第三十四話 【オール・デリート】
罠だったと、今さら気付いたところで手遅れだった。
スキルでダンジョン自体が偽られていたのだ。それはつまり、ボスモンスターが飛び出して来たのではなく、俺たちがボス部屋に迷い込んでいたという話で。
デウスがランザスの姿を写し取ったのならば、やはりあいつはもう――
「やりやがったな、デウス……!!」
怒りの視線で捉えたデウスは、倒れているオッサボさんの巨体を片腕で引きずり上げて。
「ぬおっ……お前さん、なんという能力値を――」
「これで、残り五人」
オッサボさんの抵抗を意に介さず、黒く染まる剪定剣がギラリと閃く、刹那。
「師匠ッッ!!」
「――ぶっ殺す」
スカジが気力を絞り、殺意の漲るレイナさんが全速力でデウスを狩りにいく。
状況はおよそ最悪だ。疲弊した体と揺らいだメンタル、しかしこのまま押し潰すしかないと、三方から強襲した俺たちは。
「今こそ我らが無力を思い知れ――〝リフレクション〟!!」
「がッッ――――!!」
理不尽な力に跳ね返された。
コロシアムの時と同じだ、こいつのスキルは全ての攻撃を反射する。
止めようがなかった。俺たちの目の前で、剪定剣は鈍い音を弾き出し。
「ガッ、ハハ――漢は不意打ちに、弱いもの、だァ……」
「――残り五人」
無慈悲に胸を貫かれたオッサボさん、その両腕が力を失いだらんと落ちる。
粗雑に放り投げられた巨体は地面を転がり、暗黒に染まって消え去った。
クツクツと楽しげに笑うデウス。とそこへ、不愉快な嘲笑を非難するように。
「よくもキキョウ姉さまを――死んで償いなさいッ!!」
「ゆるさない……!!」
《 アリア 》の二人が魔法を放つ。その怒りは当然、気持ちは分かるが、しかし。
「迂闊に撃つな、返されるぞ――ッ」
「自殺が望みか、くれてやる――〝キャッチ&リリース〟!!」
炸裂した魔法はデウスを避けたかと思えば、付き従うように周囲を回って。
次の瞬間、数倍に膨れ上がった暗黒の魔法となり二人の元へ撃ち返された。
「「そんな……!?」」
「漢は、女性を置いて逃げないんだ……!!」
その窮地へスカジが飛び込んだ。満身創痍でもなお、その手にはオッサボさんの教えとハンマーを握って。
リーダーを失った二パーティは互いを補って陣形を組むが。
「麗しき友情、といったところか――……反吐が出る」
デウスの攻勢、剪定剣の先端に黒球が凝縮される。……あれは、魔法なのか?
魔法攻撃武器ですらないソードに集中した黒いエネルギーは、理解するより早く爆ぜて。
「 ダークマター・デリート 」
――……消えていた、跡形もなく。その黒閃に焼かれ三人の姿が霧散した。
「クククク――残り二人だ」
一瞬の出来事だった。わずか一分足らずで五人がアカウントを奪われ、七人いたSランカーはたったの二人へ。残っているのは俺とレイナさんのみ。
突入時に十人いた最強の挑戦者たちはたった一人の男によって崩壊、今では見る影もない。
「イイ気分だ――独占されていたボス部屋でオマエらを蹂躙するのはナァ!!」
ケタケタと狂気を吐くデウス。その声は静かになったボス部屋によく響いた。
……もう聞こえない、ランザスのキザったらしいセリフは。
キキョウさんの艶やかな声も、オッサボさんの男くさい叫びも――ヴォーダンの頼もしい無口も。その全てが奪われた。
――ただ、絶望するにはまだ早い。
「レイナさん、俺に策があります。――いけますか?」
「ノった――もう一度、アンタに賭けるわ」
力強く頷くレイナさん。そうだ、デウスのルール違反など分かっていたこと。
そこへ製作者である俺が無策のままに挑むなど――そんな愚行が、あるわけないだろう。
チャンスは一瞬、二度とは来ない。
勝ちを確信しているデウスは、しかし、その力が〝スキル〟であることを失念している。
「全て演算通りだ、返すべき数多の理不尽を受けるがいい!!」
「その演算には、ちゃんとアンタの負けも含まれてるんでしょうねッ」
「我が敗北は有り得ない、理解しているだろう――〝リフレクション〟!!」
そのスキルは、飛び掛かった俺たちを嘲笑いながら発動した――否、発動させたのだ。
それこそが理不尽の源、全てを跳ね返すチートスキルだというならば。
「利用させてもらうぜ――〝反転〟ッ!!」
被せるようにスキルを放つ。これはチュートリアルで手に入れた、スキルの効果を【反転】させるスキル。
跳ね返すスキルが裏返ったなら――
「受け入れるスキルに変わる――全ての攻撃がお前に向かうッ!!」
「なに……!?」
刹那、弾かれたかに見えたナイフは一転、吸い込まれるようにデウスの元へ。
