとに! バカ絵描きどもめ! このさっむい中で何やってんスか!」
時刻は夕暮れ時に差し掛かっていた。スマートフォンで温度を確認すると、1℃の表示。自分も毎日二人に付き合って慣れてはいたが、道理で今日は寒いと思った。
「一応部外者なんだから来るなら連絡しろ絵描きバカ。ただでさえ俺は他の教師から白い目で見られてんだぞ……」
そういう、俺じゃ介入しにくい事を無理やりぶち壊してくれるのが、大真面目に染色したであろうサンタカラーのキャップを深めに被った絵を描くバカこと、ココなのだが、今日は些か機嫌が悪そうだった。
しかし、その理由もなんとなく分かりはする。
「いやいやいや、クリスマスイヴッスよ?! パーリィでしょうよ!」
「騒ぐな騒ぐな、時間的にもう終わる所だろ。静かにしてようぜ。あいつらの筆をブレさせんな」
詰め寄ってくるココが、俺の言葉を聞いて、反論を辞める。
「それに、自分だって絵の具の臭いさせといて、何を今更だって話だ。約束の時間にだってまだ早いだろ」
「ぐぬ……でもなんか、あるじゃないッスか。イルミネーションだーとか。プレゼントだーとか」
そういう物に興味を持って欲しい年頃ではある。だけれどきっと、二人が見たいのはイルミネーションや安易なプレゼントじゃあないのだろうと、二人の絵を遠巻きに見て思う。
「アイツらが欲しいもんはほら、ちゃんと描いてある。サンタさんにお願いしても仕方ない話だけどな」
ハヤとヒバの二人は、今日も空を描く。あの夏は太陽と戦って、この前の秋は紅葉が舞って、そうしてクリスマスの今日は、絵の中に雪が降っている。
「……ほんとに見えてるみたいッスね」
「見せてやれたら良いんだけどな……」
この地域では滅多に雪は降らない。だからこそ二人は冬になってからずっと文句を言っていたものだ。
イルミネーションなんかも絵の題材になっていた事があったけれど、それはきっといつか見た記憶を元に創り出しているのだろう。
だけれど雪をちゃんと見た事はそう多くないはずだ。今年程の寒冬ならばもしくはと思ってはいたものの、未だ降る気配はない。
「雪も降らねえなら、1℃なんかにならなきゃ良いのにな」
「今日は今年一番の冷え込みって聞いたッスよ? 家ん中は暖かいッスよ?」
俺とココが小さな声で話している間も、二人は全くそれに気づかないように筆を走らせ続けている。
ハヤはいつかの絵で何か掴んだのだろう点描を細かく使った雪を描いて、ヒバは吹雪が風景を包みこんでいる。
二人の描く雪が、二人の使う白が、同じなわけがない。
きっと、なんだかんだ言っているココも、どうせ雪を描いている。
――俺だって、描いたぐらいなのだから。
「花より団子とはならんさ、アイツらは」
「まぁ……分かりますけどね。それにしても寒いッスね……」
着の身着のまま飛び出てきたようなココが、俺の完全防寒状態の格好を恨めしそうに眺めているのが分かる。
「スペア使うか?」
言いつつ、倉庫に行って取ってこようと思った矢先、首元のマフラーを引っ張られる。
「分かってないッスねぇ……イヴっすよ?! なんつーか、ポケットがどうのこうのとか、マフりゃーがどうのこうのとか!」
「そりゃ恋人のするこったよ……」
苦しいのでマフラーを首から解くと、そのマフラーを引ったくられる。
「ちょっと借りとくッスね! 気分だけでも、サービスサービス!」
「まぁ、苦しいよりかは寒い方がマシだわな……」
ココのこういう所が、ハヤとヒバにも感情的な影響を与えてくれたら良いのだがと思いながら、そう上手くは行かない事が続く。だけれども、流石に今日この日に限っては上手く行ったようだ。
いつの間にか絵を描き終わった二人が、無言で俺とココのやり取りを見つめていた。
「おー、気付いたらココ姐さんいるじゃんかぁ」
「こんばんは、ココさん。先生も楽しそうな事で……」
ハヤの視線は痛いが、目線がココのマフラーに移ると白い息が漏れるのが見えた。
なんだかんだ律儀な奴らだ。プレゼントくらいは互いに用意しているんだろうなと思いながら、俺は肩を竦めた。
屋上を片付けた後、随分と機嫌が良くなったココを先頭に、俺達四人はココのガレージ兼家へと向かう。ココがやると言って聞かなかったクリスマスパーティにお呼ばれというわけだ。
