第三十三話 泡沫の勝利
「――〝トリプル〟解放!!」
ロッドを掲げるキキョウさん。
大きな魔法陣がダンジョンを照らすと同時、Sランク絶対戦線が始動した。
「俺たちでキキョウさんが『奥義』を発動する時間を――」
「稼ぐのよ!! とにかく攻撃しまくって、ターゲット逸らして!!」
叫ぶレイナさん、と同時に各々が突撃を開始する。奥義の解放ともなれば敵対心の上昇は避けられない。
キキョウさんを守る方法は唯一、攻撃こそ最大の防御で。
『 【タイダルウェーブ・ディザスター】 ― 【テンペスト・ディザスター】 』
「「 ぐらんど・フォトンゲイザー!! 」」
「おらぁッ!!」
応じるギルセリオン。
放たれる天災魔法は、だがアリアの二人が閃光魔法で相殺し。
レイナさんの獅子精神はついに魔法を殴り飛ばした。
「隙だらけ、トロいおいらでも叩きやすいね!」
「にらめっこの時間だ、こっち向きやがれッ!!」
大地を揺らすスカジの強打、全力で斬りまくった俺を一瞥するギルセリオンは。
『 脅威指数急上昇 / 警戒強化 …… 補足完了 / 殲滅実行 』
それでもなお、最も危険なのは最後尾の魔女だと判断したようだった。
「くそッ、この攻撃量でも逸らせないのか……!?」
「ヤバいでしょこれ、逃げてキキョウ!!」
時間稼ぎは失敗した。
間に合うはずもないサポートに向かって――次に、俺が見たものは。
「――さて。ここが漢の見せどころ、じゃァないか?」
無防備なキキョウさんの前。
ギルセリオンに立ち塞がる、一人の大きな漢だった。
「オッサボ……あんた、逃げなくてええん?」
「何をバカな。女性を置いて逃げる〝漢〟がどこにいると?」
「――なんや。やる時は、ちゃんとやる男やないの」
嬉しそうに笑ったキキョウさんがロッドを構えて。
オッサボさんは刹那、豪快に叫ぶ。
「〝重量加速〟解放 ―― 山は動かず、しかして雄大に反り立とうッ ―― 」
それこそ漢の真っ向勝負。
相手の〝耐久力値〟を全て自分のものへと変換する超耐久奥義。
『 ― 【ロスト・エレメンタル・バースト】 ― 』
「 『奥義』 ―― ヘヴィメタル・クリエイション!! 」
そして両者は激突する。ギルセリオンの魔法、虹色が混ざり合い暗黒に染まったその一閃を、オッサボさんはハンマーで割りながら一歩も退かない。
いや、奥義による超耐久力は一歩踏み込む気概すら見せて。
ダンジョンが震える中、オッサボさんはニカッと豪気に笑ってのける――が。
『 抗生確認 / オーバーロード 』
ギルセリオンも止まらない。重なる詠唱、魔法の威力が跳ね上がる。
「互いに元気だなァ!!」
叫ぶオッサボさん。がしかし、みなぎる威勢とは裏腹に踵が地面を削っていく。
軋む腕、押される身体、その背中がキキョウさんの元へ辿り着こうかという――間際に。
「師匠ッ!!」
弟子が飛び込んだ。必死に駆け戻っていたスカジはオッサボさんの真横へ。
分かち合うように肩を並べたその師弟は、頷きながら視線を交わすと。
「「――漢だァ!!」」
同時にハンマーを振り下ろし――そして弾けた。晴れる視界、消滅する暗黒。
それを全て受け止めたボロボロの漢たちは、笑顔を浮かべながら地面に倒れて。
――ピタリと。その後ろで、一人の魔女がロッドを掲げた。
「ああ……間に合ったで。〝トリプル〟解放 ―― 」
感謝を告げるその視線は、次の瞬間ギルセリオンを睨み上げ。
呼応して広がる三重の魔法陣。互い違いに回るそれらは、ダンジョンを覆い尽くすほど膨張を続け――満ちる時を迎えたように静止する。
そして。キキョウさんはゆっくりと、終わりへの福音を奏で始めた。
「最罪の六。
其は尊き営み、相反する禁忌の心髄。二律は手を取り抑圧が解放を呼び覚ます。
人に宿れや世界の叡智、神々の秘奥は我が手に集う。
なれどもこの身は人ゆえに、故にこそを高らかに謳う――
――ならば全ては我が意のままに!!」
『 一級排除対象 / リロード ――……不足。/// ―【 ERROR 】― 』
「 『奥義』 ――〝ルクスリア・ラスト〟―― 」
それこそ作中最強系統、全てすべてを根源へと還す――ルーン魔法。
輝く魔杖、撃ち放つ奥義、着物をなびかせうっとり笑って。
キキョウさんは悟った眼差しで、判決を下すべく断罪の呪文を詠み上げた。
