セカンド勃起
老いたくない!!
老いは突然来るものではなく、今日は調子が悪いなあという日が連続し、気づけばそれが日常となっている。その事実すら、きっかけがなければ分からない。ゆでガエルの喩えのようにじわじわと……
というような話を会社の大先輩から聞いた。
筆者はまだ老いを自覚する歳ではなかったが、この話を聞きハッと想起されるものがあった。
勃起である。
三十路に近づくにつれ、連戦ができなくなった。その割に脳は興奮しっぱなしなものだから、情けなくうなだれた自分自身を対戦相手にこすりつけ辟易とさせること幾度。
ン?なんか今日は二回目が勃たねえなあ。そんな状況が何度も続き、筆者はそのうち一度の噴火で全てを終える戦略に、無意識のうちシフトしていた。自分のちんぽが老いている、その事実にすら気づいていなかったのである!前述の大先輩の言で筆者はそれに思い至った。
そうか。俺のムスコは老いていたのか……
老化はまず脚に現れる、とリングフィットアドベンチャーの豆知識コーナーに書いてあった。だが、違う。違うぞ任天堂よ。【老いはまず、ちんぽに来る】。大企業なのにツメが甘いな、というのはさて置いて。
筆者は狼狽した。まだ精子をまき散らしたい!!精子スプリンクラーとして生きていきたい!!
ネットによると筋トレが良いらしい。筆者は一所懸命に筋トレした。三ヶ月後、腹筋がうっすらと割れたそれなりのマッチョボディを手に入れた。
それでも、ちんぽはうなだれていた。ネットはクソである。
筆者は発狂した。よくクソみたいな先輩方が「若いうちにもっと遊んでいた方がいいョ~」などと嘯いているのを鼻で笑って流していたが、あの警告は真実だったのだ!!
三大欲求の一つが失われれば、人は人でなくなる。まさしく食って寝るだけになってしまう!!それは言いすぎだろうが、少なくとも筆者個人に限ってはシモネタに寄り添って生きてきた。口を開けばシモネタばかり。シモネタのゴリ押し押し売りで人間関係を構築していた時代もあった。小説家になろうで筆者が垂れ流している妄言のうち、他より閲覧数が多いのも大半はシモネタである。それらも殆ど閲覧数がないのはさておき……筆者からシモを抜く、それは四半世紀以上に渡って剛直化したアイデンティティを根本から打ち倒す行為に他ならない。いや、倒れてしまって立たなくなったのは筆者のちんぽだが……
ということで、勃起改善薬バイアグラのジェネリック品を海外から取り寄せた。本家の半分以下の価格である。どうでもいいが本家バイアグラって昨今話題のファイザー社製ですのんね。
届いてすぐに飲んでみた。安いしオ◯サカ堂なので効果に不安があったが、少々の顔のほてり(日焼けした感覚に近い)の後、股間が「みしり」と音を立てた気がした。
パンツを脱ぐと「バチーン!!」という音とともに、へそ下に怒張したちんぽが張り付いた。
「これ半分、無明逆流れじゃん……」
筆者は呆然と呟いた。分からない人はシグルイを全巻読んでね。シュールな場面ばかりクローズアップされがちだが、間違いなく傑作です。
思い出した。勃起とはこうだった。気づかぬ間に、ろくに血流も回っていない、軟弱で、もはや勃起とは呼べぬスカスカ海綿体に、筆者の勃起は成り下がっていたのだ。
勃起しないことばかりに目がいっていたが、勃起の勢い自体が緩やかになっていたのだ。この事実に、筆者は全く気づいていなかった。老いとは気づかぬうちに忍び寄っている。大先輩の言は正しい。
かつて、バイアグラが一世を風靡した意味が分かった。これは勃起薬ではない。一時の仮初とはいえ、アイデンティティを復活させるエリクサーである。ありがとう、ファイザー社。ありがとう、ちんぽ。
筆者は満足ゆくまで、精子をまき散らそうと思う。そう、生死をかけて――
完
姉妹作です
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