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第三十二話 妖精神官

 不気味の谷から発せられたような、低い合成音声がダンジョン内に響き渡った。

 それはギルセリオンの詠唱。――いや、挑戦者にとってはゲームオーバーの通知とすら。


「なんだこいつはァ、まさかボス――」

「言うより動いて、来るわよ!!」


 浮遊する五メートル強の体躯、騎士のような西洋兜に全身を覆う星空のマント。

 やはり暗黒を纏っている十枚羽根の妖精神官は、出現すると同時、巨大なロッドの先端から虹色の奔流(ほんりゅう)――天災魔法を撃ち放った。


『 標的補足 / 殲滅開始 ― 【エレメンタル・バースト】 ― 』


 それはまさに、流星に等しく。

 最大範囲かつ最高威力、直径十メートル内の草花を蒸発させる魔法攻撃を、俺は間一髪で回避しながら叫ぶ。


「あれは第二十六枝ボスモンスター『 妖精神官ギルセリオン 』だ!!」

「ボス部屋から出て来るとはいい度胸をしとる!! どうせデウスの仕業――」


 言うオッサボさんの言葉は、だがギルセリオンの無機質な合成音声に遮られて。


『 生存確認 / リチャージ ― 【エレメンタル・バースト】 ― 』

「連射できるのか……ッ!?」


 そのターゲットは一番近くのレイナさんへ。が、本人はむしろ突撃しながら。


「止まったら当たる、ボケっとしないで!! ……アタシらで狩るわよ!!」


 ボスモンスターによるまさかの奇襲、こちらの戦力は最大時の半分――しかし、やるしかないと。

 レイナさんの号令と同時、第二十六枝のボス戦が開幕した。


 動く戦況、初撃はレイナさん。その拳でギルセリオンの巨体をグラリと揺らす。

 敵対心を受けながら駆ける獅子は、今だとばかりに俺の逆側へと回り込んだ。

 初めてのボス戦、けど基本は同じだ。こうしてターゲットを受け渡しながら――


『 ― 【ヴォルテックス・ディザスター】 ― 』


 刹那、割り込んで訪れる天災。――同時に二つのターゲットを、二つの魔法で。

 ボスモンスター特有の挙動か、あるいはデウスの力なのか。

 どちらにせよ間違いないのは、その稲妻(いなずま)は俺の身体を焼き焦がすということ。


「やば――ッ」

「おいらの(おとこ)友達をイジメるな!!」


 空中を奔る雷撃、魔眼でも不可避に見えたそれを撃墜したのは、ややぽっちゃりとした大柄な青年。

 スカジは両手で握ったハンマーを天から地へ、轟音とともに振り抜いた。


「どんなもんだい!」


 自慢げに胸を張るスカジ。後ろからお礼を言うと嬉しそうに照れながら笑う。

 ――が、忘れてはいけない。この場合、レイナさんのターゲットは外れない。


「ならば漢の〝重量加速〟だァ――!!」


 豪快な一声。発動されたそのスキルは、浮遊するギルセリオンの身体を屈服させるように地面へと押し付ける。

 作り出された漢のタイマン空間、炸裂したオッサボさんの重撃は鈍い音を響かせながら西洋兜を歪ませた。――のだが。

 そこまでしても外れないターゲット。それはもはやロックオンと言っても過言ではなく。

 一人で敵対心を受け続けたレイナさんはすでに壁際、逃げる場所を失っていて。


『 脅威認定リセット / アップグレード …… 詠唱開始 』


 ――ノーガードの発動条件は防具を着ないこと。レイナさんがアレを受けたら。


「一撃で消される――マズい、レイナさんッ!!」


「――へぇ、ウチら抜きで楽しそうなこと、しとるやん?」


 その声は、乱戦の中にあって(つや)やかに耳を撫でた。

 と同時、トンガリ帽子を被った三人の女性は行動を開始する。俺たちの言葉より早く窮地を見切った《 アリア 》は武器を構えると、ギルセリオンを鋭く見据え。


「「「集え極光、我が声に。朽ちよ無窮(むきゅう)に、この祝詞(のりと)こそが四天の裁き――」」」

『 対象変更 / 補足完了 ― 【ネオエレメンタル・バースト】 ― 』

「「「 ――〝エレメンタル・バースト!!〟 」」」


 ()()()()()。目には目を、歯には歯を――魔法には()()()()を。

 むしろ挑発するような反撃、三人同時に放つその極光は、ギルセリオンの一撃と天文学的な力をぶつけ合い相殺した。


「ああ、無事やったんやね子猫ちゃん?」

「キキョウこそ、途中でやられたかと思ったけど!」


 合流するや否や。言い合う憎まれ口はきっと、再会の喜びを示すもので。

 オッサボさんとスカジ、次いで俺を見たキキョウさんは、最後にギルセリオンを見やって。


「ネリネ、ビエネッタ、魔法撃ち合って負けるわけにはいかんで!」


 即座の臨戦態勢。同時に《 アリア 》の二人――気だるげな少女ネリネが応え。


「ぼすちゃん、どっかん ―― ぷりずむ・ぷりずん 」

「ボス戦くらいやる気出しなさいってばッ ―― エリミネイト・レイ!! 」


 真面目に指摘しながらビエネッタが魔法を放つ。やる気の有無に関しては判断しかねるが、しかしその閃光魔法は確実にギルセリオンのマントを切り裂いて。


「遠距離攻撃は最高の援軍だ……!! いけるぞ、このペースで削れれば――」

「あー坊や、期待させたとこ悪いんやけど……見てみ?」


 (いさ)めるキキョウさん、その指先では――ギルセリオンの傷が、修復してる?


「妖精系に多い〝回復効果〟やね。このままヤっても持久戦、何人落ちるか分からへんな」

「厄介な調整をッ……でも結局、このまま削り倒すしか方法はないんじゃ――」

「それが実は、方法はあるんよ。――時間、稼いでもらってええかいな?」


 ニコリ、と。それはキキョウさんらしからぬ普通の笑顔、普通の頼み事で。

 Sランク内の共通認識なのだろうか。何かを察した俺以外の全員がキキョウさんに大きく頷く。


「おおきに。…………〝()()()()()() ―― 」


 瞬間、そのロッドを中心に大きな魔法陣が広がった。……そういうことか。


「俺たちでキキョウさんが『奥義』を発動する時間を――」

「稼ぐのよ!! とにかく攻撃しまくって、ターゲット逸らして!!」


 叫ぶレイナさん、と同時に各々が突撃を開始する。奥義の解放ともなれば敵対心の上昇は避けられない。

 キキョウさんを守る方法は唯一、攻撃こそ最大の防御で。


 そして、分水嶺(ぶんすいれい)になるだろうSランク絶対戦線が始動した。

もし良ければ右下のブックマーク↘、下↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、ランキングタグ↓クリックよろしくお願いします。……お願いしますね!!!


では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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