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第13話 気付いていらしたのですか!?

 一方ギヴァルシュ伯爵邸では、サラが嬉々としながら使用人たちを先導(せんどう)していた。


「それでは今からお嬢様の荷物を取りに行きましょう! 私が宿屋までご案内いたします!」


 それはまるで、クラウスの気が変わらないうちに、ジネットの居場所をここに作ろうとしているようだった。


 そんなサラを見ながら、ジネットが困り顔で言う。


「あの、クラウス様。お部屋を貸していただけるだけでも十分ありがたいのですが、せめて自分の食い扶持(ぶち)ぐらいは自分で稼ぎます。いえ、稼がせてください!」


 クラウスはくすりと微笑んだ。


「さっきも言った通り、生活費のことは心配しなくていい。君は僕の婚約者なのだし、そもそも今までルセル卿から受けた支援に比べたら、微々たるものだ」

「ですが……」

「それよりも、君は一体何で稼ぐつもりだったんだい?」


 聞かれて、ジネットははきはきと答えた。


「どこかの商会で雇ってもらえないか、考えていました! お仕事の知識だけは男性にも負けないつもりですし、エドモンド商会やゴーチエ商会のおじ様方とは特に仲がいいので、もしかしたらと……!」

「君がそんなことを考えていたのだとしたら……僕はまた彼らに恨まれてしまうね」

「へ?」


 言葉の意味がわからず、ジネットはきょとんとする。

 クラウスはなぜかふふっと笑っていた。


「せっかく君を商会に引き入れるチャンスだったのに、僕が阻止したと知ったらしばらく口を利いてもらえないかもしれないな」

「私を引き入れるチャンス……ですか? 確かにおじ様たちとは仲がいいですが、そういうお誘いはいただいたことありませんでしたよ?」


 不思議そうに首をかしげるジネットに、クラウスがにこやかに微笑む。


「君にそういう話をしたら取引をやめると、ルセル卿が釘を刺していたからね。でも彼らは、あの手この手で君のことを引き抜けないか、いつも考えていたみたいだよ。それこそ自分の息子の妻に、と言う声も何度か聞いたことある」

「そうなのですか? 全部初耳です……!」


 目を丸くするジネットに、クラウスはますます笑みを深める。


「そりゃあそうだろう。だって、そういう話は全部、僕が潰していたのだから」

「えっ? つ、潰す……?」


 恐ろしい単語が出てきて、ジネットは目を丸くした。一方のクラウスはと言うと、けろりとしている。


「君はもう僕と婚約しているのに、まったく困った人たちだったよ。叩き潰しても叩き潰してもまた狙おうとするしぶとさは、さすが商人だね」

「た、叩き潰す……!?」


(クラウス様のお口から、なんと物騒(ぶっそう)なお言葉が……!?)


 目の前にいる人物は、本当にジネットが知っているクラウスだろうか。


 ジネットが真顔でぷるぷる震えていると、恐ろしい言葉などなかったかのように、さわやかな笑顔でクラウスが言う。


「そうだ。ルセル卿が行方不明になった時の状況も詳しく聞かせてくれるかい? 僕はまだ詳細を知らないんだ」


(あっ、そういえばクラウス様は、留学から戻ってきてすぐにルセル家にやってきていましたね)


 ジネットたちとちょうど入れ違いになった後、彼は親戚の家を手当たり次第に探していたらしい。まさか宿屋にいるとは思っていなかったようだが。


 ジネットが経緯を説明すると、クラウスは「ふぅむ……」と考え込んだ。


「なるほど、行方不明になったのはヴォルテール帝国の東領か。なら帝国の知り合いで、その辺りに詳しい人がいる。連絡をとってみよう」


 すぐさま執事が呼ばれ、情報が伝えられる。

 終わるとクラウスはジネットの方を向いた。


「なるべく早く、父君を見つけると約束しよう。……ところでジネット。ひとつ気になっていたんだが、君が家を出た時、商会の権利はもらってこれたのかい?」


 ジネットが商会を引き継ぐことは、ルセル家では周知(しゅうち)の事実だった。当然、ルセル家によく出入りしていたクラウスも知っている。


「それは――」


 けれど口を開きかけたジネットを、クラウスがさえぎった。


「ああいや……やっぱり言わなくていい。冷静に考えて、あの義母ははおやが渡してくれるはずがなかったね」


 その言葉に、ジネットは目をぱちくりとした。


「クラウス様は、お義母様のことをよくご存じなのですね?」


(お義母様は、私にはよく()()()をくれたけれど、それ以外の方の前では完璧な淑女でしたのに)


 ジネットは変にことを荒立てたくなくて、今まで使用人たちに義母たちのことを口外しないよう口止めしていたのだ。


 だから父やクラウスを含むほかの人は、ジネットがどういう扱いを受けているか知らないはずなのだが……。


「もちろん気付くさ。自分の大事な人が他人からどんな目で見られているのか、どんな扱いを受けているのか、気付かない方が難しい。君は隠したがっていたようだが……君の父君も気付いていたよ」

「お父様も気付いていらしたのですか!?」


 ジネットはあわてた。


(おおらかなお父様のことだから、てっきり気づいていないかと思っていたのに!)


「ルセル卿は君の性格をよく理解していたからね。君が楽しんでいるうちは、下手に口出しする気はなかったみたいだ」


(ということは、私があれをご褒美だと喜んでいたこともバレて……!?)


 嬉々としてめげない実娘と、そんな娘をこれまためげずにいじめる妻と義娘(ぎじょう)。そんな家族を、父はどういう気持ちで見ていたのだろう。

 知りたいような、知りたくないような、複雑な心境だった。


「それで、君は商会をどうするつもりだい? ルセル卿がすぐに見つかればいいのだが、最悪の事態も想定しておかないといけない。その場合商会を譲り渡すつもりは——」

「もちろん、ありません!」


 ジネットはきっぱりと答えた。


「商会はお父様がくださると約束したものですから、きっちり、取り返させていただきます!」

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