正直な所、こういうのはそこまで慣れたものでもなかったが、嫌いというわけでもない。特に料理も酒も用意してあるというなら、万々歳という所だ。
絵のノルマとしては、俺以外の全員が終わっているはずだから、せめてこの聖夜くらいは年相応に楽しんで欲しい。
ヒバもハヤもココには懐いているし、ココも二人の絵の実力を知っているからこそ時折影が見える事はあるにせよ、よくお姉さん役をやっていると思う。実際、そう思いながら俺は暖房がガンガンに焚かれたココのガレージで、クリスマスケーキをつつく。
「そんで! プレゼントとかってのは!」
高校生の二人には帰りが遅くなると連絡してあるからいいものの、その高校生の前で酒を煽る大学生とはいかがなものだろうか。
「そういうのって今日渡すんでしたっけ? 明日の朝なんじゃ?」
ハヤは綺麗に七面鳥を綺麗に取り分けながら、無理やり被らされたとんがり帽子もそのままに、首を捻る。なんとも純粋な疑問で、思わず遠巻きに聞いている俺も和んでしまった。ハヤの部屋には大きな靴下でも吊るしてあるのかもしれない。
「いつだっていいんだよう! クリスマスだからじゃないの! クリスマスを利用してやるのだ! こういうのは普段溜めておいたプレゼントパワーを放出するだけでいいんスよ! ハヤちゃん!」
「そ、そういうものですかね……」
酒の勢いに負けた大学生の暴論が、酒の勢いを知らない高校生を圧倒している。
ヒバはそれを聞いていたのか聞いていなかったのか、思い出したようにバッと鞄を弄って、簡素な紙包みの袋を取り出す。
一瞬、場の空気が止まりかけたのを俺は見逃さなかった。何故なら俺もまたその行動にケーキを突くフォークの動きが止まったから。
「ん、ハヤにはこれ。ココ姐さんのはー、あれ。何処行ったっけな」
まさか、あのヒバがプレゼントなるものをあらかじめ買っておいたとは、思わず俺は静かに立ち上がってココの部屋の冷蔵庫から勝手に缶酒を拝借した。
「ヒバ君きみ……ヘアピンなんて選べるような子だったんスか?」
「どういう意味だよココ姐さん……ほらハヤっていつもヘアピン使ってるし、丁度良いだろ?」
缶のプルタブを開けながら横目で見ると、可愛すぎる事もシンプルすぎる事もない。何かの花のワンポイントの付いたヘアピンを渡していた。
ハヤはそれを貰ったまま硬直しているので、俺が代わりヒバの肩をポンと叩く。
「ああ、丁度良い。良いぞ。ヒバ」
彼は不思議そうに俺の顔を見てから、鞄に顔を戻し、引っこ抜くようにビニール袋を取り出す。
「そんで、ココ姐にはこれな!」
――生ライムの詰め合わせ、おそらく約1000円。
最近は果物も高い、ややこぶりなライムが五つ入っているお得セット。酒には何かとライムを使う、ココ渡すにはぴったりの選択、選択なのだが、下手すりゃヘアピンより高いんじゃないだろうか。
ココは目を丸くした後に酒を吹き出しかけ、俺は酒が気管に入り溺れかけた。そうしてひとしきり笑ってから、ヒバの肩をニ度叩いた。
「最高だよ。最高に丁度良いぞ、それ」
「あぁ……私からは。はい、二人に……」
彼女も笑い疲れたような、扱いの差に落胆したような、絶妙な表情をしながら二人にホッカイロのセットを渡す。
「寒いッスからね……ほんとはハクキンカイロにしたかったんスけど、絵の前で火ぃ使うのは危ないんで……まぁ皆が冬キャンプに興味持ったらプレゼントするッスよ」
二人が絶対に使う消耗品を選ぶあたり、無難だが俺の立場から見ても助かる。実際、備蓄も無限というわけじゃあない。普段使いにも助かる物を選ぶあたり、ココの根のまともさが出ている気がした。
そうして、問題はハヤがどうしているかだ。
この中では彼女が一番こういう事を苦手としているはずだ。実際、未だにヘアピンを見てぼうっとしている。
しかしハヤも何か用意していたのは間違いないのだろう。自身の鞄に目を移した。
そのあたり、ココも理解はしているようで、酒を飲んでいても急かすような事はせず、こちらを見てしてやったりみたいな表情をしていた。
「じゃあ、私からは……」