『 緊急回ヒ /ERROR/ 再キドウ /eRroR/……EEeeErROOoooRrrRRR』
ダンジョンを包む柔らかな光、聖なる波動はギルセリオンの身体を瓦解させ。
ルーンに魅入られた妖精神官は、不気味なエラーを叫びながら世界樹へと消えていった。
「――叡智の果てでおねんねしぃや。……なんて、カッコついたんとちゃう?」
自慢げに言うキキョウさんは――同時に、糸が切れたようにフラついた。
ルーン魔法の代償か。勝利と敗北が紙一重という緊張感、プレッシャーもあっただろう。
倒れそうになるその身体を支えたのは、真っ先に駆け寄ったレイナさんだった。
「……あの程度でこのザマやなんて、もう歳かもしれんなぁ」
「何言ってんの、立ってるだけすごいってもんでしょ」
あの憎まれ口が嘘のように微笑む二人。
そこへ、空気を読まず地面から声をかける人物が。
「レイナの場所にはわしがいる予定だったんだがな……無念だァ」
「耐久力、まだ鍛えんとアカンね?」
大の字に倒れているオッサボさんは、無念だと言いながらも満足そうで。
勝利の静けさがダンジョン内を包む。無数のルール違反に苛まれながらも、俺達はついにボスモンスターすら討伐した。
これで残る敵はデウスのみ――と、そんな思考を遮ったのは。
「スターは遅れてやって来るものだが……これは少し遅れ過ぎたかな?」
刹那に響いたキザな声。
その男は現れると同時、全ての視線を集めながら立っていた。
「ラン、ザス……!?」
「なんだいブサイくん、死人でも見るような顔をして。――いや元からだったか」
「生きてたのか……ッ!!」
文句を言うことも忘れ、俺はランザスの元へ走っていた。
ボロボロの服、土まみれの手足。
壮絶な戦いだったことを物語りながら、それでもランザスは変わらぬ調子で。
「言っただろう、必ず追いつくと。スターは有言実行なんだッ」
「お前ってやつは……大したスターだよまったく! ……ソルと、リックは?」
「――見事なステージだった」
……そうか。きっと二人がランザスを――なんてやつらだ。
ただ、ランザスが生きていてくれたことに違いはない。デウスとの決戦に備えても最高の戦力だ。
ヴォーダン消滅のタイムリミットは残り一時間半、今までの消耗を考えても休憩を挟むべきだろうと提案した時――ランザスは俺を呼び止めて。
「なあブサイくん、どうしてオレがここにいると思う?」
「ん? それは二人がお前を……ああいや、分かった。〝運が良いから〟だろ?」
その回答は予測済みだとドヤ顔で答えた俺に、ランザスは愉快そうに笑って。
「……答え合わせといこうか?」
言って、右手に持ったライフル、その銃口をごく自然な動きで――俺の胸元へ。
言葉と行動の意味が飲み込めない俺に向けて――――刹那、引き金を引いた。
「……え?」
――パチン、と。次に響いたのは銃声、ではなく指先を弾く音だった。
刹那、視界が転移する。
俺の眼前に現れたのは硬直した真顔を浮かべるレイナさんで。
いや違う、これはもう何度も――その瞬間、脳内にある全ての情報が繋がった。
さっきまでレイナさんに支えられていた人――キキョウさんのスキルは。
そして、死んだはずのランザスがここにいる理由、俺を撃った奇行の理由は。
「――なぜバレた?」
「阿保ぬかしや、ランザスは、左利きやって……」
苦しげに指摘するその声。俺が元いた場所、ランザスだと思っていた男の前には、心臓を撃ち抜かれたキキョウさんの姿があった。
「チェンジで、俺を……!?」
「……あとは、任せたで……坊や――――……」
鮮血に染まる胸元は一刻の猶予も許さずに。
うっとり笑ったキキョウさんは、力無く手を伸ばして――パタリと、ヴォーダンを追うように闇へ消えた。
「ククク――〝ブラック・アウト〟完了、残り六人。もう〝フェイク〟も不要か」
瞬間、第八分岐に見えていた場所は『ボス部屋』へと姿を変えて。
同時に、その男からランザスの姿が剥がれ落ち――俺たちを嘲笑いながら現れたのは。
「さて、最終局面だ。――恐怖をもって、秩序をもたらそう」
漆黒の中髪に金眼、白いローブに闇を隠した世界の悪意――デウスだった。
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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―