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第十六話 おっちゃんクエスト

 翌朝、安宿を飛び出した俺は――おめでとう、今日から〝Eランク〟よ、と。

 そんなエイルの第一声に見送られ、挑みに来たのは第九枝。


 一から十枝までを1st(ファースト)、十一から二十枝までを2nd(セカンド)、と順番に呼び分類している中において――〝神々の国:1st(ファースト)アースガルズ〟と呼ばれる第九枝は、神殿のように厳かな雰囲気。

 白い石壁と、それを支える石柱が神聖な威容を放つダンジョンだった。


「試験に備えて少しでも強くなっておかないとな」


 現在地はツリーダンジョンのスタート地点。背後には入口のビフレストが輝いているが、引き返す選択肢はなく。

 Eランクでの初陣に、俺はモンスターが待ち構えるダンジョンを進み始めた。


 ――俺がこの第九枝に来た理由は二つある。


 一つ目の理由は経験値の獲得。レベルアップは間に合わなくとも、戦闘経験は積むほど役に立つ。

 そして二つ目は――とあるクエストを依頼されたからだ。

 というのも、俺は朝一番に加工屋で装備を新調した。――そう、大通りでエイルと俺に声を掛けてきたあの店だ。

 品揃えも良く、相変わらず俺をエイルの彼氏と呼び、リーフも安くしてくれた。

 店内の装備をいろいろと見て回ったのだが――


『ボウ』や『ライフル』は射程が広い反面、扱いが不慣れで精度に問題があり。

『ロッド』や『グリモア』は華麗な魔法攻撃だが、活舌が悪くて詠唱を噛みそう。

『シールド』や『ハンマー』は破壊力はあるが、敏捷性が下がるため相性が悪く。

『ソード』や『ランス』はバランスが良すぎたため、逆に使う気が起きない。


 そんな経過を辿り、軽量で扱いやすい『グローブ』と迷った末に選んだのが――


「この『ナイフ』――〝遊戯短剣トリックスター〟。今後の俺の相棒だ」


 紫紺(しこん)の刀身がキラリと光る。十五センチ強の刃渡りと、それを支える鋼製の柄。

 透き通る意匠は『結晶』や『鉱石』系の素材で作られた証――アメジストもかくやという、宝石のように輝くナイフだ。


 (あわ)せて、遊戯シリーズの防具といえば。『体糸』や『外皮』系を素材にした濃紺のハーフコート――その名を〝遊戯の迅套(じんとう)〟と。

 耐久力はそう高くないが、敏捷性の高さが俺にピッタリの装備だろう。


 ――値段を五回確認するほど高額だったことは言うまでもない。

 が、リーフを強さに変換できるのは装備品だけ。出し惜しみをする余裕などはなかった。……あと、カッコ良くてつい、ね。

 そして二つ目の目的。購入特典として店主のおっちゃんから依頼されたクエストがこれだ。


【 おっちゃんクエスト:『聖天使の羽根』を納品する 】


 つまり、第九枝にのみ出現するレアモンスターを狩りに来たのだ。

 ついでにクエストの報酬も頂けば数日は生きるに困らないだろう。道中の戦闘を入れれば一石三鳥である。

 右手にナイフ、はためくコート、元気なアホ毛を揺らしてダンジョンを奥へ。

 広さで言えば体育館ぐらいだろうか。比較的狭い方に分類されると思うが、ソロだとやはり広いように感じてしまう。


 ユミルの瞳にはマップが表示されており、一度通ったルートが記録される。

 複数のルートを埋めるにしたがって、ダンジョンはその〝ツリー〟たる全容を見せていくことになる。マップ情報の売買なども行われているらしい。

 ただ、これはツリーというより迷宮だなと。内心思いながら第一分岐を右に抜けた、その時。


 ――ガシャッ。――ガシャッ。

 曲がり角から響く重厚な音。壁に伸びる五つの影を揺らしながら現れたのは。


「『聖衛兵(せいえいへい)ヘイム』――九枝のノーマルモンスターか!!」


 シルバーの甲冑にマントを纏い、五体の聖衛兵ヘイムが隊列を組みながら行進して来た。

 目当てのエンカウントではなかったが、こいつらも立派な経験値だ。

 ダンジョン内では待ったなし、俺は新武器の切れ味を試すべく駆け出した。


「シンニュウシャ補足――ハイジョ実行」


 起伏のない音声を甲冑から響かせて、蒼銀のソードを振り上げた聖衛兵が迫る。

 が、速い。――敵でなく()()