ハヤの手からおそるおそる渡された包みをヒバが少しぎこちない手つきで開けると、その中には何処かで見た覚えのある時計が入っていた。というか俺がつけている時計と同型の物がそこにあった。
「ほら、ヒバはたまに時間忘れて描いてる時あるし……」
理由は分かる、理由は分かるのだが、流石に値段が釣り合わなすぎるのでは無かろうか。そりゃあ二人はもう絵で十分過ぎる程金を稼いでいるけれども、俺のつけていた時計と同型の物を買うとなれば、百や数十は行かずとも、十数というお札が消えるはずだ。
「た、高くないか?」
流石にヒバからも突っ込みが入る。
しかし、プレゼントとは、特にこの二人のプレゼントはきっとそういう物じゃあないんだと思った。
「いーんだよ。貰っとけ」
値段ではないのだ。きっと二人の等身大が、これなのだと思った。
「そーッスよ。貰っとけー」
なんとも自分で想像するのも恥ずかしい話だが、ハヤから見た画家という存在の象徴がきっと、アレだったのだろうと思う。なんていったってあの夏は、大変な夏だった。俺がつけていた利き手を誤魔化す為の時計は、よりあの夏を印象付ける物になったはずだ。
そうしてヒバは単純にハヤを想って物を選んだ。ココについても同じなのだろうけれど、ハヤについては絵を描く時に纏わる物という点で、やはり二人の思考の根元は絵である事を思い知らされる。
「こういうのって、値段じゃないと思ったから」
ハヤは自分の選択を納得させるように呟いてから、鞄をもう一度漁る。
そうして、引っこ抜くようにビニール袋を取り出す。
「ココさんには、こちらを……」
――レモンの詰め合わせ、ライムよりちと安い。
やや大ぶりなレモンが五つ入っているお得セット。酒には何かとレモンを使う。ココに渡すにはぴったりの選択、選択なのだが、あの時計を見た後だととんでもない落差を感じる。
しかし、確かに値段ではない。
「いや……仲良しかよ」
ココの呟きとともに、酸っぱそうな果実がテーブルを占拠していった。
そうして最後に、皆の目線は俺に集まる。
「いやいや、無い。無いよ俺からは。お前らからも無いだろ?」
俺にそういうのを期待する奴らでは無い事は俺が一番良く知っている。逆に俺にそういうのを用意する奴らでも無いという事も良く知っている。そのくらいの温度感で、構わないのだ。これが俺の、丁度良いってやつなのだと思っている。もしかしたら、少しだけ侮られているかもしれないけれど、それも俺の計算のうちというヤツだ。事実クリスマスプレゼントは用意していないのだから。
「まぁ……」
「確かに無いけどさ……」
ハヤとヒバは二人揃って肯定する。ココは既にプレゼント交換は終わったと言わんばかりに酒をぐいっと煽っていた。
「つーわけで、だ。いくらクリスマスイブったってそろそろ良い時間だ。開きって事でいいんじゃないか?」
時刻は二十一時を回って、流石にこれ以上は補導の可能性を考えると怖い。高校生コンビもそれは重々承知しているようで、俺の言葉に頷いて素直に片付けを始めていた。
「俺は煙草でも吸ってくる」
「片付けー! ズルいッスよ!」
言うココに俺はヒラヒラと手を振りながら「あとで手伝う」と言い残して一人外へ出た。
なんだかんだ、良い一年だったように思える。
明日も、明後日もアイツらとは会うにせよ。こういう特別なイベントを目撃すると、俺自身少しだけ胸が暖かいような、何とも言えない良い心地になる。
その余韻を、一人で噛み締めたかったというのが、本音だった。家の中からは楽しそうな声が聞こえてくる。そういう声や、ああいう表情も、アイツらには必要なのだと、前々から思っていた。
いつかどうにかなって欲しいと思っていたけれど、勝手に覚えて、勝手に成長していくものなのだなと、俺が学んでいるような気すらした。
――俺からすれば、それがクリスマスプレゼントみたいなものだ。
さっきよりももっと寒い空の下、大事な煙草ケースから煙草を取り出し、安いライターでそれに火を付けて、ぼんやりと空を見る。片付けが済んだのが高校生コンビがココの家から出てきた。ハヤはココに囃されでもしたのか、もう既にヒバから貰ったヘアピンを髪につけていた。ヒバもまた、ハヤから貰った時計をつけている。
「なぁヒバ、時計ってのは利き手の逆につけるもんだぞ」
