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第三十八話 【キングオブ・チャレンジャー】

 切れ長の瞳、燃え上がるような赤髪――俺たちの最強が。

 ヴォーダン・ハイルディンが、尊大な、だが頼もしい背中を広げて降臨した。


「あんたをずっと――ずっと探してたよ、ヴォーダン」

「話はデウスの中で聞いていた。……貴様に任せて正解だったようだ、カント」


 俺と、そしてエイルに目を向け、ふっと薄く笑うヴォーダン。

 二人しか生き残っていない――そんな現状を見てもなお正解だったと言う男は。


「そうだろうエイル。――君がここにいるのなら、それは何より意味のある事だ」

「――ええヴォーダン。お互いに、随分と遠回りをしたわね」

「ああ。だがそんな遠回りも――これで終わりだ」


 ふぅ、と一つ息を吐く。

 脱力する身体、伏せた顔、張り続けた何かに別れを告げるように。

 閉じられた両目に映るのは――きっと、過ぎ去った四年間の日々で。


 刹那、解き放たれるその視線。握ったランスが指し示す先には、仇敵デウス。


「……さて。前回は不意打ちで敗れたが――今回は真っ当に戦えるな?」

「オマエが蘇るなどッ……システムロード〝ボス№97――ヨルムンガンド〟!!」


 それは世界への呼びかけ、デウスが使い得る最大のルール違反。

 エイルが斬った右腕がシステムに憑依(ひょうい)され暴れ出し、デウスは回収した剪定剣(せんていけん)でそれを突き刺した。

 すると、ただの肉塊だった右腕はドス黒いオーラを纏って膨張、(まゆ)のような球体を形成したかと思いきや――次の瞬間。


 フルルルシャ――ギャギグアルルルシュ、シャァッ――――!!


 禍々(まがまが)しい(じゃ)(がん)、毒々しい色彩。

 邪悪なヘビ舌を巻いた――第百枝を守る〝三獣〟が一匹。

 ()()()()()ボスモンスター『世界蛇ヨルムンガンド』が最果てより顕現した。


「ロード率は80%――完全体ではないが、しかし!! オマエ一人では抗えまい!!」


 そのモンスターこそは最終盤、レベルにして【200】をもって挑む最強の一角。

 フェンリル、ガルムと並び〝第百枝の守護獣〟である大蛇、ヨルムンガンド。

 目算でギルセリオンの倍、十メートル強の巨体は頭上からヴォーダンを(にら)む。


「待ってろヴォーダン、この枝をどうにかして俺たちも――」

「馬鹿を言うなカント。――三対一など、この俺が許すはずないだろう?」

「三対()、だと……!?」


 デウスの顔が驚愕と不服に(ゆが)んだ。が、無理もない。

 今の言葉はつまり、あの凶悪極まるボスモンスターを〝一〟と。

 ――()()()()()()()()()()()()()ということで。


「……分かったよ。それなら好きなだけ遊んで来たらいいさ、ヴォーダン」

「これは骨が折れるな――はッ、だからこそ良い!!」


 加勢など不要、完全な勝利こそ掴みたいのだと。

 待ちわびた強敵にヴォーダンは笑って――そして強く地面を蹴った。

 敵は圧倒的格上、しかしその顔には一寸の恐怖もなく。


 ――シャァァアアアアッ!!


