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第22話 やっぱり私の顔が貧相すぎましたか!?

 自分の部屋を出て、応接間に向かう。そこでクラウスが待っているのだ。


 だが。


「ジネット……!?」


 会うなり、クラウスはお化けでも見たかのように目を丸くして絶句した。

 そんな彼の様子に、ジネットがサーッと顔を青ざめさせる。


(あああっ! や、やっぱり、私の顔が貧相すぎたんだわ! クラウス様が硬直している!)


「ごめんなさい! やっぱり変でしたよね!? サラ! 申し訳ないけれど、今すぐお化粧をやり直して――」

「いや待ってくれ! むしろそのまま、そのままで! お願いだから絶対にやり直さないでくれ!」


 すぐさまきびすを返そうとしたジネットを、クラウスがあわてて引き止めた。

 力強い手に腕を引かれ、ジネットがおそるおそるクラウスを見る。


「……すまない。知ってはいたが、君があまりに美しすぎて、つい言葉をなくしてしまった」


 そういうクラウスの顔は、なぜかまた頬が赤くなっていた。


(美しすぎる? 私が? ……クラウス様は頭でも打ったのかしら……!?)


 ジネットが心配していると、頬を赤らめたままのクラウスがうめく。


「……白状しよう。僕は今、とても複雑な心境なんだ。君の素顔を誰にも見られたくない、ひとり占めしておきたいと思うと同時に、君の美しさを皆に知って欲しいという相反(あいはん)する気持ちで揺れている。……こんな感情は初めてだ」


(私もこんなクラウス様は初めて見ます……! お顔も赤いし、何やら不思議なことを言い出しているし……あっ! もしかして!?)


 ハッと思い立って、ジネットは背伸びしてクラウスのおでこに手を当てた。


「クラウス様、お風邪でも召されてしまったのですか!? 大変! お医者様をお呼びしなければ!」

「いや、そうではないんだけれどね……」


 言いながら、クラウスはなぜか笑い出していた。

 それからジネットの手を優しく取って、甲に口づける。


「ひゃあ!? な、なんだか今日のクラウス様はおかしいです! やっぱりお熱があるのでは!?」

「熱はないよ。……それより今日のドレスも本当によく似合っている。これはなんだい? 見たことのない生地だ」


 クラウスの言葉に、ジネットは先ほどの照れも忘れてぱぁっと顔を輝かせた。


「あっ、そうなんです! 実はこの生地、とっておきなんです!」


 嬉しくなったジネットは、ドレスの裾をもちあげてくるりと回ってみせた。


 ――今ジネットが着ているのは、“オーロンド絹布けんぷ”と呼ばれる絹布で作られた青のドレスだ。


 主張しすぎないシンプルで上品なラインに、後ろに流れるように広がる裾。

 一見するとただの青いドレスに見えるが、角度を変えることで、まるでドレスの中に夜空が広がっているような素晴らしい輝きが現れるのだ。


 クラウスが感心したように言う。


「これは見事だね。遠目から見ても美しいが、光を受けることで見たこともない幻想的な光り方をする。きらきらと華やかで、それでいて派手過ぎない塩梅(あんばい)がすばらしい。きっとこのドレスは、夜空に輝く一番星のように、周囲の視線を集めることまちがいなしだ」

「そうなんです! それがオーロンド織布最大の特徴なんです! 最近仲良くなったヤフルスカの商人さんに紹介していただいて……」

「ヤフルスカの商人に? 驚いたな。君はいつの間にそんなところにもコネクションを作っていたんだ」


 そこまで言ってから、クラウスは「ああ」と気付いたようにつぶやいた。


「もしかして、次はこれを売り出すつもりなのかな?」

「はい! 原価がそれなりに高価だったので、私では扱えないかもと思っていたんですが……逆に、社交界の方々なら、もしかしたら興味を持つかもしれないと思って」


 ジネットはそこで一度言葉を切った。

 それからしょんぼりと眉じりを下げる。


「ですが着ているのが私だと、どうも力不足な気がしています。どうでしょうか? やっぱりほかのご婦人に着てもらった方がいいのでしょうか……?」


 不安そうなジネットに、クラウスが優しく微笑んだ。


「そんなことはない。力不足どころか、今夜そのドレスを最大限輝かせられるのは君しかいないと断言しよう。ご婦人方どころか、会場中の注目が集まると思うよ」

「ほ、本当ですか!? クラウス様にそう言っていただけると、なんだか自信が出てきました……!」


 照れたように笑うジネットの腰に、クラウスがそっと腕を回した。


「僕が贈ったパールのアクセサリーもよく似合っている。今日の君は、まさに夜空を(まと)う女神だね」

「クラウス様……! それとても素敵ですね!? この生地はその売り文句を使わせていただきます!」

「ああ、うん。いや、そういう意味じゃないんだけれど……まあ君が喜んでくれるのなら嬉しいよ」


 言ってクラウスが複雑な顔で額を押さえる。

 後ろでは、そんなふたりを見ながらサラが嬉しそうにくすくすと笑っていた。

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