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第二十二話 漢の弱点

 ランザスの狙撃から逃れ、迷路のような細道をやっとのことで大通りに抜けた――その瞬間だった。


「ここで漢の〝重量加速〟だァッ!!」

「おわっ!?」


 突如、両足が()()()()()()()()。同時に膝を襲う猛烈な重力と。

 おそらく最多、三十弱のパーティに囲まれたその〝(おとこ)〟の姿が目に映った。

 ……しまった、最悪だ。路地に迷って出たこの場所は。


「オッサボさんの店の前――観光マップ買っとくべきだった……ッ」

「おやおや、よく来たな少年。お前さんもわし狙いか?」


 角刈りに豪快な顎髭、丸い瞳でこちらを見据えて。

 ぶっとい腕でハンマーを握ったその人は、五十人を優に超える挑戦者に囲まれながら、しかし余裕そうに話しかけてきた。

 ――いや違う、これは囲んでいるというより――


「おびき寄せられただけ……重すぎて、進めないのか……!!」

「おいスカジ、そっちの野郎ども鍛え直してやれ!」

「あいさ師匠、トントン叩いちゃうよ!」


 弟子と思しき大柄な男が答える。加工屋のデュオパーティたる《 山髭 》、その片翼を担うややぽっちゃりした青年はハンマーを担ぐと、動けないAランカーたちをモグラ叩きがごとく打ちつけ始める。

 と同時、上裸に重装備を纏ったオッサボさんが突っ込んで来た。

 影ができるほど大きな体躯で、小槌のようにハンマーを振り上げると。


「のう少年。漢なら、途中で折れてはイカんよなァ?」


 白い歯でニカッと笑ったオッサボさんは、やはり下ネタのようなことを口走り。


「そういう日もあると思いますよぉぉおおお!!」

「ならばやはり、わしが鍛え直してやろう!!」


 瞬間、頭上から隕石が降ってきた。

 そう思わせるほど重い一振りは、しかし動けないがゆえに〝受ける〟しか選択肢がなく。

 ――一撃。その一撃で膝が沈む。――二撃。ついに足が石畳を踏み割って。

 三撃――立ち続けることもままならず、背後でクリスタルの(きし)む音が響いた。


「ほぉう。なかなかどうして、見かけによらず耐久力があるじゃァないか」


 頷くオッサボさん、だがそれはこっちのセリフで――見かけ以上の破壊力だ。

 重装である『ハンマー』の特徴は〝強くて重い〟。おそらくオッサボさんの能力値も同じように敏捷性が低いタイプだろうが――しかし、関係ないのだ。


 自分が遅いなら相手も遅くすればいいだけの話。深度〝75〟――【重量加速】で敏捷性という項目ごと地面に押し付けてしまえば、あとは純粋なパワー勝負になる。

 ……何が最弱のパーティだ、このタイマンに持ち込まれたら勝ち目がない。

 そして何より最悪なのが、逃げるための足が封じられていることだった。


「ほいさ師匠、五人くらい叩いたよ! おいらの修行にもぴったりだね!」


 石畳に五つ穴を開け、軽々とハンマーを持った弟子が無邪気に言う。

 ――それは、叩いた、などという生易(なまやさ)しいものではなかったが。


「いいぞスカジ、もう数人ヤっておけ! こっちも、じきにフィニッシュだろう」


 そして再び視線が交わった。ヌッと伸びる影が俺を包み、隕石さながらに空を覆うハンマーが最高点まで振り上がる。――が、しかし。しかしだ。

 違うんだよ、そうじゃない。どいつもこいつも邪魔しないでくれ。俺は――……


「――俺は、コロシアムに行きたいんだッッ!!」

「――――……なに?」


 叫んだ刹那。オッサボさんは丸い目を見開いて、振り下ろしかけたハンマーを止めた。

 いや、オッサボさんだけではない。弟子の青年や周囲のAランカーたち、この場にいる全員が戦闘を中断してこちらを見ていた。――その中で。


「――そうか少年。最弱のわしらを前にして、あの最強へ挑みに行こうと言うか」


 ふっと一息。心臓の鼓動まで聞こえそうな静寂で。

 僅かな脱力、戦意が消えたかに見えた――瞬間、そのぶっとい腕はハンマーを高く掲げた。


「なんたる漢かッ!! ならばこの《 山髭 》越えて見せろッ!!」

「そこは通してくれるヤツじゃないんですかねぇ!?」


 相変わらず誰も彼も、結局意味の分からない結論に達するようで。

 ヴォーダンとの決戦が残っているのだ、これ以上クリスタルを消耗させるわけにはいかない――


「あーッ!! あんなところに、()()()()()()()()()ッッ」

「なんだとぉぉおおおお!?」


 とんでもない速さで振り向いたオッサボさん。――と、その弟子。

 原始的すぎるフェイントだが、なるほど、最弱のSランクは伊達ではなく。

 スキだらけの大きな股をくぐって走り出す。追撃を警戒して振り返ってみれば――Aランカーまで含めた全員が、まだ風呂上がりの美女を探していた。

 そもそも今、試験関係者以外に人はいないのに……やっぱり男ってバカだなぁ。


「なにィ!? 漢心を(もてあそ)んだな少年ッ!!」

「乙女心みたいに言わないでくれよ……。それにおっさん、あんた奥手だからどうせ何もできないでしょうが!」

「……それは言いっこなしじゃァないか!?」


 弱い抗議だった。肝の小さい大男を無視して、俺は大通りを北へと走る。

 クリスタルは万全の二つを残して一つが中破しただけ。三パーティに絡まれたにしては守り切った方だろう。

 頼むからもう邪魔をしてくれるなと、祈りながら疾走すること五分――ついに。

 周囲の建物より一際高いその目的地――円形のコロシアムが姿を現した。


 ……やっとだ。ようやく辿り着いた――あそこで、あの男が待っている。


 巨大な石造りの外壁、高いアーチ状の入り口を視認する。誰も訪れないという噂の通り、周辺に挑戦者の気配は微塵もなく。

 本当に一番乗りなのだな、と。その事実に湧き上がる感情は、なにも喜びだけというわけではなかったが。……いや、だからこそ。

 だからこそ俺が来たのだと、コロシアムに向け歩き出した、その時。


 ――コツン、コツン。


 入り口の奥。暗い影の中から一つの足音が響いた。


「ヴォーダン、か……?」


 俺の問いに返答はなく。不気味な足音だけが響く中、闇を裂いて現れたのは――

 異常な薄着にブロンドのツインテールが揺れる、猫目のお姉さんだった。


「レイナさん! こんな場所にいたんですね。今からヴォーダンのところに行――」

「……()()()()()()()?」

「え――――」


 瞬間、普段からは想像もできないほど重苦しい眼光。

 寒気を覚えると同時に繰り出されたのは――《 獅子 》の拳だった。

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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