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第37話 私をお嫁に……ですか!?

 突然の提案に、ジネットが目を丸くする。エドモンドの言葉を聞いたゴーチエもあわてて身を乗り出した。


「おいおい! ()()けはずるいよ抜け駆けは! それを言うならうちだってジネットちゃんを嫁に欲しい!」

「いやいや、こういうのは早い者勝ちだろう。最初に言い出した私の方に権利がある!」

「ちょ、ちょっと、ふたりともまってくださ――」


 口論(こうろん)の気配に、あわててジネットが止めようとする。


 ――そこへジネットよりも早く、ゆらりと立ち上がった人物がいた。


「絶対に、駄目です」


 完全に目の(すわ)わった、クラウスだ。


「ジネットは、僕の、婚約者です」


 ひとことひとこと区切られる言葉には、どれも尋常(じんじょう)じゃない力がこもっている。

 普段人当たりのいいクラウスから発せられる紛れもない〝怒り〟のオーラに、商会長たちだけではなくジネットもヒッと悲鳴を上げた。


「おふたりの息子の嫁になど、絶対にさせません。いいですか、もう一度いいます。ジネットは、僕の、婚約者です。そもそも、彼女を商品のように扱うのはやめていただきたい!」

「おお、こわ。クラウス君、そんな顔もできるんだね……!?」


 と言ったのはパブロ公爵だ。だがその顔はどこかおもしろがっている。

 対面に座る商会長たちが恨みがましそうに言った。


「でもねえ……ジネットちゃんを嫁にもらえるチャンスなんて本当こんな時ぐらいしかないし、そもそもこれを目当てにやってきているんだ」

「そうそう。ジネットちゃんは金の卵を産む(にわとり)……じゃなくて、すばらしいお嬢さんだ。そんな彼女の代わりと言われてもねぇ……」

「マセウス商会の権利書」

「え?」


 しぶるふたりに、目が据わったままのクラウスが言う。


「ジネットは何があっても離しません。代わりに、オーロンド絹布の販売権を持っているマセウス商会そのものを、報酬に渡します」

「ほう……?」


 途端に、ふたりの目の色が変わった。すぐさま急いで「時価総額(じかそうがく)は~」やら「本店のある土地価格は~」やらと囁き始める。

 その間にクラウスはジネットに向かって言った。


「ジネット……すまない。一度は君に任せた商会を、報酬として差し出してしまってもよいだろうか?」

「もともとクラウス様の商会ですから、私は全然大丈夫です! せっかく仲良くなった従業員の皆様とお別れしてしまうのは寂しいですが……」

「大丈夫だ。ルセル商会をとりかえした暁には、彼らを全員ルセル商会に(やと)い入れて新店を出せばいい」

「まあ! それなら大丈夫ですね!」


 ジネットが手を合わせて喜ぶ。その隣で、商会長たちの値踏(ねぶ)みも済んだらしい。

 頬をつやつやと上気させながら、ふたりは機嫌よく言った。


「マセウス商会なら、大収穫だ! その話、乗ろう」

「それで、うまくルセル商会の権利書を手に入れた方が、マセウス商会をもらえるということだね?」

「そういうことです」

「なら、商談成立だ。我々が責任を持って、ルセル商会を競り落としてこよう」


 うなずくふたりに、見守っていた立会人のパブロ公爵が誓約書(せいやくしょ)を差し出す。


「ルセル商会の権利書を競り落としてきた暁には、それをマセウス商会の権利書と引き換えにジネット・ルセル嬢に引き渡す。――それで間違いないなら、ここにサインを」

「ええ、エドモンド商会の名に誓って」

「ゴーチエ商会の名に誓って」


 ジネットとクラウスが見守る前で、商会長ふたりが誓約書にサインをした。


(よし……! これで、算段(さんだん)はつきました!)


 ジネットはクラウスと顔を見合わせて、力強くうなずいた。

 当初想定していた報酬より話が大きくなり、マセウス商会を手放すことにはなってしまったが、なにはともあれ話は無事まとまったのだ。


(あとはおふたりに任せれば……!)


 ――だがこの時のジネットは知らなかった。


 ジネットの目論見(もくろみ)は、義母レイラによって阻害(そがい)されてしまうことを。

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