一度目の発動を受けたのはデウスの慢心を誘うため――この瞬間のために。
「ここだ、レイナさん――ッ」
「――獲る!!」
策は成った。唸る双拳、やっと踏み込めたその間合いで本気の獅子が暴れ回る。
今まで溜め込んだ全ての鬱憤をぶつけるように、俺たちはデウスを挟み乱打する――が。
「スキルを無効化した程度でェ調子に乗るなア!!」
「こいつ……ッ」
デウスの反撃、二対一などものともせずに剪定剣がギラリと輝く。
第九枝でもそうだった――こいつはシンプルに、ヴォーダンと同じくらい強い。
オッサボさんを片腕で持ち上げた能力値は異常の一言、スキルなど無くとも十分すぎる強敵。
――だが。そこまで読めているから〝策〟なのであって。
「〝反転〟解放ッ ―― 」
だからこそチャンスは一瞬、新しいルール違反を使われる前に〝全力で〟決着をつける。
「捕まえたッ……!! アタシに捕まるなんて皮肉よねッ」
「オマエ……ッ」
レイナさんがデウスの両手首を掴む。ノーガードで上昇したあの筋魔力、いかなデウスと言えど振りほどくことは敵わずに。
血管が浮き出るほどの渾身、骨の軋む音さえ聞こえる修羅場の中で、レイナさんはデウスの背中をこちらに押しやって。
「カントッ――アタシごと撃って!!」
壮絶に叫ぶ。――アタシたちの責任は、皆が目指した結末を手に入れること。
浮かぶその言葉に一切の偽りはなく。それがレイナさんの責任だと言うのなら、迷わずに撃つこともまた俺の責任であるはずであって。
「 ―― 湖面の楼上、触れ得る陽炎、果てて出でませ狭間の理 ―― 」
奥義を握り、ナイフを振り上げ。
ついに辿り着いた刹那の勝機で、俺の両目が見たものは。
満足そうに微笑むレイナさんと……愉快そうに笑うデウスの姿だった。
「クククク――届いたと、思っただろう? ――〝ブラック・アウト〟」
「……え?」
瞬間、見計らったように動くデウス。
同時に俺の奥義は発動を停止し――どころか。
「〝反転〟が、発動しない……?」
スキルが消えた。よって、奥義も停止した。その因果が示す事実に背筋が凍る。
黒いオーラの源、殺した相手のアカウントを奪うスキルは……まさか。
「スキルまで奪えるのか……?」
「むしろ聞こう、なぜアカウントが奪えてスキルが奪えないなどと思っていた?」
その口調は当然のことを説くように、だが滑稽だと言わんばかりの表情で。
傷一つ付ければスキルも奪えると、言ってデウスは――おもむろにレイナさんを押し返す。
「オマエのスキルも奪っておいた。――これで、能力値は我の方が上だな?」
「この……ッ」
「加えて、こういう仕掛けもある――〝ポリューション〟」
得意げに五つ目のスキルが畳み掛ける。それはやはり作った覚えがないもので。
発動と同時、どこから出現したか――黒い縄、帯のようなものが俺の身体を縛り上げる。
見ると、レイナさんも同じ現象に襲われていて。
「動けない……!? なによこれッ――」
「それは〝汚染〟だ。オマエらはボス部屋までにアイテムを拾ったな。――そう、我がスキルで汚染されたモンスターのものだ」
「お前、まさか――」
「理解したか? 自ら拾ったドロップアイテムこそが汚染データ、ポーチ内部からオマエたちのアカウント権限を侵食させた。すでに九割が我が支配下にある」
「出てきた雑魚モンスターすら、罠だった……? お前、いったいどこから――」
「言ったはずだ、全て演算通りだと。ククク――ようやく我らが無力を思い知ったようだな」
……完全な敗北だ。そもそも最初、分断された時点から嵌められていた。
そうとも知らずに俺たちはダンジョンを攻略した気になり、アイテムを拾って、ボス部屋へ踏み込み、味方の生存を疑いもしなかった。
――その結果が、この惨憺たる有様。
「さて、何か言い残すことは――聞いてやる義理もないなア!!」
「がぁッ……」
「レイナさん……!!」
皮膚が破れる音と、呻く声。デウスは嬉々とした表情でレイナさんを突き刺し、その身体を蹴りながらソードを引き抜く。
汚染に縛られたレイナさんは、脇腹の出血を抑える事もできないまま地面に倒れ込んだ。
「苦しみ息絶えるがいい。……これで残りはオマエ一人だ、バグ・アカウント」
また一つ音が消えた世界。
デウスはオモチャでも見るような目で、動けない俺に詰め寄った。
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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―




