第97話 わざと表に出していない、なんてことは
その後、ジネットは顧客名簿の情報を見ながら、これはと思った人物を次々とメモしていった。
隣ではサラも、メルティア王女のみならず国王や王妃、兄王子たちに関する記事をどんどん書き出している。
「お嬢様ぁ! やっぱりメルティア王女様に関することはほとんど書かれていないです!」
そんな悲鳴が上がったのは、顧客名簿をチェックし終わったジネットが、サラとともに王室新聞を調べている時だった。
「そうね……」
確かに新聞のどの号を見ても、書いてあるのは国王夫妻や兄王子ふたりのことばかり。
たまに王女についてちらほらと書かれているものといえば、「メルティアも喜んでいた」という国王夫妻の言葉や、「メルティアにお土産に持って帰る」という兄王子たちの言葉ぐらい。
悲鳴を上げるサラにジネットがうなずく。
「それだけ表舞台には出てきていない証拠なんだわ。新聞も、病弱で美貌の王女を幻想的に書くばかりで、本人のお人柄については何も書かれていないもの」
事実、ジネットも直接会うまで夢にも思っていなかった。
まさかあんな妖精じみた可憐な外見のお姫様から、あんな辛辣で激しい言葉が飛び出てくるとは。
(………………もしかしてあの人柄を考慮して、わざと表に出していない、なんてことはないわよね……?)
〝美少女に罵られたい〟という性癖を持つ一部の人たち以外にとっては、普通は王女の口が悪いことは利点にはならないはずだ。むしろ真実を知らせることは、築き上げた病弱美人の幻想をハンマーでぶち壊すようなもの。
考えて、ジネットはふるふると首を振った。
(いえ、きっと考えすぎだわ。それよりも……)
再度王室新聞を手に取り、ううんと唸る。
「せめて趣味とか好みとかが載っていないか期待したのだけれど、王女殿下の情報が少なすぎるわ」
王室新聞は膨大な量があるというのに、メルティア王女のことはほとんど書かれていない。まるで砂の中から砂金を探しているような気分だ。
「お嬢様、ここは私たちにお任せください」
唸るジネットに、サラがどんと胸を叩く。
「王室新聞は私たちが人海戦術で情報を集めておきます! お嬢様はお嬢様にしかできないことをなさってくださいませ!」
「……! わかったわ! サラ、ありがとう!」
こくりとジネットもうなずく。
「なら私は、クリスティーヌ夫人にお手紙を書いてくるわ!」
ジネットの人脈の中で最も王室に近い人物と言えば、やはりクリスティーヌ・パブロ公爵夫人を置いてほかにいない。
何せ彼女自身が降嫁した元王女であり、現国王の妹。
つまり、メルティア王女の叔母に当たるのだ。
(クリスティーヌ様の口からメルティア王女殿下のことを聞いたことはないけれど……それでも血の繋がりがある方だもの。何か知っているかもしれない)
期待を込めながら、ジネットは夫人への手紙を書き始めたのだった。