第三十七話 ライオン・ハート
「システムロード――〝ウォール№26〟!!」
繰り出されるデウスのルール違反、システムによる拘束。
まとわりつく枝葉は俺とエイルの足を浮かせ、胴体を絡め上げる。
身動きの取れない俺たちを眺め、狂気的に笑ったデウスは――これで、と。
「これで残りは存在しない。失ったリソースはオマエらで補うとしよう!!」
「……いいえ。むしろあんたが、返せってもんでしょ……ッ!!」
瞬間、声が響いた。
同時に足音。苦しげに一歩を踏みしめて、光るその猫目は――間違いなく。
「レイナさん――!?」
「オマエ、なぜまだ生きている!? どうやって汚染を消した……!!」
デウスは有り得ないとばかりに叫ぶ。――が、おそらく違う。
消したのではなく消えたのだ。リソースの大量消費による汚染の劣化は、デウスの限界が近づいたことを証明していて。
その握力をもって強引に脇腹を止血したレイナさんは、重々しい足取りで進む。
「随分と……好き勝手に、やってくれたわね」
「死にぞこないの分際で!! ―― ダークマター・デリートッ!! 」
すでに満身創痍のレイナさん。
そこへデウスはもはや武器すら持たず、片腕を掲げて魔法を放つ。
――が、肩を焼かれたレイナさんは、それでも前へ。
「ッ…………Sランカーの意地、見せてやんのよ……!!」
「オマエのようなアカウントの出る幕ではないのだ!!」
我慢ならないと黒閃を乱射するデウス。リソースを使っても問題ないと判断したのか、あるいはすでに、出し惜しみをする余裕も消えたか。
明らかに威力の低下した暗黒の魔法は、しかしレイナさんにとっては死の嵐。
頬を掠め、腹を抉り、貫かれた足にはもう本来の瑞々しさなど微塵も残ってはいなかった。
「〝いッ――――……まだ、終われない……!!」
呻き上げそうな声を必死に押し殺し。
ボロボロの身体でもなお――その瞳だけは一層鋭く。
「無様だな、楽にしてやろう――〝キャッチ〟」
瞬間、デウスの手に発生する引力。
斬り落とされていた右腕、そして握られた剪定剣が背後から一直線、レイナさんの胸元へ。
「がァっ――――ッ!!」
再び皮膚が破れる音。背中から胸を貫かれたレイナさんは叫びながら天を仰ぐ。
血の混じる嗚咽、ツインテールが儚く舞い、その身体は力を失い崩れ落ちる。
――が、しかし。
「……ふざけないで。――どこの誰にも、アタシたちの四年間は奪えない!!」
振り絞る渾身。
倒れ込む両腕は地面を掴んで、敵を睨み上げるその四足はまさしく。
「〝スナッチ〟解放 ― 連鎖の頂点、強食の王者、我こそ全てを奪う者 ― 」
――瞬間、獅子の咆哮が轟いた。
「 『奥義』 ―― レオパルド・デ・ライセンティア!! 」
それはレイナさんが放つ全霊の奥義、百獣の王たる蹂躙の一撃。
駆けて突撃したレイナさんの爪は、デウスの喉を切り裂いて――いや、これは。
「残念だが、届かなかったようだな……!!」
その攻撃は間一髪、嘲笑うデウスを掠めていく。もはや死にかけのレイナさんではわずかに及ばず、致命傷を与えるには至れなかった。
――だが、これでいい。
「何が演算よ。残念なことなんて、何もない。――届いたわ、間違いなく……!!」
苦しそうに、されど力強く。
ソードに貫かれ地面に倒れるレイナさんの――その手には。
「それは……ッ、まさかオマエ――!?」
そう――【スナッチ】で、盗み取ったのだ。
……いったい何を。浮かぶ疑問に、だが、そんなものは一つしかなく。
奪われた仲間、いや、奪えはしなかった四年間の思い出を、たしかに握って。
「やっと――やっと、戻ってきた。笑顔のアンタは、誰にも、負けないから……」
その手から淡い灯火を優しく飛ばす。それはもはや、自身の命すら乗せた輝き。
同時にこと切れるレイナさんの意識、黒く染まりながら落下するその身体――
――を、受け止めたのは。
「……お前の自分勝手には四年間、付き合わされてばかりだなレイナ。――だが」
「オマエは――ッ!?」
「その覚悟、受け取った。――デウス、貴様の愚行、この俺が塵にしてやろう!!」
切れ長の瞳、燃え上がるような赤髪――俺たちの最強が。
ヴォーダン・ハイルディンが、尊大な、だが頼もしい背中を広げて降臨した。
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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―