 瞬間、迎え撃つヨルムンガンドは限界なく口を開け放つ。ヘビ舌が波打ち、牙を剥いて、洞窟がごとき大口が空間を呑みながらヴォーダンへ迫る。

 が、その上顎はヴォーダンの遥か手前で跳ね飛んだ。

 それこそ〝リーチ〟による当たり判定の拡大、俺が苦しんだキングの最強戦法。


〝勝利の極意〟で二倍になった能力値は、ひとたび動けば目で追えない速さを弾き出し、ギラリと輝く『覇道槍ダイヤモンドクロス』に超絶の破壊力をもたらす。

 ――その最強が、全てに届くのだ。


 貫通しないヨルムンガンドの耐久力も異常だが、その巨体を揺るがすヴォーダンの筋魔力もまた驚異的。

 そんな応酬の最中、機関銃のようなヴォーダンの攻撃だけが命中していて。

 一方的に放たれる刺突に業を煮やしたか、ヨルムンガンドは沼色の毒、超広範囲のスリップ攻撃をまき散らす。

 微かに届いたその毒に、俺は(たま)らずめまいを覚えた。


 が、ヴォーダンはそんなことなど意にも介さず。攻撃は激しさを増していく。

 次第に飛び散る赤黒い血は、壁面の木々、地面の草花を染めていき。

 繰り広げられる世紀末の攻防――吹き荒れる爆風、ダンジョンを揺らしながら。

 互いに血だらけ、皮膚が裂け、骨が粉砕する音が響く中で――ヴォーダンは。


「久しいとも、ここまでの削り合いはいつぶりか――ははははッ、いいぞッッ!!」


 ――笑っていた。

 いつ倒れても不思議はない、死んだっておかしくない状態にも関わらず。

 その表情は、今までになく嬉しそうで。


「ああ、そうだ。一番強いあんたが――一番楽しそうじゃなきゃな、ヴォーダン」


 それはきっと四年前の。いつか頂上へと登る最強の、始まりの姿で。

 ……分かるよヴォーダン、やっぱり俺たちは似てるんだ。

 自分の好きなことのために、楽しいことのために笑いながら命すら懸ける。

 そんな瞬間が、一番充実してるんだよな。


「オマエ、正気か……!!」


 呟くデウス。――が、その言葉はそもそも間違えている。

 ゲームに熱中しているプレイヤーに、正気なやつなど一人もいないのだから。


「クソッ――ターゲット変更だヨルムンガンド、先にバグどもを仕留めろ!!」


 演算外の敗北を恐れたか。デウスは弱気にもヴォーダンとの戦闘を避け。

 ヨルムンガンドは忠実にターゲットを俺とエイルに変更し、うねりながら迫って来ると、とぐろを巻いてうず高くからこちらを見下ろした。


「〝ッッ――」


 エイルの口から恐怖が漏れる。

 俺はどうにかソレを飲み込んだが、腹の中では叫んでいて。

 世界樹のごとく太い胴体が不快に(うごめ)き、巨大な蛇眼、鋭い眼光と目が合った。

 ――こんなやつと、ヴォーダンは。

 上空に開いた暗い穴、ヨルムンガンドの大口が地面ごと呑もうと落下する――


「この俺から視線を外すとは、よほど耐久力に自信があると見える」


 その下顎をヴォーダンの刺突が(えぐ)り飛ばした。もはやどちらが捕食者か分からないセリフを言いながら、真紅の羽織(はおり)は俺たちに背を向け直立して。


「忘れていないだろうなカント、俺たちの決着は必ずつける。そして今度こそ俺が勝って見せよう――この、真の奥義をもってな」

「もうあのボスヘビは眼中にないってか。――見せてくれよ、俺にも使わなかった()()()()()()を」

「ふっ……などという、負け惜しみだがな」


 笑いながら振り向いたヴォーダン。

 その頬には鮮血が伝い、腕は青紫に染まり、全身に毒が回っているのだろう状況でもなお――勝ちを確信した表情で。


「これを受けられること、光栄に思うのだな。〝()()()()()〟解放ッ ―― 」


 刹那、その勝利を掴むべくランスを掲げた。


「一対一で敗れることなど……ッ!! 全リソース解放、三獣の力を見せろッ!!」


 そこへ負けじとヨルムンガンドが(おど)り出る。

 全身を上空まで伸ばすと同時、際限なく開いた口の中、舌の上で(したた)る猛毒を凝縮させ――次の瞬間、吐き出した。


「侵し尽くせ―― ヨルム・ヨルムンガンド!! 」


 降り注ぐ死の毒、命を(むしば)む攻撃に、だがヴォーダンは眉一つ動かさず応じて。


「 ― 玉座で微睡(まどろ)み世界を()せん。泉へ満ちよ、刻む戦禍は必滅の穂先(ほさき) ― 」


 振り上げたランスが信じられないほどの輝きを纏う。

 解放されるのは二倍になった能力値、その全てを統合、筋魔力へと変換して放つ――超絶の一撃。



「 『奥義』 ―― リーサル・グングニルッッ!! 」



 刹那、雷鳴が轟き――ヴォーダンの繰り出す極閃一投。

 対して頭上から降り注ぐ猛毒の刃。

 束ねた圧力で全てを貫く一息は、空中で奥義と衝突し。

 ――一瞬。わずか一瞬の均衡を見て、だが、輝くランスが猛毒の海を割り進み。


 そして、一刀両断。


 ズレるように裂けたヨルムンガンドは苦しむ間もなく左右に崩れて。

 あとにはただ、この戦いを惜しむように、一筋の閃光だけが停滞していた。


「はっ――どうだレイナ。悪くはない、景色じゃないか」


 満足そうに笑ったヴォーダンは、天に押されて仰向けに倒れ込む。

 その視線は敵のいなくなった空間を見届けると、最後に俺の両目を捉えて。


「……因縁があるのだろう。貴様が終わらせろ、カント」


 ヴォーダンは役目を渡すように言う。同時にダンジョンによる拘束も崩壊して。


「ねぇカント、私も一緒に――」

「ありがとうエイル。――でもきっと、これは俺が向き合うべきことだから」

「そう、なのね。……ええ、あなたに任せたわ」


 凛と頷いたエイルを背中に残し。俺はデウスと――下位勢の恨みと対峙した。


「ここがエンドロールだ。――もう終わりにしよう、デウス」

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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