「そうでしたっけ?」
明らかに俺を軽く皮肉っているハヤに笑顔は、少しだけ紅潮していた。そのくらい楽しかったという事なのだろう。そんな冗談も言い合えるくらいの聖夜、俺達は笑って別れた。
その背中をぼうっと見ていると、ココが俺のマフラーを持って外に出てきて、俺の顔を見た。
「良い子達ッスよねぇ……。あ、片付けはやっちゃいましたよ? プレゼントって事で!」
「ん、あぁ。助かる。じゃあ俺もこれを吸い終わったら、行くよ」
彼女も煙草を吸い出したので、付き合いで俺ももう一本吸おうとするとライターが目の前に差し出された。
「今日は本当に、随分と気が効くな。ほんと、助かるよ」
燃える炎が煙草の先端に移る時に、一瞬だけライターの鳥の意匠が目に入る。そうしてその鳥は、俺のポケットの中へと姿を消した。
「ついでにこれ、プレゼントのおまけッス」
――おまけと来たか。
なんだかんだで人を気遣うココの事だ。何かあるかもしれないとは思っていたが、こういう風にするのかと思うと、案外彼女も可愛らしい。
俺はライターを取り出さないまま、深く煙草を吸って、空へと紫煙を贈った。
そうして、吸い込むと同時に煙草からジュッという音が鳴る。
それは、空からの抵抗だったのかもしれない。いつもいつも紫煙を吐き出しやがってなんて思った空が、俺の煙草の火を消そうとしたのかもしれない。
「なんだよ、本当に降ったか」
「最後まで天気予報をネタバレしなかった私達って、偉いッスよね」
本当は、今日の天気が雪になるかもしれないという事を、俺達は知っていた。示し合わせて黙っていたわけではないが、少なくとも俺は知っていたし、"私達"と言ったという事は、ココも知っていたという事だ。
――あの二人が今、雪を見ている。
「こりゃ、アイツらには一番のクリスマスプレゼントかもなぁ」
「あの子達ばっか、ズルいッスけどねぇ……」
降る雪の中、俺は吸いきった煙草を携帯灰皿に詰めて、歩き始める。
手を突っ込んだポケットの中では、誰かが握りしめていたのだろう、ライターがまだ人肌の温度を保っていた。
「あ、マフラー忘れてるッスよ!」
「俺からは、それがプレゼントって事で」
あげるつもりは無かったのだが、彼女が俺から欲しがって持っていったものだ。だったらあげても差し支えないだろう。
「い、いいんスか? 寒いッスよ?」
「いいよ。火照った身体をさますにはまぁ、ちょっと寒すぎるけど。丁度良いって事にしとくさ」
「確かに丁度良いッスね!」と嬉しそうに笑うココに、俺はポケットからライターを取り出して見えるようにしながら、手を振った。
明日も明後日も会うのだから、特別な別れは必要無い。
だけれど少しだけ特別な日みたいにしたって、良い。
「しかし本当に、良い奴らだよ」
歩きながら、今日描く絵の事を考える。
俺達のしている事は、クリスマスだからやるとかやらないとかじゃあ、無い。
あいつらの絵は、夕暮れ時に描き終わったのだ。
だけれど俺の夕暮れ時はまだ終わっていない。だってまだ俺という一人の画家は今日の絵を描いていないのだから。
「ライムと、レモンと、マフラー」
一人、呟く。
これがきっと、俺があの子達に渡す、一枚のクリスマスプレゼントになる。
「それでヘアピンと……雪」
結局の所、俺が今日クリスマスプレゼントを皆に用意しなかった理由は、これに尽きた。
自分の絵を贈るなんて臭い事をするのは性に合わないが、俺は少なくともハヤとヒバからは絵を貰った事がある。
「時計と、雪。ホッカイロはまぁ……いいか」
構想を練りながら、雪の降る道を歩く。
なんだかんだ言って、俺は楽しいのだと、気付いていた。
だって俺は、今から描く新しい絵の事を考えながら笑っていたのだから。
雪が降る。アイツらからのプレゼントは、明日屋上で見せて貰おう。
ポケットのライターは、まだ暖かい。誰かの熱が俺の手のひらに移って、その俺の手のひらが、暖めている。あの鳥を描くのも、いいかもしれない。
終わらない、終わるわけがないのだ。続く続く色付く日々に、俺もまた想いを詰め込んで行かなくちゃいけない。
だから想像するのだ。これから俺に、あの子達に、どんな色の日々が、待っているのだろうかと。