 こちらが一モーション繰り出すのに対し、敵はまだ半モーションしか終えていない。

 新装備による能力値の向上は、アイアンシリーズがただの重りだったのではないかとすら思わせた。……初期装備だから当然ではあるのだが。

 振り下ろされるソードを難なく潜り抜け、甲冑の間、関節部分にナイフを刺し滑らせる。

 そのまま一気に駆け抜けて、壁を背にして構え直した。


 ――《ソロ》のパーティは、包囲されることだけは避けなければならない。

 というのも、モンスターたちは〝敵対心〟を基準に攻撃するターゲットを決めている。

 挑戦者のレベルや与えられたダメージの多さ、発動したスキルの深度などをAIが総合的に判断し、最も脅威な相手に〝敵対心〟を向けるわけだ。


 《スクワッド》や《デュオ》なら敵対心を誘導して戦況のコントロールができるのだが――《ソロ》ではそれも不可能。必然的に巧みな立ち回りが要求される。

 そういう意味では、敏捷性の高い俺はソロに向いているとも言えるが。


「キョウイ更新――シュツリョク上昇」


 危険を悟ってモードが移行、聖衛兵の構えが上段から下段へ変化した。

 ゲームでは当然の挙動だが、これなら余裕で倒せる――と、考えるのも束の間。


 ……なんだこのモーション、見たことねぇ――


 魔眼に映った攻撃モーション、聖衛兵の下段突きなど俺の事前知識にはない――

 ――が。その程度の想定外では埋まらない戦力差、紫紺のナイフが刹那に(ひらめ)く。

 斬り裂いた首筋から光が溢れ出し、カランとソードが地面を打って。


「キノウ、テイシ……」


 五体の聖衛兵ヘイムが崩れ落ちた。

 残ったのは心地いい静寂と、いくつかのドロップアイテムで。


「今のがAI――つまり神サマの調整、攻撃モーションの変更か。……うん、危なかったな」


 知識に頼りすぎるのも考えものだなと、散乱するアイテムを拾い集める。ドロップしていたのは『聖衛兵の結晶』『聖衛兵の霊血』『聖鎧の欠片』――そして。


「『聖衛兵の心核』……? コアより上位のレアアイテムが追加されたのか」


 挑戦者の能力値配分、モンスターのモーション変更、さらにはドロップアイテムの追加。果てはリアルタイムでのターゲット選択まで、神サマの仕事は思いのほかに膨大らしい。

 などと考えていたら、ピロン――と新しいスキル獲得の通知が届いた。


【 短剣習熟:武器『ナイフ』の装備時、全能力値が1割上昇する:深度〝15〟】

【 スイッチ:攻撃・移動モーションの切り替え速度が上昇する:深度〝18〟】

【 連撃:複数のモーションを一つの攻撃モーションへと変換する:深度〝28〟】

【 背水:三つ以上のターゲットを受けた時、筋魔力が3割上昇する:深度〝33〟】


 成果が見えるのはゲームの醍醐味だ。そして意気揚々と……二時間が経過して。

 第二分岐から第六分岐まで、押し寄せる衛兵軍団を斬り伏せながら駆け抜ける。

 時にはソードがランスに持ち替わり、隊長のようなハイモンスターも出てきはしたが――肝心の討伐対象が見つからない。

 すでに現在地は第七分岐。これではエンカウントできずにダンジョンが終わる。

 レア素材集めに周回は必須か――と、諦めかけた時だった。


「\汝に、警告を授けよう――\」

「いた――ッ!!」


 頭上に光輪、背中に翼。憂いの表情を浮かべ『聖天使ハラリエル』が出現した。

 数は一体、レアモンスターはエンカウントが困難な代わりに貧弱な個体が多く。


「\セイクリッド・ヘリックス\」

「ここで会ったが百年目、あばよッ――!!」


 螺旋の魔法攻撃を撃ち落として、決着は一瞬だった。

 恐るおそるドロップアイテムを確認すると――


「『聖天使の羽根』ゲット――クエスト完了っと!」


 ドロップしていたことに胸をなでおろした。これで心置きなく帰還できる。

 ダンジョンのゴール地点ももう間近、全体で三時間弱かかったが、しかし。

 経験値やアイテムが手に入り、新装備の使用感も良好。ソロでも戦えることが分かったし、何よりクエストが達成できた。今日の成果としては十分だろう。

 軽い気持ちと足取りで九枝最終の第七分岐を抜けると、出口のビフレストが見え始めた。

 ――と、同時に。


「……なんだ?」


 ――ビフレストの前に、()()()()

 はぐれのモンスターか、もしくは一匹でスポーンしたか。いや、ならば神サマが追加した新モンスターという可能性もあるかもしれない。

 エイルに自慢してやろう――驚く顔を期待してその〝何か〟に寄っていくと。

 そこには二本足で直立した、衛兵に似た人型のモンスターがいて――……人型?


 いいや、何かがおかしい。こいつは人型というより――


「人そのもの――()()()()()()()()()!?」


 瞬間、その〝プレイヤー〟は振り向いた。


()()()()――()()()()

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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